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庇護欲をそそる王子様と庇護欲をそそらないお姫様  作者: まくのゆうき


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お茶会の情報

エレナの考えたデザインの商品が市中に出回るようになった頃、王妃主催のお茶会の開催が決まった。

エレナが再び調理場にそのことを話すと、料理人たちは待ってましたとばかりにエレナに新作を披露する。

エレナはその中から再びお茶とお菓子を選び、前回と同じ手順を踏んでお茶会当日を迎えることとなった。

席も同じ、メンバーも同じ、始まりも同じ、お菓子も調理場コンペで選んだもの、というお茶会の設定は、エレナが彼女たちと仲良く過ごしているように見えたために組まれたものである。

何度も顔を合わせてもっと親しくなって欲しいということだろう。


「今回も素敵なお菓子ですわ」

「またエレナ様がお選びに?」


エレナの選んだお菓子がテーブルに並ぶと、また感嘆の声が上がった。


「ええ。前回同様、料理人が今回のお茶会で皆さんをお迎えするのに相応しいお菓子として提案したものの中から、私が選んでお母様の許可をいただいたのです」

「王妃様を納得させるものを用意できるなんてエレナ様はさすがですわ」


こうしてやはり少し持ち上げられる。

エレナはこの会話に意味があるのだろうかと疑問を持ち始めていた。

初回は気合を入れていたこともあり、褒められて素直に喜ぶことができていた。

今回も貴族として相槌を打っていればいいのだが、彼女たちの本心が見えないため、親しくなろうという気になれないのだ。



そうしてこの時間が早く終わらないかと考えているエレナに、一人が話しかけた。


「あの、こちらはエレナ様の意匠なのでしょう?」

「使用人たちのことまで考えてデザインされるなんて、なんてできたお方なのかしらと、もう尊敬しかありませんわ」


考え事をしている間に話は進んでいて、話しかけた女性がエレナがデザインし、師匠に使用許可を出しているハンカチを広げて皆に披露していた。


「それは……どうされたのですか?」


大判のハンカチなど貴族はあまり使わない。

まず料理や掃除などをする必要のある女性がここに集められているわけがない。

それなのになぜ、わざわざ持っているのか、エレナは疑問だった。


「最初は市井においしいお菓子があると聞いて買いに行ったのだけれど、その時に、店員が揃いのものをしていたのです。聞いたらエレナ様が考えたというではありませんか!あまりにも可愛らしいので、店員に聞いて、私も自分のために購入してしまいましたの。頭に巻かなくても、ハンカチでしたら使えますし、とても気に入っておりますわ」


エレナに負けないようにと自分でお菓子を探しに市井に繰り出し、そのお菓子屋さんが身に着けていたのを見て購入を決めたのだという。


「まあ、ではわざわざ工房まで買いに行ったの?」

「ええ、お店に行きましたわ。お店は種類が豊富でどれにするかとても迷いましたの。そうそう、エレナ様がお作りになった元の作品も飾られておりましたから拝見しましたけれど、そちらも素晴らしいものでしたわ。もちろん売ってはいただけませんでしたけれど……」


どうやら師匠はエレナから受け取ったハンカチを額装して店に飾っているらしい。


「何だか恥ずかしいわ」

「何をおっしゃいますか!私、これを見て思いましたの。うちも制服だけではなく、紋章を入れたデザインのものを作ってもらって配布したいと」

「それに最近、学校では女子生徒の間でこのハンカチを巻いて髪をまとめて授業を受けるのが一部で流行してますのよ?あのまとめ方でしたら髪に跡が残らないのですもの」


髪を直接縛って束ねるのではなく、覆うようにまとめるやり方には、髪型が崩れないというメリットがあるらしい。

そしてエレナが思っていた以上に市井にも貴族にもエレナの話は広まっていることがわかった。


「そんな風に言っていただけたら嬉しいわ」


学校にも行けず、変わらない日常を過ごすことしかできないエレナにはどれも眩しい話だ。

同年代の体験をエレナだけは共有できない。

母親からはうまくいっているように見えているかもしれないが、こういう話題が出るたびにエレナの心は深くえぐれていくのがわかる。

それでも穏やかな笑みを浮かべ続けなければならないこの時間は苦痛だった。

しかし、こういう時間がなければこういう情報を得ることもできないのだ。


「私は試験の時もお守りとして身に着けてましたら、合格しましたの」

「試験?」

「彼女は今の学校を卒業した後、進学して上の学校に行くことになったのです。その入学試験が先日ありまして、晴れて合格したのですわ」

「まあ!それはおめでとうございます」

「ありがとうございます、エレナ様」


そういればクリスもケインも卒業の年と聞いている。


「他の方はどうされるの?」


エレナは素朴な疑問を口にした。


「私は領地に戻り、親の手伝いを」

「私は婚約者のところで花嫁修業です」


各々が順番に自分の進路について答えていく。

最後まで聞き終わると、エレナは笑顔を作って言った。


「そう、皆、次が決まっているのね」

「はい。私達の周りの方々もだいたい進路は決まりました」

「でも、同じように進学する方でも、同じ学校じゃなければお見かけする機会が少なくなって寂しいわよね……」

「そうなのよ、ケイン様も進学されるのでしょう?」

「え?」


聞き覚えのある名前が出たことで、エレナは思わず声を出した。

彼女たちはそれがエレナにとって意味のわからない言葉だったのだと解釈して説明を加える。


「あ、えっとですね、学校で人気の男性の中に寮制の学校に進学してしまう方がいるという話ですわ」

「そう……そちらに進学してしまうと何かあるのかしら?」

「その方の進学先が騎士学校で、そこに入ると基本的に学校から出ることのない寮での生活になりますから、学生の間は厳しく行動が制限されてしまうのです。ですからそちらの学生は夜会にもなかなかお見えになれないのですわ」

「そうなの、それはとても残念な話ね……」



そう答えてからエレナはそのお茶会で何を話したのか覚えていない。

ただ、頭の中でケインとしばらく会うことができないと聞かされて、それを理解するのが精一杯である。

学校から出られないのなら、自分に会うこともできないということだ。

それにケインからもクリスからも何も聞いていない。

彼女たちの指している人物が同一人物なのかというところから疑うべきなのか、自分が甘えた態度をとってしまったからなのか、自分がこの先、どうしたらいいのか分からなくなっていた。

こうしてエレナに様々な情報をもたらしたその日の王妃主催のお茶会は終了した。

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