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庇護欲をそそる王子様と庇護欲をそそらないお姫様  作者: まくのゆうき


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守るべきもの

クリスの元気な姿を見て朝食を終えたエレナは着替え終わると早速訓練場に向かった。

父親と兄の話を聞いて、国民を守ることは、王族として生まれ自由はないけれど不自由のない生活をしている者の務めだと改めて認識したのである。

そして守るべき優先順位というものがあるということも何となく解った。

国民を守るためには国王と皇太子だけは敵に渡してはならないのだと、エレナは考えたのである。


「エレナ様、今日はずいぶんと気合が入っておりますね」


扱いを覚えた弓を引いている様子を見て騎士団長が声をかけた。

力いっぱい引いているので矢は勢いよく飛んでいくが、なかなか正確に当たらない。

エレナは騎士団長と話すため一度弓を下ろすと騎士団長の方を向いて言った。


「ええ。この間のお兄様の話を聞いたわ。お兄様だけじゃなくて、関わったベテランの騎士たちかあんなに疲れるような訓練だもの。私もやる日が来るって言われたから、その日に備えなきゃ、って思ったら、なんだか力が入ってしまったみたい」

「そうですね。少し力みすぎです。次はご自身で直せるようになりましょう。そうしてコツを掴んでいけばよいのです」

「わかったわ」


そうして騎士団長のアドバイスを受けながらエレナは再び弓を引き始めるのだった。



弓の訓練を終えたところで、エレナが騎士団長に相談を持ちかけた。


「ねぇ、騎士団長、また体力測定に参加できないかしら?」 


騎士の嫌う体力測定にわざわざ参加したいと申し出てくるエレナを不思議そうに見ながらつぶやいた。


「体力測定ですか……」

「入団する騎士たちと一緒なら、私一人のために準備しなくてすむでしょう?」

「確かにそうですが……」

「次回入団する騎士たちと同じタイミングでいいの。だめかしら?」


明らかにしぶっている騎士団長を説得しようと、エレナは言葉を選んでいく。

エレナが体力測定を通してやりたいことは二つ。

一つは次回までに自分がどれくらい騎士に近づいているのかを知ること。

もう一つは、未だに弓とナイフしか扱わせてもらっていないので、次回までに剣の扱いを学ぶことである。

ナイフを持ち歩く習慣を身に付けたエレナだが、いざという時はやはり剣の方がいいような気がしていた。

ナイフで矢は落とせなくても、面積の広い剣なら矢は落とせるのではないかと、ナイフを使いながら考えるようになったのである。

もちろんナイフと剣では用途が違うということは分かっているし、ナイフを剣のように扱うことがないというのも知っている。

だからこそ、使い方の違う剣の扱いを覚えておきたいのだ。

しかし前回の体力測定では剣の扱いどころか、構えることすらできなかった。

持ち運ぶことができても、戦うことができないのなら剣などただの鉄の塊であり、何の役にも立たない。


「私、それまでに剣を振れるようになりたいわ。前回は持ち上げることすらできなくて、次こそって思っているの」


じっと騎士団長を見つめてエレナは懇願すると、騎士団長は大きく息をついた。


「そうでしたか……。使うことはないかと思いますが、剣は振れるようにお教えしましょう」

「嬉しいわ!ありがとう」


体力測定まではまだ時間がある。

とりあえず剣を教えるということで、体力測定への参加に関してはうやむやにしたが、入団式の頃、再び問われるに違いない。

ブレンダを見本として連続で参加させると、体力測定が嫌いなブレンダから恨みを買いそうである。

今度はブレンダを記録係にして、別のものを見本として出すしかない。

騎士団長が頭を悩ませているとも知らず、次回の測定も頑張ろうとますます気合の入るエレナだった。



数日後、約束通り騎士団長はエレナの訓練のため剣を用意していた。

剣はエレナ専用のものではなく、体力測定で使う一番軽いもので、鞘に納めてある。

その剣を見たエレナは、顔をほころばせて言った。


「騎士団長、これは体力測定で私が持てなかった剣と同じものよね!」

「はい、よくお分かりになりましたね……」


目を輝かせているエレナに対し、騎士団長は苦笑いを浮かべている。


「ええ。だって、この剣は私が最初に克服しなければならないものだもの。再挑戦までにこの子を自在に操れるようになりたいわ!」

「自在にですか……」

「難しいかしら?」


目の前の台におかれた剣から視線を上げたエレナに、騎士団長は答えた。


「そうですね、騎士でも剣を自在に操るのは難しいので、そこまでになるにはかなりの年月がかかるかと……」

「そう……。でも、剣を使わせてもらえるのは嬉しいわ」


少しがっかりしたように再び剣に目を落としたエレナに、今度は騎士団長が声をかけた。


「これは、お願いなのですが……」

「何かしら?」


まさか見せるだけだったと言われたらどうしようかと少し不安そうにしていると騎士団長は続けた。


「その剣は本物です。危険なのでうまく扱えるようになるまでは鞘から剣を抜かずに訓練を行いたいと思います。それでよろしいですか?」


剣だけを持つより、鞘が付いている方が重たくなるが、振り上げる練習をするだけならばあってもなくても問題ない。

同じ重さ、同じ長さなら本物である必要もないだろう。

だが、あいにく騎士団にそのようなものはない。

それに前回の測定結果から考えるとエレナが剣を持ち上げる時に落としたり、誤って自分の体に刃の部分が触れてしまったりする可能性は極めて高い。

剣が剣として機能しない状態の方がより安全だと考えたのである。


「ええ。問題ないわ!私はいざという時のために使えるようになりたいだけで、人を傷つけたいわけではないもの」


エレナがそういう人物ではないことは分かっていたが、権力者が権力のないものに向ける圧力と同じように、まれに人に剣を向けることで優越感に浸るような者もいる。

エレナが剣にこだわる理由はよくわからないが、とりあえず使えるようになれればいいというのは素直な思いのようである。

そんなエレナの回答に騎士団長は胸をなでおろした。


「ご理解いただけて何よりでございます」


こうしてエレナは希望通り剣の訓練も受けられるようになった。

弓、ナイフ、剣と扱うものが増えて訓練場で過ごす時間が少しずつ延びていく。

クリスが学校を卒業してから特にお迎えの時間を気にする必要がなくなったため、夕食の前まで時間が使えるようになったことも大きい。

こうして訓練場に通い続けるうち、エレナはいつの間にか騎士団のメンバーと親しくなっていくのだった。


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