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庇護欲をそそる王子様と庇護欲をそそらないお姫様  作者: まくのゆうき


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庭師を説得したもの

エレナが休憩中お茶を飲んでいると、別のところで手を清めてきたブレンダがエレナに声をかけた。


「エレナ様、いかがですか?初めて土を耕してみた感想は」

「とても大変だということがよく分かったわ。お花も野菜もこうして作られるのね」


カップをソーサーに戻して、エレナはブレンダの方を見た。


「これが最初の作業です。種や苗を植えてからも、手入れや世話が必要ですからね。ですが、耕すのがおそらく一番の重労働でしょう」

「そうなのね。まだ一列しかできていないのに、疲れていてはいけないわよね」


そう言って立ち上がろうとするエレナをブレンダは止めた。


「無理をする必要はありませんよ。今日はこのくらいにいたしましょうか。この場所にはこれから花を植えなければならないため、残りは職人に任せますが、本来の目的は達成できそうですから」

「本来の目的?」

「はい」

「そうなの?」


エレナはこれができるようにならないと先には進めないのではないかと不安だった。

お世辞にも仕事として役に立つレベルには達していない。

まだまだ練習して、年下の少年と同じようにできるようにならなければと思っていた。

しかし実際に体を動かそうとするとすごく重たく、立ち上がろうと踏ん張るとテーブルに手をついたままよろけてしまう。

座って休憩をしたことで急に疲れが出たのだろう。


「大丈夫ですか?疲れが出て眠くなってしまったのでしょう。今日は頑張りましたし、その状態で鍬を使ったら怪我をします。お部屋に戻って湯浴みなさってお休みください」

「ブレンダが言うなら、そうするわ」


とてもこの後再びあの重労働に耐えられる体力はないと自分でも感じたエレナは素直にブレンダの言うことを聞くことにした。


「はい。では、お茶が飲み終わりましたら戻りましょう。私は道具を返して、職人に残りの作業を伝えてまいります」

「お願いね」


話がまとまると、ブレンダだけではなく侍女たちもすぐに動いた。

エレナが部屋に戻ってすぐに湯浴みできるよう準備をするためである。



借りた道具を返しに来たブレンダが庭師に声をかけた。


「今日は助かりました」


ベテランの庭師は鍬を受け取って、大きくため息をついた。


「正直、最初は断ろうかと思ったんだ。作業が遅れてどやされるのはこっちだし、仕事は遊びじゃないって。もし耕すんじゃなくて土に興味があるんだったら、鉢でなんか植えてもらえばいいだろうって準備もしておいたんだがな。まさか土いじりじゃなくて、本当に耕したいと言われるとは思わなかったが、まあ、やってもらえれば少しはこちらの苦労も解ってもらえるってもんでしょう」


耕すのではく何か植えてみたいなどとかわいいことを言ってくるのなら、空けておいた花壇の片隅で少し大きい鉢でも渡して、苗の一つでも植えさせておけば満足するだろうと思っていた。

その間に隣で作業をするのは問題ないだろうと、そういう準備も進めていたのだ。

ところが当日、ブレンダは鍬を借りに来た。

しかも実演してほしいとまで言う。

確かにもともと季節の花を植える前の花壇を使いたいと言われていたのだから、場所も道具も貸さない理由はないのだが、本当はどうなることかと思っていたのだ。


「そうですね。エレナ様は皆の仕事を少しずつ体験されていますが、その度に、それぞれの仕事の大変さや難しさを理解してくださっていますよ」


ブレンダがそう主張すると、庭師は渋い顔をした。


「……ただな、料理長がなぁ、エレナ様は本気だと思うって言うし、実際エレナ様の調理の腕は格段に上達してて、その時のメシの具がさ、エレナ様が下ごしらえしたものだ、他の料理人の具と区別つかないだろうってさぁ。あまりにも熱心に言うからちょっとくらいならいいかってな。まさかエレナ様が鍬を握る日が来るとは」

「なるほど、料理長のおかげだったのですね」


たまに庭の手伝いに来るブレンダの頼みでも、彼がスムーズに話を受け入れたことが少し不思議だったが、その話を聞いて納得した。

年齢も近く、長い付き合いの料理長が今回の話を耳にしてそれとなく根回ししてくれていたのだ。

それもただ話をするだけではなく、エレナが結果を出していることをしっかりと見せるあたり抜かりがない。


「いや、でもまぁ、やらせてみりゃあ、素人だから作業は遅いけど、真面目に取り組んでいることは遠くからでも見てりゃ分かる。料理長が弟子みたく面倒みようと思ったのもわからんではない」


エレナが危なっかしいながらも、懸命に鍬を振り上げようと頑張っている姿は微笑ましくも映ったらしい。


「エレナ様はものすごく努力をされる方ですからね。そう言っていただけると私も嬉しく思います」

「まあ……気が向いたら来期も来ればいい」


庭師がぼそっとそう言ったのを聞いてブレンダは嬉しそうにうなずくと、後のことをお願いし、エレナの元に戻ることにした。



「エレナ様。お待たせいたしました。お部屋までエスコートいたします。まいりましょう」

「ええ、そうね」


エレナはブレンダに体を支えられて立ち上がると、どうにかブレンダにエスコートされる形で部屋まで戻った。


「今日はありがとう。なんだか眠たくてふわふわしてしまっているわ」

「はい。私のことは気にせず、湯浴みをしてお休みください」

「ええ、おやすみなさい」


おやすみとは言っているがベッドにそのままあげるわけにはいかない。

侍女たちはふらふらしているエレナを支えながら湯浴みで体をきれいにして、寝間着を着せた。

そしてようやくベッドに寝かせられるようになった。

寝間着を着せられたエレナは、ふらふらしながら自分でベッドに近づいていき、ベッドにもぐりこんだ。

そしてそのままぐっすりと眠りこむのだった。



エレナが目を覚ましたのは夕食前の時間だった。

寝間着から急いで着替えて夕食に向かう準備を始める。

午前中に土を耕し、ふらふらしながら部屋に戻って、それからの記憶がない。

寝間着を着ているし、体に土が付いていないので侍女たちが湯浴みをさせてくれたのは分かる。

熟睡できたからか、今は頭がすっきりしているのだ。


「私、お昼はずっと寝ていたのかしら……」

「はい、昼食はとらずにお休みになっておられました」

「そう……。みんなが湯浴みをさせてくれたのね。ありがとう。面倒をかけてしまったかしら?」


エレナは覚えていないが、エレナはふらふらしながらも自力で移動していたし、さほど苦労をかけられたことはない。

侍女たちがそう説明すると、エレナはほっとした。


「それならよかったわ。私は体力が足りないのね。午前中に少し長く体を動かしただけでこんなことになってしまうなんて……」


そう言葉にして少し落ち込みながら、エレナは体力をもっとつけなければと心に決めたのだが、そんな決心をしていることに誰も気付く者はいないのだった。

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