同年代との交流
暇つぶしのために宿題や刺繍をするようになり、どうにか水回りの仕事をほとんどせずにお茶会の当日を迎えることができた。
「今日のお茶会が終わったら、久々にお部屋の掃除をしたいわ」
お迎え用の衣装の着替えを手伝ってもらいながらエレナは侍女にそう言った。
「……そうでございますか」
トーンの下がった声の侍女にエレナは慌てて言葉を付け足した。
「あのね、あなたたちの掃除が行き届いていないというわけではないのよ。自分で体を動かしてお掃除をするのが楽しみなの」
「はい、存じております」
「わかってもらえていて嬉しいわ」
エレナが掃除や洗濯を楽しそうにしているのを毎日のように見ていた侍女は、さすがにそのくらいのことは察していた。
気にしたのは、また家事をがんばりすぎてしまうのではないかという点である。
侍女は家事から話を逸らそうとエレナに別の話題を振ることにした。
「エレナ様、今日のお茶会ではいよいよエレナ様のお選びになったお茶とお菓子が振る舞われますね」
「そうね……。私の好みのお菓子だから、皆さまのお口に合うといいのだけれど。それだけが心配だわ。でもそれを意識したら席を外したくなってしまうのよ」
侍女の振った話題はエレナが触れられたくないものだったようである。
衣装を着せられながらエレナは苦い表情を浮かべた。
着替えに集中し、表情に気を止める余裕のない侍女は、エレナの言葉だけを聞いて返事をする。
「大丈夫ですよ。王妃様もご一緒なのですから、堂々とされていればいいのです」
「そうよね。そうするわ」
久々に人前に出る衣装を身に付けたエレナは気持ちを切り替えた。
そしてすぐに王妃のもとに向かい、一緒にお茶会の会場に入るのだった。
お茶会には王族に所縁のある女性と、数名の貴族を集めて行われることになった。
本来の趣旨はエレナに同年代の友達を作ることだが、主催が王妃のため、母が娘を同伴するという形をとっている。
席は、同年代で話しやすいようにと母親席と娘席に分けて準備されていた。
招待客が到着する時間になると、母娘でやってきた二人が王妃のところへ挨拶に行った後、離れた場所で待っていたエレナのところにもやってくる。
「エレナ様とこうしてお話できて光栄です」
「お忙しい中、参加してくれてありがとう。私も皆さんとお話できて嬉しいわ。今日は年齢の近い女性が来てくれると聞いていたから、とても楽しみにしていたの」
こうして王妃、エレナへの挨拶を済ませると母が王妃の方へ戻り、娘がエレナのところに残される。
そこで王妃とエレナがそれぞれの客人に席を勧めるのだ。
エレナは人形のように可愛らしい姿で彼女たちを迎え入れた。
そんなエレナの笑顔に招待された女性たちは思わず見惚れる。
クリスのふんわりとした雰囲気に負けて霞みがちだが、エレナが一人でその場にいれば、やはり可愛らしい姫なのである。
出席者が揃ったところでさっそくお茶会は始まった。
会場のテーブルには王妃が手配をしている軽食とお茶が並べられていて、まだエレナの選んだお菓子やお茶は出されていない。
主宰である王妃が行うと、早速まとめられた席ごとに歓談が始まった。
「エレナ様は日頃どのようにお過ごしなのですか?」
「私はここからの外出を許されていないので、家庭教師に勉強を見ていただいたり、お菓子作りや刺繍をしたりしながら日々を過ごしているの。皆様はどのように過ごされているの?」
「私たちは学校に通っていますから、普段は学校で大半の時間を過ごしています。お休みの日はお茶会に参加したり、お互いの家を行き来したりしておりますわ」
同年代の子はやはり、学校に通っているようである。
「そうなの……。学校は皆様同じところに通っていらっしゃるの?」
「はい。家が近いので同じ学校に通っておりますわ」
「皆さん、仲がよろしいのね」
笑顔を浮かべてそう言ったエレナだったが、その後は彼女たちと話が合わせることが難しいかもしれないと思いながら、話が盛り上がっているのを黙って聞いていた。
そこで一人、笑顔で相槌を打ちながら疎外感を覚えてしまうのだった。
お茶と軽食に手を付けながら歓談の進んだところに、料理長が焼きたてのお菓子と新しいお茶を用意して会場に運んできた。
それを周囲の使用人たちが丁寧にテーブルへと置いていく。
テーブルにおかれた焼き菓子はまだ温かく、目の前にあるだけでとても甘くて良い香りが漂っていた。
エレナのテーブルにいる女性たちは目を輝かせながら、じっとお菓子を見つめたり、早速手を伸ばしたりする。
「まぁ!素敵なお菓子!」
「見た目だけじゃなくて、とってもおいしいわ!このお菓子はどこで買えるのかしら?うちのお茶会でもお出ししたいわ」
すると、エレナの選んだお菓子とお茶が用意されたことを確認した王妃がわざわざ席を離れて、エレナのいるテーブルへやってきた。
「このお菓子を手配したのはエレナなの。だからお菓子を見ても驚かないのよ。ねぇ、エレナ」
「はい、お母様。私は皆様のお口に合うかが心配でなりませんでした。喜んでいただけて良かったわ」
エレナの前にもお菓子は出されていたが、皆の反応が気になってなかなか手を付けることができずにいた。
「あちらでも皆、おいしいって食べてくれているわ。よかったわね」
「ええ」
エレナの方の力が抜けたことを確認すると王妃は、そのテーブルの皆に声をかけた。
「それではゆっくりしてらしてね。私たちも楽しく過ごしていますから」
「はい」
おいしいお菓子で良い笑顔を向けた彼女たちを確認すると王妃は笑顔を返してそのまま席へと戻っていった。
緊張していたのはエレナだけではなかったのである。
「エレナ様は、このようなお菓子をどのように見つけられるのですか?」
エレナがお菓子を手配したと聞いて、一人の女性が目を輝かせて聞いた。
「これは、うちの料理人の新作なの。だからお店のものではないのよ」
「それにお茶もとても合いますわ。こちらもエレナ様がお選びになったのですか?」
「ええ。そうよ」
「まぁ!さすがですわ!」
褒められてとても気分はいいが、これは自分だけが受け取っていい賛辞ではないとエレナは思った。
選んだのは自分だが作ったのは自分ではないのだ。
「そんな……。料理人たちの努力やアドバイスあってこその組み合わせだもの。私の実力ではないわ」
彼女たちは料理人がコンペをして選ばれたことなど知らない。
そして料理人が努力をした結果がここに出ているのであって、本来は作った者に向けられるべきだと思ったが、まさかここに料理人を呼ぶわけにはいかない。
一方の女性たちはエレナに尊敬の目を向けている。
「はぁ……。エレナ様はお美しいだけではなくて、とても奥ゆかしい方なのですね」
「ほんとに。こんなことでは悪い方に捕まってしまいそうで心配になりますわ」
「そんなことはないわ。あと一応、護身術も学んでいるし……」
彼女たちの言いたかったのは、エレナがあまりにも周囲を立てるので悪い男性に騙されて利用されないかと心配だという意味だったのだが、エレナは違う意味で受け取っていた。
表情には出さなかったものの、誘拐されそうという意味に捉えたエレナは、まだ自分が一人で外にも行けないくらいか弱く見られていることに少し落ち込む。
そして同時に密かにもっと鍛えなければと決意を新たにするのだった。




