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須木奈篇 バツイチ親父とキラキラ女子〜弐〜

毎日21時更新します…

火曜日。


十二時半。

昼のほっぺた帰宅組、立花さんが戻って来た。

デイケアの昼休みに帰ってくる入居者さん達がいる。

ほっぺた、デイケア間は徒歩一分なんで。


立花じいさんはロビーで連続テレビドラマを見るのが日課だ。

私は沢渡情報を手に入れるべく、それとなく立花さんに話を聞いてみるコトにした。

何故ならこの小老人、ほっぺた内では常に彼女にくっついて行動してる。

ガチの沢渡マニアだから。


今、ロビーには立花さん一人。

水筒に入れたお茶を片手にテレビ観賞中。

スラックスのズボンにカッターシャツをきちんとIN。

お母さんの教育が良かったんだね。

女性に抱き付くコト以外、特に問題のない人。


「立花さん、ちょっといいですか?」


左サイドから中腰で声掛けする。

あまり距離が近いとお触りされてしまう。


「須木奈ちゃん、こんにちは!」

「こんにちはー。昨日はよく寝れました?」

「よく寝れました」

「何時に寝れました?」

「九時です!」


入居者さんにとって睡眠はとても大切。

状態の安定には服薬以外に『規則正しい生活リズム』が欠かせないから。

就薬には眠剤が処方されてる。


「九時まで何してましたか?」

「瑠衣ちゃんと佐部さんと一緒だった!」


ビンゴ。

やはり彼女は佐部さんとの接触を試みてたんだな。


「三人で何してたんですか?」


一瞬フリーズする立花さん。


「あ、もし良かったらでいいですよ」

「えーっとね、瑠衣ちゃんが佐部さんに須木奈ちゃんとどっちがタイプ? て聞いてた」


頑張って、思い出して、説明してくれた。


「楽しかったですか?」

「うん。瑠衣ちゃん怒ってたけど」


思わず右手を突き上げる私。


◆◇


私はこの日遅番。

退勤前に施設内チェックで各階を回る。

水回りの閉め忘れや落とし物、他異常がないかを確認。


五階フロア。


ここは、ほっぺたで唯一の女性階になっていてエレベーター前のフロアドアはオートロック付き。

でも女性入居者は沢渡さんひとりだけ。

いわゆる『ぼっち様』状態ね。


いつも通りドアを開錠しようと鍵束を差し込んだ時、違和感が。


何だろ、この感覚……


まだペーペーの私だけれど。

普段と違う雰囲気のようなモノは、この仕事で入居者さんに接していると感じる時があって。

それは本人に会わなくてもアチコチに残ってたりする。


少し緊張して中へ。

フロア内は真っ暗だ。

唯一の明かりが開けっ放しになっている共用トイレから漏れてた。


「?」


誰も入ってない。

そこから床に水滴の様な跡がポタポタと。

風呂場まで続いてる。


「何? コレ……」


ナイトケアから帰宅時の彼女の様子を思い起こす。

特に変わりなかった。


これまた共用の風呂場の方から……バタバタ音がする。

やはりドアが半開き状態。

そっと覗いてみる。


脱衣場にはカゴからはみ出した服が散乱していて。

下着が洗濯機に突っ込んであるのが見える。

トイレで失禁してシャワーを浴びてるらしい。


その時、洗い場から歌が聞こえて来た。


「おっばけーおっばけーおっばけっけーおっばけーおっばけーおっばけっけーおっばけーおっばけーおっばけっけーおっばけーおっばけーおっばけっけー」


大声でずっと歌ってる。

浴室ドアのガラス越しに浮かぶシルエットはシャンプーハット姿だった。


「一人で洗えるよーッ! 怖くないよーッ! キャハハハ」


まるで子供のようにはしゃぐ沢渡瑠衣。


私は少し躊躇(ちゅうちょ)つつ、黙ってその場を離れた。

それではまた…

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