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庇護欲をそそる王子様と庇護欲をそそらないお姫様  作者: まくのゆうき


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お菓子の再現

ブレンダとのお茶会の日はすぐにやってきた。

精神的な葛藤があったものの、どうにか調理場へと足を運んだエレナを、料理長は笑顔で出迎えた。

何事もなかったかのように笑顔を繕って、恐る恐る足を踏み入れてみれば、そこには当然動物の亡骸はなく、あるのは材料と調理器具だけであった。


「エレナ様、本日はクリス様と騎士様の三名のご予定ですよね」

「ええ、お兄様からはそう聞いているわ」

「差し出がましいかもしれませんが、いつもクリス様とご一緒にいらしているケイン様に差し上げたりはなさらないのですか?」


あれだけエレナを一途に思っている男からすれば、クリスの護衛騎士のために手ずからお菓子を用意していると聞いたらさぞ複雑だろうと調理長は思っていた。


「でも、できたてを持っていくことはできないわよね。冷めても美味しいけれど……」


焼き立ての美味しい焼き菓子を口にすることの多いエレナは首を傾げながら聞いた。


「先日のお菓子でしたら、熱を冷ましてからであれば、袋に入れてお渡しすることもできます。市井ではそのように粗熱を取ったものをご自宅用にと販売しているところが多くあります。粗熱を取った焼き菓子は保存がきくようになりますから」

「そうなの?ケインは前回のお茶会にも参加していないし、今回もお兄様の騎士様と一緒で、お兄様のお部屋でお茶をする予定だから私が声をかけるわけにはいかないの。それにメインは騎士様とお話することだから……」


女同士の雑談につき合わせることになったら申し訳ないとエレナは思っているが、周囲からは聞かれたくない話でもするのではないかと思われていた。


「では、二回焼きますから一度目に焼いたものの粗熱が取れましたらラッピングしてお渡ししましょう。クリス様とお戻りの際に手渡ししてしまいますとお帰りを催促するような感じで空気を悪くするかもしれませんから、調理場から使いを出して届けさせます。その間にエレナ様は二回目のお菓子をご準備ください。そうすればケイン様がお帰りになった際に受け取ることができましょう」

「いいの?」

「はい。かまいません」

「料理長はケインと話をしたことがあったかしら?」


前にクッキーを焼いた時に顔を合わせたくらいではないかとエレナが首を傾げている。


「……そうですね。少しお話させていただいたことがございます。エレナ様はその場にはいらっしゃいませんでしたが……」


料理長とケインが話をしたのはエレナが倉庫に閉じこもったときである。

差し入れを渡してほしいとケインに密かに頼みにいったのだが、本来ならば自分から声をかけていいような人物ではない。

そのため、それを知られまいと、それ以上は言わなかった。


「お話をしていると時間がなくなってしまいます。そろそろ作り始めましょう」

「ええ、そうね。教えてほしいとお願いしたのは私だもの。お願いね」


エレナが料理長と、お菓子を提案した料理人に声をかけると、すでに効率の良い方法を皆で考えたのか、彼ら以外の料理人も一斉に動き出した。

そして、エレナは指導を受けながら材料を混ぜていると、すぐに使えるように窯の温度の調整や、流し込みに使う焼き型にバターを塗ったりする準備が同時に行われた。

過去に何度もお菓子を作っているエレナがやったことのある作業は他の料理人が行い、エレナは説明を聞きながら材料の分量や混ぜる加減など、覚えなければならないメインの部分を担当する。

本当は生地を寝かせたものも作っておいて、一度目の時間を短縮しようというところまで話が進んでいたのだが、それではエレナ様の作ったものをお出しするという形にならないだろうし、他のものを作っている間に生地を寝かせればいいと言って、料理長が止めたのだ。

そこまで考えられているとは知らないエレナは、彼らの手際の良さに感心しながら、楽しそうに生地を作り始めるのだった。



「お手紙をつけたほうがいいかしら?何でこんなものが届いたのかわからないと不思議に思うわよね……」


一度目のお菓子を焼き始めて、手の空いたエレナが料理長に尋ねると、料理長は笑顔で答えた。


「お手紙ですか。それはきっと喜ばれます。ここでは書きにくいでしょうから、お部屋に戻られてはいかがでしょうか。火は見ておきますし」

「でも……」


やっと全ての工程が見られると思っていたエレナは部屋に戻ることを躊躇った。

ただこのまま待つのかもしれないが温度の加減などうまく焼けるようにするためにどういう調整をしているのかが非常に気になっているのだ。


「焼けるところが気になるのなら二回目を焼き始めるまでにお戻りになればよいのではありませんか?」


そんなエレナの気持ちを察した料理長がエレナにそう提案すると、エレナは一気に明るい表情になった。


「お言葉に甘えていいかしら?」

「もちろんです」

「じゃあ、書いたらすぐに戻ってくるわね」


エレナはそう言って調理場から自室にかけ戻るのだった。



エレナが手紙を書き終えて調理場に戻ったのは、一度目のお菓子が焼き上がる直前だった。


「エレナ様、早いお戻りでしたね」

「お菓子のことが気になって、急いで戻ってきたのよ」


あまりの速さに料理長は驚いていた。

本当に部屋を往復しただけの時間くらいしかかかっていない。


「お手紙は……」


恐る恐る聞くと、エレナは封筒を差し出した。

封筒にはきちんと封緘がされている。


「これよ。預けておいていいかしら?」

「はい。確かにお預かりいたしました」


手紙を受け取った料理長は少しホッとして手紙を汚さないようにエプロンのポケットにしまった。


「それでお菓子は?ここに向かう廊下にも、お菓子の焼けるいい匂いがしていたの」

「もうすぐだと思いますよ」


そんな話をしているとすぐに頃合いを見計らって料理人の一人が焼きたてのお菓子の乗ったプレートを取り出した。

ちょうど焼き上がったのだ。


「お茶会のことを思い出す、いい匂いだわ」


エレナが近くに置かれた焼きたてのお菓子の匂いを堪能していると料理長から声がかかる。


「さあ、エレナ様、こちらを窯に入れて焼き始めますよ」

「ええ。お願い。これが焼ける頃にお兄様が帰ってくるのね」

「はい。そして、こちらは熱が取れたら袋に入れましょう。袋に入れましたら手紙と一緒に渡すよう、すぐに使いを出します。クリス様が到着されるまでに、ケイン様のご自宅に届くようにすれば、ご自宅のケイン様も同じくらいのタイミングでお菓子を召し上がれるでしょう」

「ありがとう。そう考えるとますます楽しみだわ!」


その後エレナは、クリスが戻るまで調理場で雑談をしながら過ごすのだった。

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