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須木奈篇 リハビリ野郎とSS姉さん〜伍〜

毎日21時更新します…

「ミ、ミハエラッ……げほげほ」


金属製の首輪内側には波状の刃がぐるりと並んでいて肉に食い込む。


「ヒューイ! マリアがッ」


ミハエラが必死に訴えかけるが、獣達のせいで側には来れない。

僕は朦朧(もうろう)とした意識の中でその状況を理解した。


「ふむ、聞こえるぞヒューゴ。絶望に至るまでの激しい警鐘が」


満足そうに見下ろす若き姿の王。

僕はふらつきながら前に出る。


「恐怖だな」

「お願いしますっぺさ殿下。ミハエラ……マリアを」

「それは此奴等(こやつら)が決めるのだよ」


もう僕に目をやる事もない。

人差し指を立てる。


「我が眷属(けんぞく)三十七のドラクレア騎士団。ビクター」

「仰せのままに殿下」


短髪の赤毛、赤髭の青年。

岩のような筋肉が黒のプールポワンを盛り上げている。

決して大男ではないが北欧神話のトール神を思わせる覇気があり、彼もまたウォーハンマーを(かか)げている。


僭越(せんえつ)ながら」


グローブのような手を左右に振る。


「バンパイアの王にあらせられる殿下に対し、二度までも無礼を働いた男許すまじ!」

「バンパイア……」


その時初めて自分に敵意を向けるこの集団が、人外の者であると知った。

闇に縛られ、この世の理から外れた生ける屍達。


そして。

僕は恐れるのを止めた。


「これから其奴(そやつ)の目の前で、女房を我ら騎士団で回し食いいたしまするッ」


ビクターは手をパンパン叩きながら周りを見回す。

皆笑っている。


静かに妻を見た。

彼女は最初から僕しか見ていない。

最愛の女性。


ミハエラと共に生きる。

それだけが僕の人生だ。


「ヒューイ!」


力を振り絞って腰のナイフを素早く抜くとミハエラに投げる。

受け取った彼女は、一瞬の迷いもなく喉に突き立てて絶命した。


眉毛をへの字にするビクター。

ミハエラの死体を引き摺り起こすと手に噛みつく。

指が拳から三本食い千切られた。


僕がミハエラの元に行こうとすると鎖がぎゃりん、と伸びきって首輪の刃が食い込む。

眷属が順に彼女の体を食い千切っていく度にぎゃりん、ぎゃりんとなって首から血や肉が飛び散る。


三十七人が食い終わる頃。

首の肉は(えぐ)れ、血管から血がぴゅううと噴水のように吹き出した僕は赤で染まっていた。

息もしていなかったが、それでも立っている。


「…………お前らの顔は忘れない……地獄の底から蘇って……一人ずつ、八つ裂きにしてくれよう!」


ゆっくりと公爵を見上げた。


「あなたもだ」


ばたと倒れる。

痙攣。


王はゆっくりとその腰を上げると「ふわり」と血だらけのステージに降り立つ。

頬が薔薇色に紅潮(こうちょう)している。


「面白いがな、お前は余の眷属となり忠誠を尽くすのだよ」


自身の手首をナイフで切り、僕の首にその汚れた血を振り掛けた。


実に楽しそうに。


◆◇◆   ◆◇◆   ◆◇◆   ◆◇◆


ガタタン、ゴトトン。


私は声を失っていた。


この話を……いつもの妄想話として聞くコトが出来ない。

何故なら私もこの光景の一部分に触れていたから。


『白い壁に囲まれた場所。大勢の男達と若い女性の首を掴んでいる男性。その側にうずくまる…………』


バンパイア云々(うんぬん)のところはどう考えていいのか。

正直よくわからない。

それでも、だ。


この人の〝今〟を繋ぐ為に、最後まで聞かなければいけないと思った。


「……それからどうしたの?」

「僕は世界中を旅して、鍛練を積んで、情報を集めて、1711年にやっとこさあの人を倒した」


淡々と語る佐部さん。

そこに感情はない。


「二百五十年かかったけど」


駅を出ると小雨が降ってた。

やべ、傘持って来なかったな。


佐部さんは迷う事なく歩き出していた。


彼の頬をつたう雨。

これが涙ならいいのに。

それではまた…

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