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庇護欲をそそる王子様と庇護欲をそそらないお姫様  作者: まくのゆうき


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覚悟の違い

「ねぇ、エレナ……」


ケインを見送ったクリスが夕食の時間、タイミングを見計らって話しかけた。


「私は先に失礼いたします」

「少しお話したいんだけど……」

「お話することはありません」


さっさと食事を済ませたエレナは冷たい笑みを浮かべて立ち上がった。


「本当に悪いことをしたと思っているんだ、ねぇ、話を聞いてくれないかな?」

「食事は終わりましたので、私は部屋に戻って休ませていただきます」


そう言ってエレナはさっさと食堂から出ていってしまった。

ゆっくりと食事をしているクリスは、ふぅっととため息をつくと、クリスは当日にこれ以上刺激しないほうが良いと考えて、エレナの後を追うのを諦めることにしたのだった。



翌日、重い口を開いたのはケインだった。


「あの……エレナ様は……」

「昨日はダメだったよ……」

「私のせいですね、忠告されていたのに何もしなかったんですから」


ケインは口ごもって視線を落とした。


「ケインは悪くないよ。でも、このままだとエレナと顔を合わせないまま寮に入ることになっちゃいそうだね」

「そう……ですね……」

「まだ時間あるから、もう少し頑張ってみる。せめて普通に話ができるくらいまで落ち着かせてみせるから、また会ってあげてほしいな。ケインが寮に入る前までには何とかするから」


このまま離れてしまっては今後の二人の関係にひびが入ったままになってしまう。

時間が経てば直る可能性もあるが、ひびが大きくなる可能性の方が高い。

そうなればケインの人生をかけた努力が全て無駄になってしまう。

ケインの努力は一緒に学校に通っていたクリスが一番よく知っているつもりだ。


「クリス様、申し訳ありません。とても嬉しいのですが、くれぐれも無理しないでください。エレナ様に傷を負わせたのは私ですから、私の事はいいのです。大事にしてあげてください」

「慎重にやるつもりだよ。無理強いして前みたいになったら困るもの。まだ昨日は夕食も食べていたから、大丈夫だとは思うけど……」


前回エレナは、食事を取らずに引きこもり、果ては倉庫に閉じこもったのだ。

あの時はケインの説得で何とかすることができたが今回同じことが起こったら打つ手がない。

しかもあの時よりもエレナは知恵も技術も身につけている。

今度は倉庫ではなく市井で仕事を探して働き出し、そこに馴染んでしまって見つけられなくなるかもしれない。


「あのようなことを言わせてしまって、エレナ様に顔向けできないのは私も同じです。顔を合わせるのに勇気がいりますね」

「ケインはエレナに会えなくても大丈夫なの?」

「そういう訳ではありませんが……。私は常に覚悟して生きていますから……」

「覚悟?」

「私は大きな失敗をしたり、この道から脱落したりするようなことがあれば、お二人のお側にいることはできません。ですから、そうならないように努力はしているつもりです。それでも何かあればそういうこともあるということを常に意識し、覚悟しているのです。今回の場合はエレナ様が許してさえくれたら私が戻ることは可能なのですから、そのくらいの我慢はできると思っています」

「そう……。わかった」


立場の違いというのは非常に面倒なものだとクリスは思いながら、寂しそうに笑うケインを見て、何が何でもエレナを説得しようとクリスは決めるのだった。



その夜、クリスは食事を終えたエレナの部屋を訪ねてエレナの説得にあたっていた。

エレナは机に向かって座ったまま微動だにしない。


「エレナ、大事な話だから聞いてほしい。ケインが頑張ってるのは僕たちのためなんだ。だから、ケインのことは責めないであげて」

「……」

「僕が必ず、エレナとケインができるだけ近くにいられるようにするから!ケインを早くその立場に上げるには、どうしても学校に進学しないといけないんだよ。そのことをきちんと話さなかったのは僕の責任だから、もし気持ちのやり場がないなら、僕に言ってほしいんだ」

「お兄様にはわからないわ」


ようやく口を開いたエレナからは冷めた言葉しか返ってこない。

そして言葉は返ってきたがクリスの方を見るわけでもなく、表情も凍りついたままである。


「うん。確かに分かってあげられないかもしれない。でも、聞いたことからこれからできることを一緒に考えることはできると思う。だから話をしたいな」


それ以降はどんなに語りかけてもエレナはクリスの方を向くこともなく首を横に振るだけである。


「ごめんねエレナ、ずっと一人で寂しい思いをさせてごめん。卒業したら僕はずっと側にいるから。僕じゃ役不足かもしれないけど、できるだけ一緒にいるから。エレナが頑張ってるのはわかってる。今の僕は無力だからしてあげられないことも多いけど、何とかしたいとは思ってるんだ」


クリスは座ったままのエレナに後ろから抱きついた。

それでもエレナはクリスの方を見ることはなかった。


「もう……疲れたの。一人にしてほしい……」


やがてぽつりとつぶやいたエレナに、今日もクリスは諦めることを決める。


「わかった。ごめん。また明日……。おやすみ……」


クリスは体を離してエレナの頭を撫でるとエレナの部屋から出ていった。

ドアの閉まる音がするとエレナはふらふらと立ち上がり、そのままベッドにダイブした。


「私もケインから離れる覚悟をしなければダメよね」


そう呟いてその夜、エレナは何かを断ち切るかのように、ずっと布団に顔をうずめて一人で泣くのだった。



翌朝、目をはらしたエレナは朝食に姿を見せなかった。

クリスはまた前と同じことが起こるのではないかと心配しながらも、残りわずかとなった登校日のため学校に向かった。

その帰り、予想外のことが起きた。

エレナが出迎えに来たのだ。


「エレナ、大丈夫なの?」


エレナの姿を見つけたクリスは、思わずエレナに飛びついた。

エレナは、飛びついて来たクリスを受け止めつつ、クリスの肩越しにケインを見て言った。


「私もケインに頼らないで生きていけるように頑張るわ。だから、ケインも自分の選んだ道を頑張って生きてちょうだい。今日はそれを伝えようと思って待っていたの」

「エレナ?」


クリスが少し体を離してエレナの顔をじっと見た。


「残りわずかなのでしょう?お二人はゆっくりお話なさってください。お話の邪魔になってはいけないわ。私はこれで失礼しますから安心してください、お兄様」


クリスが思わず緩めた腕からさっと抜け出し、ドアの前まで行くと、エレナは振り返った。


「またいつかお会いできるのを楽しみにしているわ」


そう笑顔で言い残すと、今度は部屋から出て行ってしまった。

その素早い動きにケインもクリスもあっけに取られて、ただ目の前で閉められたドアを見つめるばかりだった。


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