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庇護欲をそそる王子様と庇護欲をそそらないお姫様  作者: まくのゆうき


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着せ替えブレンダ

お忍び外出の当日。

ブレンダがエレナを迎えに行くために部屋を訪ねると、エレナと普段いない人数の侍女たちに迎えられた。


「ブレンダ、今日はありがとう。とても楽しみだったの。早速着替えから始めましょう!」

「着替えでございますか?」


ブレンダが驚いて思わず周囲を見回すと、侍女たちは大きくうなずいた。


「お兄様からは貴族の令嬢がお買い物するという設定だと言われているもの。ブレンダは、今日は私のお姉様。一緒に並んでも私が姉には見えないでしょう?」

「そうですが……」


エレナの言う通り姉妹というなら自分が年上であり、背も高いのでどう見ても姉だろう。

だが、そもそもどうして姉妹なのだろうとブレンダは首を傾げたくなった。

エレナが令嬢に見えれば、別に護衛がついていてもおかしくはない。

自分は街に詳しい護衛として、エレナと一緒に出かけるつもりだった。

確かに息抜きをとクリスは言っていたが、そんなのは建前で、これは仕事だという認識だ。

そのため、まさか自分まで令嬢として出かけることになるとは思っていなかった。


「それでね、今日のために気合を入れてお洋服を選んだのよ」


エレナはブレンダから少し離れてくるっとまわって見せた。

ひざ下丈のスカートがひらひらと開いて、下ろしている髪もふわふわと舞っている。

はしゃいで回ったエレナは人形のようにかわいらしい。

それを微笑ましく見ていると、ドレッサーから同じデザインの服が取り出された。

丈から考えると自分のものに違いない。

どうやら用意された服はお揃いのようである。

エレナは自分に着せる服を見せたくて回っていたのだ。


「エレナ様は変わらずおかわいらしいですし、そちらの服も大変お似合いですよ。ですが、私はこのままでも……」

「それじゃあお忍びにならないわ?ブレンダはこういう服が嫌い?」


回るのを止めてエレナはブレンダの元にやってくると、じっと見上げた。


「……騎士になってからはこのようなものを着る機会はありませんでしたので、何と申しますか……」

「大丈夫よ!ブレンダは美人だもの。だから絶対に似合うわ」


エレナの期待値が大きすぎて断れない。

それにこれはエレナへのご褒美という名目なのだ。

クリスもエレナのやりたいようにできるだけ要望に沿ってということを希望していた。

ブレンダは諦めて大きく息をついた。


「わかりました。このままではお出かけの時間が短くなってしまいますし、せっかくご用意いただいたのですから、お願いします」



着替えることを受け入れたブレンダは、気合の入ったエレナの侍女たちによって着替えやメイク、ヘアスタイルまでしっかりと整えられることになった。

夜会とは違い、街に行くのでコルセットなど体を締め付けるものを着用しなくてよいのはありがたいとブレンダは思ったくらいだったが、彼らはなぜか自分を着飾ることが楽しいらしい。

侍女たちはとても楽しそうにしているし、エレナもそれをずっと笑顔で見守っている。

確かに普段男っぽい自分を、エレナの頼みで女性に変装させると考えたら、やりがいを感じるというものかもしれない。

ブレンダがそんなことを考えているうちに着せ替えは完了した。

そして完成した姿を見てエレナと侍女たちは満足そうに顔を見合わせると、ブレンダを鏡の前に案内した。

ブレンダは久しく見ていない令嬢の姿をした自分の姿が映っていることに複雑な感情を抱いた。

常に騎士として、男性にも負けないかっこよさを騎士団に在籍してからは意識するようにしていた。

弱々しい人間が女性騎士にいないことを知っていたし、そのような者を求められていないことも解っていた。

けれど女性として、女性を粗雑に扱うことはしたくない。

自分が男性と同等に扱ってもらいたいと思っているように、他の女性だって一部を除けば対等ではなくても一人の人間として丁寧に扱ってもらいたいはずである。

そしていつの間にか、近衛騎士として認められ、女性に優しい、女性の求める理想の男性のようなものを体現していくようになっていた。

そうした結果が、なぜか今の女性人気となった。

最初は男性騎士から妬む声もあったが、男性にも負けない能力や地位を持つようになってからはそういうことも言われなくなった。

そしてブレンダ自身は、いつしか令嬢ではないものになったのだ。


「一応貴族なもので、このような格好をしていたことがありますが……騎士になってから、剣を離したことがないもので……帯剣していないと落ち着きません」


鏡に映った自分をチェックするふりをしながら、ブレンダは苦笑いを浮かべた。

ブレンダからすればエレナの侍女が自分の衣装でミスなどするはずがないと思っているので、特にチェックをする必要もないのだが、そうして問題ないと伝えなければ、彼女たちが不安だと思ったためそうしているのである。


「でも、騎士のままというわけにはいかないもの」


理由は分からないが、エレナはどうやら令嬢、姉妹という設定に強いこだわりがあるようだと感じながらも、ブレンダは言った。


「せめて紳士の服であれば帯剣しても問題なかったのですが……」

「それだと美しい女性としてのブレンダが、いつものブレンダになってしまうわ」


エレナは不思議そうに目をパチパチしながら首を傾げた。


「いつもの……。そこまで私のことを意識してくださって光栄ですが、でしたらなぜこのようなことに……」

「だって、皆はブレンダに美しい男装と目の保養を求めているかもしれないけれど、私には必要ないもの。むしろ、騎士団長という同じ師を持つ同士とか、頼りになる先輩とか、お友達として接してみたかったのよ。それには男装も鎧も不要だわ。私、本当はブレンダを普段からお姉さまと呼びたいもの」

「エレナ様……」


ブレンダがそうつぶやくと、エレナは少し考えてから言った。


「服装のことが気になるというのなら、今度はブレンダが私に男装を教えてちょうだい。着ているものが変わるだけで何だか強くなれそうだし、気分が変わって楽しそうだわ」


自由の少ないエレナが着替えだけで気分を変えられそうだと、少し嬉しそうに話すのを、ブレンダは複雑な思いで聞くことしかできない。


「私、お金を使ってお買い物をするのも初めてなの。お財布を自分で持つのは緊張するわね」


斜めにかけられた鞄をそのまま両腕に抱えてエレナは嬉しそうである。


「そうですね。エレナ様の初めてのお買いものに同伴できて光栄です」

「じゃあ、準備もできたのだし、行きましょう!」

「はい」


エレナはブレンダの返事を聞いて、部屋のドアを開けて廊下に飛び出していった。


「行ってらっしゃいませ」


大勢の侍女たちに頭を下げられ見送られながらブレンダも部屋を出るのだった。

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