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庇護欲をそそる王子様と庇護欲をそそらないお姫様  作者: まくのゆうき


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騎士団の訓練

先ほどの気迫を見た護衛は、エレナが騎士団長の圧力に屈することはないだろうと身を持って実感した。

人に命令を下す時の圧力は騎士団長と同じかそれ以上だった。

本当は言い負かされてほしくないと思っていたのだが、その心配はなくなった。

このかわいらしい姫からどうしてそのようなものを感じるのか分からないが、否定することは許されないと体と心がそう言った。

男くさい所に女性を入れることも躊躇われるが、女性騎士も混ざって訓練しているし、女性だからという断り方もできない。

そんなことを護衛が考えているとも知らずにエレナは訓練場へと近付いていく。

やがて到着した訓練場の入口で、護衛はなぜこんなところに姫を連れてきたと冷たい視線を浴びたものの、黙って首を横に振ることしかできない。

そんな無言の騎士たちのやり取りには目もくれずエレナは言った。


「訓練しているところ申し訳ないのだけれど、騎士団長はお手すきかしら?」

「……少々お待ちください」


驚きながらも何とか一人が返事をする。

そして来てしまったものは仕方がないと、入口にいた一人が急いで騎士団長のもとに伝令に行くのだった。



入口でエレナと肩身の狭い思いをしている護衛が待っていると、ほどなくして騎士団長が入口までやってきた。


「エレナ様?なぜこのような場所に……」

「騎士団長、折り入って相談があるの。訓練が終わったら、お時間もらっていいかしら?」

「それは構いませんが……お急ぎの用件でございましょうか?」


申しつけられたら自分が足を運ばなければならない立場である。

それをわざわざ尋ねてくるのだからよほどの要件なのだろうと身構えた。


「いいえ、急ぎではないわ。もし今日が難しいのなら、後日でも構わないのだけれど……」

「わかりました。それでは早々に訓練を切り上げて参ります故、どうか観覧席にお座りになってお待ちください」

「ありがとう」


エレナは笑顔で答えると、騎士団長の案内で観覧席に向かった。

観覧席に案内した騎士団長は、礼をすると訓練を早く終わらせるべく戻っていく。

エレナは観覧席にハンカチを敷いて座ると、訓練場にいる騎士たちを見回した。


「彼らは皆、剣を振るうことができるのね。体術もできるし……。あちらは弓かしら?」

「その通りです」


苦々しい顔で答えた護衛にエレナは尋ねた。


「あなたもここで訓練を受けたの?」

「はい……」

「じゃあ、付き人を変えるべきだったわね。ここに来たくなかったからさっきはあのようなことを言いだしたのでしょう?」

「いえ、大丈夫です」


確かにエレナを止められなかったことで冷たい視線は浴びた。

だがここにいる騎士たちなら立場の違いを理解してくれているはずだ。

次に彼らに合った時は普通に話ができるだろうと思っている。


「大丈夫ならいいのだけれど……。私は何ができるようになれば自分を守ることができるのかしらね」

「エレナ様……」


護衛は独り言のようにつぶやかれた言葉に、思わず何か言葉をかけようとしたが、良い言葉が浮かばない。

護衛は心配そうにじっとエレナを見ていたが、エレナの視線は訓練場に戻っていて、表情に影もない。

しばらくそうして訓練の様子を眺めていたエレナはふと思い立って護衛に尋ねた。


「ねぇ、あなたは何が得意なの?」

「私ですか?」

「ええ」


急に自分に興味を持たれて驚きつつも、護衛は真剣に答えた。


「私は剣の方が得意ですね。護衛は基本的に接近戦が多くなりますので、剣が使える方が有利なもので」

「そうなの」

「じゃあ、自分で自分の身を守るとして、使えるようになるべきは剣なのかしら?」


エレナは剣が有利と聞いて、自分も帯剣するべきかと真剣に悩み始めた。

そこにダメ押しをするかのように護衛が言う。


「あ……はい。人を守るだけでしたら盾ですが、襲撃を想定するならば剣になると思います。剣で矢を落とすことができる者もおりますし、結局襲撃してきたものを捕えるためには剣が有利なので……」

