15、幸せになりました。
「アメルハルト王太子殿下……。」
神妙な面持ちで部屋に入ってきたアメルハルト王太子に、私は上座の椅子を勧めた。
「エトゥーナ、本当にすまなかった。」
けれど王太子は、すぐには椅子には座らず、まずはしっかりと頭を下げた。
「そんな、頭をお上げください、王太子殿下。」
「いや、私はエトゥーナに、謝っても謝りきれない酷いことをしてしまった。」
そして王太子殿下の告げた内容は、以下の通りだった。
元々殿下は、自分を愛して婚約をしてくれて、王妃教育を頑張りながらも、なかなか素直に愛情表現はできないエトゥーナのことを好ましく思ってくれていたそうだ。
そんな中、同じようにエトゥーナの魅力に気付き、エトゥーナを好いているユナ令嬢と出会い、二人でエトゥーナの魅力について語り合うのはとても楽しく、急速に仲良くなった。
それは決して男女の仲とはまったく違うものであったけれど、
仲良くなったユナ令嬢と王太子を見て、やきもちを妬いて、不器用に愛情を表現するエトゥーナを見るのは、二人にとって、予想外に楽しく、つい、誤解させているのに気付いていながらも悪ノリしてしまったそうなのである。
「でもまさか、この悪ふざけが元で、エトゥーナが婚約破棄を言い渡すまでに傷付けてしまうとは思わなかったのだ…。」
「え、ええー……、」
アメルハルト王太子の告白に、私はガックリと肩を落とした。
私のことが好きだから、やきもちを妬く私を見て嬉しかったなんて、
悪趣味か!
子供か!
そんなの言い訳になるか!
私がどれだけ傷付いたと思ってるんだ!!
等々、言いたいことは沢山あったけれど、とりあえず私は全ての言葉を飲み込んだ。
「それで、アメルハルト王太子殿下は、どうされたいとお思いなのですか?」
「それはもちろん、エトゥーナを予定通り、私の妃として迎えたい。私にはエトゥーナ以上に愛せる女性は現れないし、ゆくゆくは王妃として、この国を纏められるのはエトゥーナしかいないと思っている。司書になりたい件については、王妃として王立図書館を管理して貰うのはどうだろうか?」
「では、ユナ令嬢のことはどうお思いなのですか?」
「彼女は…、正直、彼女以上に、エトゥーナの可愛らしさについて楽しく語り合える相手はいない、今後も共にいられたら、ありがたいと感じている。」
「つまり…?」
「エトゥーナと結婚した後も、彼女とは良き友人…、茶飲み友達でいられたら良いと思っている。」
「…友人、ですか?」
「ユナ令嬢が望むなら、エトゥーナの侍女になって貰っても良いと思うけれど、エトゥーナはどう思う?」
「侍女!!」
アメルハルトの言葉に、ユナ令嬢は目を輝かせた。
「毎日エトゥーナ様のお世話ができるんですね!」
ものすごい身の危険を感じる。
「それはちょっと…、」
「駄目なんですか!?」
私からのNGに、ユナ令嬢はショックを受けていたが、その後頭を捻った。
「それ以外でエトゥーナ様の側にいられる職と言ったら……じゃあ私、騎士になります!」
「騎士!?」
突拍子もないユナ令嬢の言葉に、私もアメルハルト王太子も目を丸くした。
「騎士は、、剣ができなくてはなれないぞ。」
「これから頑張ります!」
「それに、危険な地に行かされるかもしれないわ。」
「近衛を目指します。」
「でも…、」
「大丈夫です、私、異世界転移特有のチート能力があるようですから、死ぬ気で頑張れば、きっとなれます!」
確かに死ぬ気で頑張れば、大抵のことはある程度何とかなるかもしれないけれど、それにしても意外だった。
「エトゥーナ様は、私のために毎日ヒーリング魔法をしてくださいました。そのエトゥーナ様に相応しい人になるためには、私にも相応の努力が必要かと思うのです。」
「でも……、」
「今から身体を鍛えて、卒業後は騎士見習いを目指します。」
「騎士への道は甘くないぞ。」
「大丈夫です。今すぐには無理でも、いつかエトゥーナ様に信頼されるまで頑張ります。」
「ユナ令嬢…、」
「好感度、とか、ステータス、とかじゃなくて、本気でエトゥーナ様と向き合えるように、そしていつか好きになって貰えるように、頑張りたいんです。」
「分かった。そういうことなら、私もある程度は協力しよう。だが、騎士に役立たずはいらないから、本気で鍛えさせて貰うぞ!」
「望むところです!!」
予想外の展開に驚いたものの、私はこの先も二人と一緒にいられるのだと思ったら、素直に嬉しかった。
それから、ユナ令嬢は本当に言葉通りに騎士としての勉強と鍛練を始めた。
そして迎えた卒業パーティー、ユナ令嬢は美しい白に紅を差し入れて、金と黒で彩った、騎士のような礼服を着て現れた。
まるで宝塚のようである。
王太子殿下とのファーストダンスの後、私にダンスを申し込んだユナ令嬢は、今後を期待させる凛々しさだった。
卒業後、無事にアメルハルト王太子との婚儀を行い、王太子妃となった私の横で、なんとか騎士見習いとなったユナ令嬢が警護の列の端に加わっていた。
騎士見習いは甘くはなく、ユナ令嬢はその後もかなり絞られていて、私は友人として、疲労困憊の彼女に、時々こっそりヒーリング魔法を施すこともあった。
ユナ令嬢が正式に騎士になるまでには、あと数年ほどかかりそうである。
「エトゥーナ様のことは、私が必ず守りますね!」
騎士見習いの隊服を着て、必死に頑張っている姿を見ると、確かに胸のトキメキを感じてしまいそうだった。
「ユナ令嬢は頑張っているね。」
そんな私を、アメルハルト王太子が横から抱き締める。
「確かに彼女は頑張っているけど、でも、エトゥーナは私のものだから。」
そう言うと、不敵にユナ令嬢に向かって笑顔を作った。
「分かってます!でも私もエトゥーナ様愛にかけては負けませんから!」
不敬とも取れる言葉は、二人にだけ許されたものだった。
二人は今でも、いかに私が可愛いかについて、時々語り合っているようである。
いつか彼女は立派な騎士になって、私も王太子も国家も守ってくれるようになるだろう。
人は分からないものだった。
いかにエトゥーナが可愛いかという話で盛り上がり始めた二人を眺めた後、私はいそいそと王立図書館へと足を向けた。
今日は禁書の間へも入れる手筈になっていた。楽しみである。
今日も世界は平和だった。
おしまい
ここまで読んでくださり、本当にありがとうございました。
前回書いたラストはなかなかに不評で、私も書いた後もやもやが残りましたので、大幅に変更いたしました。
前回のラストを気に入ってくださっていた方は申し訳ありません。




