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蒼介篇 シリトとハラキリ丸〜壱〜

毎日21時更新します…

車には興味がない。


空港のレンタカーで借りたのはワゴンR。

オレのキャラに合ってるから、じゃあなく単純に安かったからだ。


地平線まで続く一本道をアクセルべた踏みでGO!

対向車もなく平たい風景が延々と続く。


昼間はサングラスがまだ手放せないオレ。

風が恐ろしく強い。

いわゆる、吹きっさらしというヤツだ。


「たまに()いちゃうんだよな……」


バガン! ていう衝撃で驚く事がある。

飛んでいる鳥を轢いた時だ。

向こうは普段通り飛んでるだけ。

出会い頭ってヤツね。

道路を突っ切って轢かれる鹿と同じく、運が悪いとしか言い様がない。


北海道。


道東(どうとう)にある空港からレンタカーを飛ばして南に三十キロ程下ると、電車も通ってない町がある。

そのさらに南西に進んだ酪農地帯を今、オレは行く。


鬼落ちした三十年前から毎年ここに通っている。

東京育ちのオレは初めてこの地に来た時、空の丸さに驚いたもんだ。

地球、丸ゥ! って。


ずっと車を飛ばして昼過ぎに、とある牧場へ到着した。

周りには他に民家すら見当たらない。

あるのは果てしなく続く放牧用の牧草地と原生林だけ。


そこに木造平屋建て一軒家と小さな牛舎に倉庫。

そしてサイロと呼ばれる太めの煙突みたいな貯蔵庫が建っている。

古き良き時代の牧場風景。


牛舎からちっちゃな男の子がポロシャツを着た男と出てきた。


男の子はブカブカのオーバーホールに長靴姿。

丸坊主にゲジゲジ眉と凛々(りり)しい表情。

どこか昭和の香りが漂う。


車から降りたオレの元にころころ駆け寄って来た。


「お帰り蒼介。今二頭種付け終わった!」


ポロシャツの人工授精師さんも笑顔で声を掛けてくる。


「東京面白かったかい。畑仕事始まったら、しっかり手伝え蒼介」

「したっけねー」


車に乗り込んで帰っていく授精師さんを見送る二人。

オレは男の子に向き直ってサングラスを取ると、深々と頭を下げた。

精一杯の敬意を込めて。


「只今、シリト様」  


◆◇◆


四月半ばになっても北海道はまだ肌寒い。

朝夕の冷え込みには(まき)ストーブが大活躍だ。


北海道ではポピュラーな薪ストーブ。

遠赤外線の輻射熱で家全体を温めてくれるし、お湯を沸かしたり調理も出来るから今でも重宝されている。


少し薄暗いリビング。


中央にある薪ストーブで温めた自家製ホットミルクを飲むシリト様とオレ。


「で、どうだったの。同族殺し」


テーブルにマグカップを置いて、脚をぶらんぶらんさせながらシリト様。


「佐部さんです。イメージと違って友好的。ってか、こちらには興味なしって感じです」

「ドラゴンからすれば我々は蟻んこ位の存在かぁ〜」


ケラケラ笑う。

子供に割に背筋がシャンとして姿勢のいいお方だ。


「オレ、この三十年間〝(はかり)〟で色んなヤツ測ってきましたけど。あんな……でたらめな力、初めてで。まるで宇宙人です」


しばらくマグカップをゆさゆさしてから


「シリト様」

「ハラキリ丸かい?」

「佐部さんの存在に気づいて行動起こすかもです。この百五十年間続いた均衡が崩れるかも」

「同族殺しはこちらの争いには興味ないんでしょ」


あの突っ慳貪(つっけんどん)な白スウェットを思い出す。


「今は心を病んで休んでますが所詮竜は竜。戦いに飢えてあちらに利用されるような事になれば」

「この国のおへそに核ミサイル級の不発弾だねー」


眼をまん丸にしてみせる鬼の(おさ)


「シリト様。佐部さんを食客(しょっかく)として迎え入れるってどうですか。そうすれば……」

「それは出来ないよ蒼介。お前はまだ若い鬼だから知らないだろうけどね」


今度は遠い目をしてみせる。

表情豊かなお方。


「百五十年前に彼がヴラド一族のドラクレア騎士団残党を皆殺しにした時に、世界中の鬼の長で話し合って『同族殺しには干渉しない事』ていう決まりが出来た」

「スゲ」

「ただハラキリ丸には関係ない話さ」


残りのミルクを飲み干したシリト様。

マグカップをどん!


「その後だから。ヤツが世に出てきたのは」

それではまた…

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