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須木奈篇 野球帽と泣き虫〜参〜

毎日21時更新します…

翌朝、早番だった私はいつも通り出勤出来ていた。


寮からほっぺたまでの一キロを歩く時も気持ちに余裕があり。

佐部さんじゃないけど上はスウェットで決めてキタ。


本院更衣室で素晴らしく足の綺麗な看護師さんと一緒になる。

新人さんかな。

実に堂々と着替えとる。

ロッカーのドア陰に隠れて脱ぎますけどね、私は。


ほっぺたに出勤すると一階ロビーには犬山・芝山コンビと立花さんがいた。

コンビはテレビを見たり見なかったりで、立花さんは食事中。

ゴミ箱の処理をしながらそれらを眺めてる私。


仲間が一人居なくなってんだけど。

いつも通りか。


そう言えば犬山さんて伊集院さんの舎弟だったっけ。

新聞のテレビ欄を見てる犬山さんの元へコソコソ寄ってく私。


「伊集院さん。よそに行っちゃって寂しいんじゃないですか?」

「うーん。僕、伊集院さんの彼女が好きなだけで。伊集院さんには興味ない。これで彼女にコクれるし」

「え、もし伊集院さん帰って来たらヤバくないですか」


このやり取りの方がヤバい、と思いながらも止めれなかった。


「死んだんでしょ」


えッ…………


「僕の経験上このパターンは死んでると思う。皆もそう言ってるし」


私は思わず周りを見回してしまう。

いつものように腕を組んでテレビ見てる芝山さん。

食パンに苺ジャムをつけて食べてる立花さん。

再び新聞のテレビ欄に目を落とす犬山さん。


普段と変わらない彼らの日常。

他の入居者がいきなり居なくなるコトもまた、彼らにとっての日常。

自分自身が居なくなるコトも含めて。


勝手に〝守ってる〟つもりになってた。


大切なのは彼らが必要とした時に、支えられるかどうかなのに。

私は自分の気持ちを押し付けようとしてただけなんだ。


それでも、と思う。

今の気持ちを分かち合えないのは辛いなぁ……


ゴミをまとめると逃げるように本院のゴミ捨て場に直行する。

パンパンに詰まった袋を三つ持って。


「え、ウソ」


目の前で交差点の信号が赤になってしまった。

ついてないわー。

ゴミ袋たくさん抱えて。


私は泣いていた。


声は出さずに涙だけダーダー流して。

こんなんじゃ一歩も踏み出せないマジで。


「そんなに渡りたかったのか」


いつの間にか佐部さんが隣に並んで立ってた。


「あふ、おおはようございま……す」

「うん」


二人並んで信号待ち。

彼はいつも用がある時しか話掛けて来ないのに。

今、私を気遣ってくれたの?


自然と気持ちが…………溢れ出す。


「朝、一階のロビーに行くとね。いつも『隣に座って』ってゼスチャーしてくる。子供みたいな笑顔で」

「うん」

「野球の話ばっかしてくるの。私、野球全っ然わかんないのにィ」

「うん」


ヤバ……


「怒った時は目玉飛び出しそうになる。サンマの目みたいに真ん丸なんだよ」

「うん」


止まらん……


「でも……もう、居ないんだよなぁ」


苦しい……


「あの時、あーすれば良かったし。あん時もそう。色々してあげれば良かった……ちくしょ〜ッ」


涙が溢れる……


「ダメダメ人間だ、私……」


頭をポン! てされた。


「?」

「瀬見はそれでいい」


これでいい……

こんなんでもいいの?


「それがいいんだ」


これでいい、て言ってくれる人がいる。


あぁ、泣いてる場合じゃないなぁ。

早く大丈夫になろう。

私は世話人なんだから。


信号が青になった。

それではまた…

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