「そう。わかったわ。ありがとう」


エレナが満足そうに答えると護衛はホッと息をついた。

しかしこの時、彼は勘違いしていた。

エレナが聞いたのは護衛が守る手段ではない。

自分で自分を守る手段である。

この言葉をうのみにしたエレナが目指すとしたら、剣で矢を切り落とす女剣士か達人のような女性である。

その危険性に彼は気がついていない。



エレナと護衛がこのような雑談をしているうちに、早々に訓練を切り上げた騎士団長が観覧席に戻ってきた。


「エレナ様、大変お待たせいたしました」

「いいえ、急に押し掛けてしまって申し訳なかったわ。でも、皆の訓練の様子を見ることができたし、とても参考になったし、やっぱり来てみてよかったと思っているのよ」

「そう言っていただけますと……。では早速ご用件をお伺いしても?」

「ええ。もちろんよ。単刀直入に言うわ」


語気が強まったことを感じて、騎士団長は姿勢を正した。


「私を騎士団の訓練に混ぜてほしいの」

「へ?エレナ様?」


最初に思わぬ声が出たが、何とか持ち直して騎士団長は理由を尋ねた。


「私は強くならねばいけないのです。皆に守られているだけではいけないと……」


エレナがひるむことなく騎士団長の目を見てそう言うと、真剣さが伝わったのだろう、騎士団長は少し間をおいてから告げた。


「畏まりました。しかし、エレナ様をすでに基礎のできている彼らの訓練に混ぜるわけにはまいりません。まずは基礎を固め、彼らと共に訓練を受けられるだけの実力を身に付けるようになって頂きたく存じます。……いかがでございましょう」


何も知らない者が武器を振り回すのは危ない。

それにここにいる騎士の全員が力の加減ができるわけではない。

鍛錬の中に混ざるとなると、そういうものと当たる可能性も出てきてしまう。

その際にある程度自分で戦う力を持っていてもらわねば大けがをしかねない。

そして、騎士団長はエレナがそこにたどり着く可能性は低いと考えていた。

騎士としてここにいる者は長い年月をかけて鍛えた者ばかりである。

エレナには申し訳ないが、いくら護身術を学んでいるとはいえ、今から鍛えても騎士の体力にすぐ追いつけるわけがないのだ。

基礎の途中で挫折してくれたらエレナを危険な目に合わせずに済む。


「わかりました。私は基礎を固め、彼らに追い付けるよう努めます。どのような訓練をすればいいのかしら?」

「……それでは、本日中に訓練内容を考え、届けさせます。エレナ様は公務もございますから、公務に響かないようにしていただかないとなりませんので……」

「そうね。公務を疎かにすることはできないわ」


エレナは公務を放棄して騎士と全く同じメニューをこなすことはできない。

彼らは仕事として一日中そこに時間をかけることができるが、エレナの本業は公務なのだ。


「エレナ様の意思はしっかりと受け取りました。しかし決して無理はなさいませんよう……」

「ええ、ありがとう。明日の連絡を待っているわ」


こうして話がまとまったところでエレナは訓練場を後にした。



翌日、騎士団長は約束通り、エレナ用の基礎訓練メニューを届けてくれた。

内容は訓練というよりも体力強化に重点を置かれている。


「これで強くなれるのかしら?」


メニューを眺めながらエレナが考え込んでいると、家庭教師がその内容を覗き込んで言った。


「エレナ様、剣を長時間持って歩いて、さらに戦ったりするのが騎士団です。エレナ様が移動の際に馬車の横をついて歩いておいででしょう?その移動の分歩いても、なお有事に戦う力を残しているのが騎士団の皆様ですよ。筋力がないと剣を持つこともできませんし、この内容をこなして体力や筋力をつけないと先に進むことはできないと騎士団長はお考えなのでしょう。彼らは自分だけではなく、皆を守るのがお仕事ですから」


本当は学校でこのようなことはやらない。

学校は勉強の一環として最低限のことをするだけだ。

剣も本物よりも軽い模造品を使うし、弓も持ち上げて使うようなことはない。

学校では先生がサポートをしながら一緒に打つ。

あくまで生徒が怪我をしないようにそれっぽいことをして、使い方というものを学ぶことがメインなのだ。

たまに放課後の活動で訓練場を使用して鍛えている生徒はいるが、その大半は騎士団への入団を目指している。

貴族は守られる立場のため、護衛を雇えるのなら本当は短剣で護身ができれば充分で、毎日、体力を作るために筋力トレーニングなどするわけはないのだ。

しかしこれはエレナに怪我をさせずによりよく結果を出すための配慮だと家庭教師は悟って、その考えに賛同することにしたのだ。


「そうね。確かにその通りだわ。騎士団長にも基礎が足りないと言われたのだもの。これはきっとやらなければならない試練よね」


エレナはその言葉を前向きに取って、訓練メニューを眺めながら、これらを毎日やろうと決心するのだった。

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