10章
宴もたけなわを過ぎてお開きになった頃、アリスは酒臭い会場を抜け出して外に出た。
宴会自体は嫌いじゃない。前世じゃ作戦完了の節目でよく行われていたからだ。
「ふぅ、しかしAランクか・・・」
ひっそりこっそり世界旅行したかったんだが何の因果やら。
壁にもたれ、ふぅとため息をついて空を見上げる。
人工の明かりや高層ビルがない分、この世界の夜空はきれいに見える。
知った星座はないだろうなぁと思いつつ宴の熱を冷ましてると、不意に「おい」と声をかけられた
「んぁ」とそっちを見たところ、柄の悪い冒険者が3名ニヤニヤしながらこっちを見ていた
「こんなガキがAランクかよ」「兄貴、きっと不正したんだろうぜ」「違いない、こいつがAランクなら俺たちもAランクのはずだからな」
酔っているのか、酒臭い息をしながらこちらに寄ってくる。うーむ、テンプラもといテンプレな展開だな。
「どんな手を使って上げたのか知らんが、上げすぎちまったなぁ」
まったくそのとおり。
「だが俺たちも悪じゃない。ちっと相手してくれるなら見逃してやってもいいぜ」
ニヤニヤする3人。鳥肌が立つ私。こいつらロリコンかよ。
だがまぁ人通りはそこそこあるため周囲の注目が集まってきてる。これを利用しない手はないな。
「おい、黙ってないでコッチこいやぁ」
いきなり胸倉をつかまれて持ち上げられる。狙ったとおりの行動だな。
周囲もいきなりな展開に騒ぎ始めた
「おいこら何とか言ったらど・・・」
自分を持ち上げた男の表情が凍る。私の目を見た瞬間に。
持ち上げられた瞬間、私はいっさいの感情を殺した。何の感情も浮かべない、文字通り人形になって。
昔、拷問を教わったときに聞いた話だと、人が耐えられないものは肉体的苦痛より精神的苦痛であること。
そしてその中でも「わからない」ものに恐怖し耐えられなくなるらしい、と。
分からない・理解できないは人の根源にある恐怖心を掻き立て、冷静な判断を奪う。そう理解した私は感情を完全に制御する訓練をし、その結果感情制御に使われていた脳のリソースを戦闘行為に応用することが可能となり、「キリングドール」と呼ばれるまでの戦闘能力を得ることにつながった。
男達が目にしたのは、そんな私が拷問するときによく使ってた、感情の一切を廃した目、表情筋まで殺した顔で相手の恐怖心を極限まであおる「ドールフェイス」(前世の仲間が命名)だった。
余談だがある日系の仲間からは「市松ドールっぽくて怖い」と高評価(?)だった。
「「「ななな、なんなんだよてめぇは・・・」」」
あまりの恐怖に私を取り落としたあと、腰を抜かしたリーダーらしき男。何をしたんだとこちらを睨んだ2人も、同じように恐怖し腰を抜かして同時に叫んでいた。
そんな彼らを何をするでもなく、ただドールフェイスでじっと見つめる私。
永遠のような数秒ののち、誰が呼んだか衛兵が駆けつけてきた。
その姿を確認した後、ドールフェイスをやめて衛兵に事情を話し、3人を引き取ってもらった。
連行される彼らを見送りながらふと、なんかまた面倒ごとがおきそうだなと漠然と感じた。
・・・次の日、ギルドに行ったら王城からの招待状が届いていた。