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第1幕エピローグ「俺の非日常はまだ始まったばかりだ」

「……っ、ふぅっ!」


 ベッドに身を投げて、勢いよく息を吐き出すことで体の痛みを忘れようと努める。がむしゃらに走ったり、剣を振ったりしていたお陰で全身筋肉痛だ。まともに動くことすらままならない。


 シルクの一件から数日。街は完全に、というほどではないがなんとか機能するまでに復活し、人々は懸命に日常を過ごしている。活動期も直に終わりを告げるから、もう流石にあんな大きな事件は起こらないことだろう。それにしてもこの復帰力は流石に魔物との戦いの最前線といわれるだけはある。

 エミィの宿屋も、大きな外傷はまだ残っているものの、取りあえず安心して住める程度には復帰した。完全修復までは大工の手が回らなかったようで、営業再開にはまだ少し時間がかかりそうである。


 俺はベッドの上で紅茶を嗜みながら、心の中の魔王に話しかけた。


「……なぁ、オルガニア?」


『ふふふっ……どうした、アルス?』


「お、おう……相変わらず上機嫌だな」


 杖を取り戻してからというもの、オルガニアはずっとこの調子だ。

 ちなみに俺はオルガニアの杖を部屋の隅に立てかけている。

 追々魔力は回収する、と楽しそうに言っていたが、これでオルガニアの魔力は全て戻るのだろうか。


「……あのさ」


 俺はあの事件のことを思い出す。

 自分のためとはいえここまで協力してくれたオルガニアには聞いて欲しい事があった。


 静かに深呼吸してから噛まないように気をつけて。


「俺はさ、強い勇者になりたかったんだ」


 始まりはあの呟きから。

 勇者に憧れる言葉を言ったその瞬間から、俺の夢はそれだけだった。


「誰でも助けられて、どんな敵にも勝てる……そんな勇者にって。……でも、違うな。誰でもなんて無理だ。どんな敵にもなんて、もっと無理だ。……でも、そこにいる誰かのことならなんとかなるかもしれない」


『……』


 浮かれ気味だったオルガニアが、珍しく耳を傾けてくれている。

 俺は紅茶で喉を一旦潤してから一息入れて、続けた。


「物理的な強さってのもそうだけど。気持ち的な意味でな。だからまぁその……言いたいことはだな」


 締めくくろうとしたところで、最後の言葉が詰まる。

 言いたいことはまとめていたつもりだったが、いざ言おうとすると小っ恥ずかしい。

 お礼も何度か言っているものの改めて、となるとこれは少し訳が違う。


「……うーん。うん、あのさ」


『……なんだ』


「……あーーー!! やめ! やっぱやめだ!! なんでもない!」


『……はぁ?』


「魔力が戻るまでこれからもよろしくってこと! それだけな!」


 羞恥心が限界に達した俺は早々に話を切り上げてそのまま枕に顔を押し付けた。

 魔王に感謝する日が来るなどと誰が想像しただろうか。あいにくだが、やはりそこまで素直にはまだなれないようだ。


「…………」


 しばし、部屋に静寂が訪れる。


『まぁ、よくやったと褒めておこう。杖を取り返したおかげで我の魔力は完全ではないにしろ大きく戻ることは間違いない。十全な結末だ』


「……杖、ね。そんなに大事なもんなのか?」


『無論だ。ふふっ、なにせこの杖は我がまだ、に――』


「……? なんだよ」


『……なんでもない。ともかく大切な物なのだ』


「……ふーん。なら戻ってきてよかったな」


 まだ、に――。とはなんだろうか。

 オルガニアは何かを言いかけたようだが、明らかに慌てて口を噤んだ。

 そういえばなんとなく一緒にいるけど、俺はオルガニアの事をまるで知らないままだ。


 オルガニアには、どんな過去があるのだろうか……なんて事を想像しながらまどろみの中に意識を落とそうとしたところで――しかしその眠りは扉が勢いよく開かれる音によって妨げられた。


「おい、アルス! お前にこんなモンが届いたんだが……」


「でぇあ!? え、な、なんだよ? 届け物? 実家からか?」


 突然の事で心臓が痛いほど跳ね上がり、視界が明滅を起こす。すわ何事かと目を凝らすと、慌てた様子のガストが一枚の紙を持っているのが見えた。

 紙は見るからに人工物と分かるグログロとした赤で塗られていて、実家からの贈り物にしては趣味が悪すぎる。

 一体なんなのだろうかと、俺はガストから紙を受け取って紙に記された内容に目を走らせた。


「え…………たい、ほ、じょう?」


 その紙には、趣味の悪い広告の見出しのように横書きに大きく逮捕状と書かれていて、その下には細かな字が記されていた。


 逮捕状。


 この意味が分からないほど俺は馬鹿ではない。


「なんだこれ、どういう……」


「と、いうわけです。突然で申し訳ありませんが、ご同行願えますか?」


「……っ!?」


 俺と同じように困惑の表情を浮かべるガストの後ろから、凛とした雰囲気を持つ女性が入ってくる。


 胸元に華の文様が刻まれた銀の鎧。

 淡白にまとめられた癖の無い銀の髪の毛。

 大きく丸く女性らしさがあれど、鷹のような鋭さを感じさせる朱色の瞳。


 そんな女性が、俺をまっすぐに見つめて逮捕宣言をしていた。


「うそん……」


 俺の日常は――まだまだ壊れ始めたばかりだ!







これにて第一幕、簡潔でございます。

ここまで読んでくれてありがとうございました。続きの部分もどんどん推敲していくので、期待してくれると嬉しいです。

推敲前だと少女エミィとの関係がすっごく薄くて、なんというか人間関係に深みが全くなかったというか、今後に生きない構成でした。というか登場人物の人気が出なかった(猛省)

完璧じゃないにせよそこを少しだけ改善できたのかなと思います。あと矛盾点とか適当な設定もぼちぼち改善してると思うので読みやすくなってます。そこはまあ、まだまだ自分は物書きとしては素人なので蛇足なのですが。自分語りはこの辺で弁えておきます。


では、また第二幕で!

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