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旅の終わり

砂の海に変わった草原で、どす黒い植物の森は栄養を求め藻掻いていた。

巨体を維持する為には、周囲の生気を吸わねばならない。

それが突然絶たれた事で混乱が生じていた。


もはやナミロの意識は無く本能のみで動いていたそれは、手っ取り早く栄養を補給する為、一番近い動く物に食いついた。


上空を舞う無数の栄養たちに蔦を伸ばし襲い掛かる。

だが伸ばした蔦は雷撃と光によって尽く焼き払われた。


『ふむ、雷はまだ通じるようじゃが、光は効果が薄いか……』

「……ナミロが取り込んだ神の力でしょう」

『彼奴、どれだけ喰ったのじゃ……』


植物からは炎と毒気が噴き出し周囲を覆っていた。

あの毒はランガさえ行動不能にした、耐性が無ければ一瞬で自由を奪われ絡めとられるだろう。


アルがそんな事を考えていると不意に森が暴風を発した。


『不味いのじゃ!!』


アルが叫びを上げるのと時を同じくして竜巻が暴風を散らした。


『遅れてごめん!!』

『ウルラ!?……一族の方は良いのか?』

『うん、さっさとアルを助けに行けって怒られちゃった』

『そうか……。ではお主は風を散らしてくれ』

『任せてよ!!』


そう言うとウルラは翼をはためかせた。


黒い森は考える。


上は駄目だ。砂漠の端に大きな力が三つ見える。

その後ろには水の匂い。さらに先には数はそれ程多くないが栄養がある様だ。

とにかく栄養をとらなければ……。


植物は栄養の望めない根を切り離し、うねる蔦を使い、ラケルの森に向かって移動を始めた。

動く度に体が崩れ、砂の大地は黒く染まり腐臭を漂わせる。


「ねぇ、こっちに来てるよ!?」

「森に入れる訳にはいかねぇ。ファニ、ガーヴ、手を貸してくれ」

「ふぅ…分かったよ」

「元よりそのつもりです」


ガーヴが地面に足を打ち付けると、砂の大地は荒野の様な硬い地面に変わった。

砂に変わった土地の一割にも満たない面積だが、足を取られず戦えるのは有難かった。


「助かるガーヴ」

「はぁはぁ、僕はもう限界だ。あとは任せた」

「おう」


硬い大地が地響きを立てて揺れた。

何事かと目をやると、土煙の中にスカーフを撒いた熊が立っている。


『砂漠なら加減は必要ないな』

「多分、熱は効かねぇ。足止めを頼む」

『任せろ』


ランガは両腕を大地に打ち付けた。

砂から噴き出した溶岩がうごめく蔦にまとわりつき、急速に冷え岩と化す。

足を止められた植物は甲高い奇声を上げた。

衝撃が岩を砕き黒い植物の森はゆっくりとシロウ達に迫る。


『厄介な化物だ』


ランガは次々に溶岩を繰り出す。

植物は本能的に邪魔者が誰か判断したようで、無数にある蔦の先の口をランガに向けた。


『何!?』


連続する咆哮がその巨体を打ちのめす。


「ランガ!?クソッ!!……溶岩じゃ止めらんねぇか……ファニ、ガーヴとランガを連れて空から攻撃してくれ」

「あなたはどうするのです?」

「俺はこいつで切り込む」

「……分かりました。でも死なないで下さい。アルブムに生き返らせろ言われるのは困るので」

「死ぬつもりはねぇよ」


ファニにそう告げると、シロウは剣を片手に植物に向かった。

ファニは力尽きたガーヴと倒れたランガを抱え、空に上がった。


上空から雷と光が降り注ぎ巨大な植物を削っていく。

それでも眼前の植物は小さな森程もあった。


「凍れ!!」


剣から冷気が噴き出し、黒い森を凍り付かせる。

凍り付いた蔦は轟音を響かせ大地に落ちた。

しかし落ちる端から、新しい蔦が伸びシロウに向かって来た。


襲い来る蔦を雷が払った。


「アル!?」

『もう一人ではやらせないのじゃ!!』

「危険だぞ!?」

『我らは相棒じゃろう?』


アルは問いながらシロウの隣に降り立った。

人に姿を変え、連続して雷を落とす。


「キマはどうした?」

「不死鳥に預けたのじゃ」

「そうか」


剣が吹雪を巻き起こし、雷が蔦を焼く。

だが相手が大きすぎて、劇的な効果は望めない。


「クソッ、デカすぎんぞ!!アル、ファニをやった奴は使えるか!?」

「駄目じゃ!!あれは時間がかかる!!」

「しょうがねぇ!!俺が突っ込むからアルは浄化と癒しを頼む!!」

「浄化と癒し!?シロウ何をするつもりじゃ!?」


アルが問い掛けた時には、シロウは黒い森に向かって駆け出していた。

雪狼の剣を振るい、蔦が噴き出す炎と毒を払って森に飛び込む。


「嘘じゃろ……?シロウ……シロウ!!!」




シロウは周囲を凍り付かせながら、中心へ向かい進んでいた。

ナミロが作り出した森は内部も炎と毒で満ちていたが、外部と違い巨大な蔦が襲って来る様な事は無かった。

剣が作り出す冷気と吹雪の力でそれらは振り払える。


「チビ、しんどいだろうが、踏ん張ってくれ」


剣は任せろとでも言う様に周囲を凍り付かせた。

凍り付いた蔦を剣で切り裂き、森の中心部に向かったシロウは唐突に開けた場所に出た。


森の周囲は破壊に満ちていたのに、その場所は酷く静かだった。

中央に巨大な木が一本生えている。

その根元近く、見覚えのある男の体が木から突き出ていた。

男は目を閉じ眠っている様だ。


「ナミロ。……一度言ったが、昼寝好きの神様って事で広めておくからよ」


シロウはそう言うと剣を構えナミロの胸を切り裂いた。

どす黒い血がシロウの体を染める。

それに構わずシロウは腰の袋から白い光の揺らめく水晶を取り出した。


「悪ぃな」


シロウが水晶を胸に近づけた瞬間、ナミロの頭部が虎に変わり水晶を持った左腕を食いちぎり飲み込んだ。

ちぎれた腕から血が噴き出し、木の根が絡まり合った地面を赤く染める。


「グッ!?……まだ…動けた…のか……?」

「えいよう……えいようだ……」


ナミロの声に合わせ、周囲の木々がざわめき始める。

シロウはふらつき、剣を杖替わりにして膝をついた。


「ヤバ…そうだな。……チビ…止血を…頼む」


願いに応え剣が左腕を凍り付かせた。

顔を上げたシロウは、ナミロが腕と一緒に飲み込んだ水晶に命じた。


「吸え……」


呟きを切っ掛けに無表情だったナミロの顔が歪む。

彼の中で漂っていた魂と力が吸われているのだろう。


森の色が黒から植物本来の緑と茶色に変わっていく。

シロウは体が何かに引っ張られる感覚を感じながら、ぽつりと呟いた。


「すまねぇなチビ、付き合わせちまってよ」


剣から飛び出した白い犬は、尻尾を振りながらシロウの頬っぺたを舐めた。

シロウは振るえる手を伸ばしてチビの頭を撫でた。


「へへッ…お前…分かってんのか?……アル……すまん…旅は…終わり…みてぇだ…」


シロウが目を閉じると同時に、ナミロの中で力を吸っていた吸魂の宝珠は限界を超え弾けた。

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