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庇護欲をそそる王子様と庇護欲をそそらないお姫様  作者: まくのゆうき


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ブレンダとのお茶会

「お兄様、おかえりなさい!」


クリスが帰ったと知らせをもらったエレナは、早速兄のいる部屋に駆け込んだ。


「ただいま、エレナ。そんなに慌てなくても時間はたくさんあるよ?」


頭に自分の刺繍したカラフルな大判のハンカチを付けたまま飛び込んできたエレナに、クリスは笑顔で言った。


「エレナ様、クリス様に伺いました。私との再会を望んでくださっていたと。この度はクリス様のご配慮もあって、お茶をご一緒させていただけると聞きました。ありがとうございます」


クリスの斜め後ろに立っていたブレンダが前に出てエレナに挨拶をした。


「ブレンダ、こちらこそありがとう。お仕事の時間に合わせてもらっているから落ち着かないかもしれないけれど、お話ができたら嬉しいわ」


エレナがそう返すと、ブレンダはさも今思い出したかのように言った。


「私からエレナ様に心ばかりの品をご用意いたしました。お茶の席には役に立つ品でございます。口に入れるものですから、先に毒味の検査に回されておりますが、お茶と一緒に届くと思います」


今のブレンダは仕事中、少し話を聞くだけでいいと思っていたのに、ブレンダはわざわざエレナのために何かを用意したようである。


「まあ、お仕事の合間に気を使わせてしまったわね」

「そんなことはございません。この可愛らしい品は、エレナ様のためにあると一目惚れしたものを購入したまでにございます」

「ありがとう。楽しみにしているわ」


もう検査にも出されているのであればそれを返すわけにはいかない。

エレナはその品を素直に受け取ることにした。

信頼できる近衛騎士の持ち込むものだから、検査などしなくてもいいような気もするのだが、基本を守り忠実であるからこそ近衛騎士として信頼が厚いのかもしれない。

そんなことを考えているとクリスがエレナに声をかけた。


「エレナ」

「はい、お兄様」

「盛り上がっているところ悪いけど、僕は隣のテーブルでケインと話をしていていいかな?」

「ご一緒なさらないのですか?」


ブレンダは四人が同じテーブルを囲むと思っていたらしい。

確認するとクリスは首を横に振った。


「二人の邪魔をするのは申し訳ないからね。僕たちはこっちでお茶をすることにするよ」

「かしこまりました」


ブレンダは一度周囲を見回すと場の雰囲気を壊すことなくそれだけ答えた。

クリスはエレナに説明を続ける。


「とりあえず、エレナたちはそっちのテーブルを使って。お茶会仕様にしてもらってあるから」

「お兄様、ありがとう」


エレナはそう言ってクリスの腕にしがみついて顔を寄せた。


「どうしたのエレナ、今日はちょっと子供に戻ったみたいだよ?」


無邪気にすり寄ってくるエレナの頭を撫でながらクリスが言うとエレナは腕にしがみついたままクリスを見上げた。


「だって、お兄様はやっぱり頼りになるんだもの」

「そう?そう言ってもらえると嬉しいな。じゃあ、皆立ちっぱなしになっちゃってるから一度座ろうか」

「はい」


エレナが元気よく返事をしてクリスの腕を話すのを見計らって、ブレンダはエレナに手を差し出した。


「エレナ様、それでは」

「ありがとう」


エレナも迷うことなくその手を取った。

そして部屋の入口からテーブルまでの短い距離をブレンダがエスコートする。

椅子を引いてエレナを座らせるところまで行うあたりが正に紳士である。

その様子を横目にみながら、クリスとケインも席に着いた。

こうして皆が座って落ち着いたところでクリスがエレナに話しかけた。


「エレナ、今日はお菓子を焼いてくれたんだって?」


クリスのその言葉にエレナは我に返った。

ケインが参加するということは届けたお菓子と同じものを口にするということだ。

お菓子はすでにケインの家に届いている時間、どうしようもない。


「そ、そうなの……」

「どうしたの?」

「ううん、何でもないわ」

「そう?」


エレナの慌てた様子に首を傾げたが、あまり聞かれたくないことなのだろうと、クリスはそれ以上追及しなかった。

エレナがたまたま頭に触れると、頭には布を付けたままで、それに気が付いたエレナは慌ててその布の結び目をほどいた。


「エレナ様は何を着てもお似合いです。本当に可愛らしい。そのままでも刺繍がアクセントになっておりますし、充分おしゃれでしたよ」


頭についていた大判の布を外しているエレナに、ブレンダはそう言った。


「お兄様が返ってきたと調理場に連絡が入って急いできてしまったの。こちらから声をかけておいてさすがに失礼だったわ」


エレナがさすがに苦笑いをすると、ブレンダは首を横に振った。


「いいえ、エレナ様のお作りになったお菓子がこれから出てくると考えるだけでとても楽しみでございます。そのお姿で調理をされている姿もきっと素敵だったでしょう」



他方のテーブルではクリスとケインが黙って二人の話を聞いていたが、しばらくしてケインがぼそっと呟いた。


「クリス様、話には聞いておりましたが、ブレンダ様というのは普段からこのような方なのですか?」

「そうなんだ……」

「少し、こう、不愉快なのですが……」


ナンパをしている軽い男とも違うが、随分と女性を持ち上げるのがうまい。

見た目が美形なだけに、ブレンダ男だったら女性がその隣に立つために争いが起きそうである。

しかも身分や生活も保障されている近衛騎士という実力もある。

実際に女性たちが彼女に夢中になるのは理解できなくはない。

そして世の男性の嫉妬を一身に浴びている理由も説明はできないが察することができた。


「そうだよね。そうだと思う。彼女、あれで無意識なんだ」

「なかなか……どう表現したら良いのか……確かに難しいですね。非常に複雑です」


実物を見てケインはクリスが説明できないと言った理由を察した。

確かにこれは表現するのが難しい。


「まあ、今日はよろしくね。エレナが今日はお菓子を作るって張り切っていたから、先日のお茶会のお菓子をエレナが手作りしているはずなんだ……」

「そうですか……」


騎士のためにお菓子まで手作りする力の入れようにケインの複雑な感情は増していく。


両方のテーブルが別の話で盛り上がっていると、頃合いを見計らってお茶とお菓子が運ばれてきた。

前回のお茶会同様、焼きたての良い香りを漂わせている。


「これが前回皆に振る舞われたお菓子だね。女性だけのお茶会だったから私も初めて食べるんだ。いただいていいかい?」


全てのテーブルにお茶とお菓子の配膳が終わるとクリスが尋ねた。


「ええ、もちろんよ」


返事をしたのはエレナだが、最初にお菓子に手を付けたのはブレンダだった。

手早くお茶とお菓子を一口ずつ口に入れる。

毒味を兼ねての行為だが、とてもスマートである。


「エレナ様、とてもおいしいです」


ブレンダがそう言ったところで、クリスたちも出されたお菓子に手を付けるのだった。

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