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庇護欲をそそる王子様と庇護欲をそそらないお姫様  作者: まくのゆうき


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素敵なレディ

エレナは掃除に洗濯に料理にと、覚えたことをせっせとこなしながら、クリスの帰りを待つ日々を送っていた。

いつも通り勉強とそれらをクリスとケインを見送ってから、二人が戻ってくるまでの間に済ませるようにしている。

そして、二人が戻る時には何事もなかったかのようにお迎えをするのだ。

最初は仕事をすべてこなすことはできなかったが徐々に要領を覚え、全ての家事を時間内に終えることができるまでに手際が良くなっていた。

そうして過ごしていたある日。

エレナとお茶をしていたクリスが尋ねた。


「ねぇ、エレナはどうなりたいの?」

「どうなりたいとは、どういう意味?」


質問の意図が分からずエレナは聞き返した。


「うん、何かね、色々話を聞いていると、エレナが何をしたいのかよくわからないんだよ。だから何を目指して頑張っているのかなって思ってね」

「私は、守られることなく、自立した大人の女性を目指しているわ。今は自立のために必要なことを皆に教えてもらっているの。覚えることが多くて、全部できるようになるまで時間がかかってしまっているけれど、きっと習得してみせるわ。そのためにお兄様たちがいない間は勉強と家事を頑張っているんだから!」


話を聞いているだけで気合の入り方がおかしい。

クリスは手で頬を支えながら首を傾げて考える。


「うん、エレナが頑張っているのはわかるよ。ちょっと無理してないか心配なんだけど」

「大丈夫よ?だってお兄様たちが学校に費やしている時間と同じだけしかやっていないもの。確かにたまに仕事を残してしまったり、終わるのが遅くなってしまうけど……」

「それはいいんだよ。本当はエレナの仕事じゃないんだから。ところでエレナは素敵なレディを目指してるのかと思ってたんだけど、違うのかな?」

「違わないわ」

「そうだよね……。それだとね、ちょっと頑張る方向を間違えてきている気がするんだよ」


クリスは考えているうちに思わず否定の言葉を口にした。

するとエレナも一緒に考え込む。

二人が揃って顔に手を当てて、首を傾げる様子はお人形のようにかわいらしい。

そうしてしばらく続いた沈黙を破ったのはエレナだった。


「わかったわ!学校でやっていることでまだ私が手を付けていないことがあるから、家事よりもそっちを先にやらなければいけなかったのね!」

「確かに他にやってほしいこともあるけど……」


エレナを降嫁させるにせよ、市井の民のように働かせるような環境に置くつもりはない。

そんな相手のところに渡すなどあり得ない。

もし二人の約束が叶ったとしても、ケインがそれを必要とするとは思わない。

クリスが切り出す内容を考えている間に、エレナは学校見学の内容を思い返したのだろう。


「お兄様、学校には確か生徒が武術を学ぶ訓練場があったわよね」


久々に二人で向かい合ってお茶の時間を楽しんでいるとエレナからそんな言葉が漏れた。

学校のことはすっかりふっきれたはずのエレナの口から、学校の話が出てきたことに少し動揺ながらクリスは聞き返した。


「どうしだんだい?急に」

「もっと強くなるにはどうしたらいいのかしら?」


エレナの答えに思わずクリスは突っ込んだ。


「エレナはすでに護身術を学んでいるだろう?」


エレナも地位があり常に人前に立ち目立つ存在だ。

いつ狙われてもおかしくないため、護身術を習っている。

もちろん基本的には護衛の騎士たちがエレナを守るのだが、もし近くに護衛がいなかったら、その時は護衛が来るまで自分の身を自分で守らなければならないのだ。


「あれでは足りないと思うの。剣や槍を振るえた方が役に立つわ。それから弓も。だって、学校ですら訓練場があったのだもの。回数が少ないとはいえ、女性も利用するのでしょう?」


できることをとにかく増やしたい一心でエレナは聞いたが、クリスには違う事のように見えた。


「もしかして、この間ケインが話していたことを気にしているのかい?」


エレナのここ最近の不思議な行動はすべてケインの話を聞いてから行われている。

お菓子作りだけではなくお料理を学びたいと言い出したり、掃除や洗濯はできないといけないと言い出したりと、家庭教師や侍女は、次は何を言い出すのかとびくびくしていると聞いている。

これはその場にいた数人しか知らないことだが、確かにケインは言ったのだ、守られるのが当たり前というのはどうかと。

クリスの心配をよそにエレナは一人で話を進める。


「……そうだわ、まずは馬に乗れるようになりたいわ。乗馬なんて素敵な趣味よね」


エレナは一人で馬に乗ったことはない。

確かに趣味としては良いかもしれない。

ただそれは狩りを趣味にしていて森に出かけるとかいう時にしか必要ない。

少し草原を走るとかその程度であれば、男性にエスコートさせればいい。

目指しているものはひとつのはずなのに、これではますます何になりたいのか分からなくなってしまう。


「エレナ、聞いてる?」


すっかり訓練をする気になっているエレナを止めようとクリスは必死に色々な言葉をかけたがエレナは聞いていないのか一人でしゃべっている。


「お兄様、私、訓練場に相談に行くことにするわ。彼らからもしかしたら良い知恵をいただけるかもしれないもの」

「エレナ!」


クリスが止めるのも聞かず、エレナはクリスを置いて部屋を飛び出していった。



飛び出したエレナの後ろを慌てて追いかけた護衛が、エレナの近くまで追いつくと声をかけた。


「エレナ様、よろしいのですか?」

「何かしら?」

「クリス様を振り切ってしまわれて……」


いくら兄妹とはいえ、相手は後の国王となる人物である。

クリスがエレナを可愛がっていることは有名だが、エレナの行動がどこまで許されるのかは分からない。


「いいのよ。お兄様はそんなこと気にしないわ」

「ですが……」


グダグダと言いながらついてくる護衛に気分を悪くしたエレナはその場に立ち止まると、護衛に向き直って言った。


「あなたは反対なの?」


その迫力に気圧されて、護衛は硬直したが、すぐに首を横に振った。


「いえ、私はエレナ様について参ります」


はいともいいえとも言わない護衛に、エレナは意見を求めたことが間違いだったと悟った。


「そうよね……それがあなたの仕事だものね……」


エレナは冷たく言い放つと、それ以上は何も言わず訓練場へ向かって歩き出した。

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