須木奈篇 バツイチ親父とキラキラ女子〜壱〜
毎日21時更新します…
日曜日。
ほっぺた職員は早番なしの十一時から二十時、ひとり遅番勤務をする。
この日は自分のペースで気楽にやれる反面『何かあった時』の対応もひとりだから怖い。
私の場合、最初の日曜勤務はスマホが手離せなかった。
「犬山さんが朝と昼の薬間違えて飲んでました!」
白木さんに指示仰ぐ。
「立花さんがスーパーで女性店員に抱きついちゃいました!」
白木さんに指示仰ぐ。
まだ今日で三回目の日曜ひとり勤務。
ぺーぺー野郎なんです私。
とりあえず本日は何事もなく皆さんお過しいただいたようで、ほっと一息つく。
そろそろ晩ご飯や買い物で外出していた組が帰って来る頃だ。
「ただいま戻りました〜」
三〇二号室の島田さん。
色黒で上背はないけどガッチリした角刈りの三十歳。
ペンギンのイラスト入りピンクのスウェット着用。
「お帰りなさい」
彼が事務所受付のカウンターに肘をつくとお喋りタイムがスタートする。
「…………瀬見さんて独身?」
「あ、そうですね」
「僕ねー、学生の時結婚してて。小学生の息子いるんですよー」
この人確か大学生の時に発症してるから。
結婚生活がトリガーだったかも、と薄い知識で推察してみる。
「コレ。息子漫画好きなんで毎月買って送るんです」
そう言って嬉しそうに買ってきた本を見せてくれる。
すべてBLのタイトル。
「……いいお父さんですね」
島田さん、自慢気な表情。
出目が飛び出しそうな程笑う。
◆◇◆
月曜日。
朝の八時半、ほっぺた四〇三号室前でドアを叩く私。
ドンドンドン。ドンドンドン。
「佐部さーん。デイケアーッ」
応答なし。
鍵開けますよー、入りますねー、ガチャ。
定例化しつつある朝のルーティン。
ベッドに寝てスマホをいじってる佐部さん。
ス、スマホ? 想定外の光景に出鼻をくじかれた。
「……何してんですか」
「アニマルの森」
「……いつスマホ買ったんですか」
「昨日」
「ケータイ持たない主義でしたよね」
「沢渡が世話してくれた。あ、またライン来た」
ライン、というワードに少し狼狽える。
誰からよ?
「ひょっとして……沢渡さんから?」
「うん。既読スルーって技使ってる」
何故だかほっとする私。
既読スルーって。
「とにかく準備してデイケア」
「コアラが相談にのってくれって」
「デ・イ・ケ・ア!」
昼の十時半。
事務所での申し送り準備。
白木さんに〝沢渡さんが佐部さんへ干渉している件〟について報告する前に、フェイスシートで彼女の情報を復習してみた。
『沢渡瑠衣二十三歳。解離性障害。両親共に麻薬中毒者で幼少の頃より虐待を受けており十歳の時に父親が警官に暴行を働き射殺。母親は行方不明となり以後は母方の祖母に育てられた。十二歳の時、興奮状態となり入院。情動不安定・幼児退行の解離症状が認められる』
このデータ、頭には入ってたけど。
改めて見直すとキラキラ女子の壮絶過ぎる過去に衝撃を覚えずにはいられない。
こんな人生って……私なんかがどうやって介入すればいいのか?
思わず頭を抱えた。
同じ早番の田中さんに相談してみる。
「彼女、男性入居者を支配下に置かないと気が済まないんスよ。あたし沢渡さん苦手なんで」
あっさり逃げられた。
成る程、職員も人間だから苦手な入居者がいて当然。
私はどうなんだろって考える。
女性として対峙した時の圧倒的な敗北感はともかく。
彼女が男性入居者に振り撒く〝ねちねちした感じ〟には嫌悪感を抱いてしまう。
それが佐部さんに、と考えると……落ち着かん。
てか、不快だ!
けれど白木さんは的確な指示を与えてくれた。
「沢渡さんは人格障害もあるから、多少の対人操作をしてくると頭に入れた上で。佐部さんとの距離感に気をつけて見守りましょう」
そうだよ。
私の持つ沢渡さんのイメージを症状として説明すると、そういうコトなんだ。
「皆さん様観で」
しゃッ!
それではまた…




