第十八話 アレが違う!
ボクは新城真琴。
屠龍滅撃流。
かつて遙か天竺からシルクロードを渡ってきた武術が元と言われている。
もともとは北インドあたりで蛇を追い払うために僧侶が持ったのがはじまりと言われる錫杖から発生した流派と口伝されている。
それが光武帝が日本に送った金印を守る護衛によって伝えられたとされる。
日本に伝わってからは矛から薙刀、槍と剣の流派に変化した。
屠龍とは龍を倒したという伝説から。
直接見たことある竜はジャスくんだけなので、おそらく創作だろう。
伝来以来、日本の皇室を一族として裏の世界で名を馳せていた。
それも今は昔、幕末の動乱で剣は銃に勝てないことが常識になってしまった。
それ以来、我々も銃とナイフを中心とした稽古に移行。
いまは一族でも公安に勤めるものが多い。
宗家である新城家だけが剣を伝える有様だ。
まさに時代に取り残された一族であった。
そのくせ宗家の権力と気位だけは一人前。
その正体は脅迫、誘拐、暗殺は当たり前。
兄弟姉妹は宗家をの座を争う敵。
ときには父や母すらも。
最後に生き残ったものが当主になるデスゲームを延々繰り返している醜い一族だ。
私はその畜生どもの末っ子として産まれた。
残念ながらデスゲームには関係ない。
だから私は駒として、上流階級の女性として育てられた。
その生活も小学生入学時に突如として奪われた。
父が会ったこともない兄に斬られ当主が交代した。
私は良家のお嬢さまから剣士として育てられることに。
逆らえば死。当主である長兄の期待にこたえられなければ死。
そして私は蠱毒と評される摩郷島工業に入学。
卒業すれば自由が得られる約束だ。
生き残ればだが。
ジャスくんはいまいちわかってないようだが、摩郷島工業を生きて卒業できるのは十人に一人。
ほとんどが在学中に死亡する。
それも死亡者のほとんどは一年である。
この学園は巨大な蠱毒の壺だ。
暗殺拳を継承できなかった次男三男。
時代に取り残された暗殺拳の継承者。
生き残りさえすれば待っているのはこの国を牛耳る権力者の護衛。
国家に仇なす悪を討つ暗殺部隊。
世界各国を股に掛ける凄腕の殺し屋も可能だろう。
そうなのである。
だが……アマモや慈恩姉妹は別格だろう。
あれは上位の実力者だ。
この学校をエンジョイできる化け物だ。
なにが「将来の夢は車屋さん」だ!
慈恩姉妹は「バイクショップに就職」とか寝言言ってる。
バカじゃないかな?
……彼女らは寝言が許されるほどの戦闘力なのだ。
じゃれ合うときも手加減してくれてるが、実力は数段上だ。
私のように死ぬことを期待されて入学させられたものたち。
ジャスくんも同じだ。
ジャスくんは海外での戦闘訓練は受けてるが素体は普通の人間だ。
家庭裁判所にこの学校に入るよう言われたというのは、つまり……。
裁判所はジャスくんに生きてられては困るということだ。
そんな地獄のような状況での異世界転移。
それはチャンスだった。
私だけではないだろう。
人生をやり直すことができる。
魔王になれればだが。
だがそうだとしても私には甘い蜜だ。
人生をやり直すチャンスだ。
ジャスくんと普通の生活を手に入れる。
それを邪魔するものは許さない。
……殺す。
「な、オラの足がああああああああ!」
アマモの漢字だらけで読めない必殺技で坊主頭の全裸男の足が凍る。
なぜか股間に象の顔が描かれてる。
春日部流。
下総を治めていた千葉氏の暗殺部隊を務めていたと言われる流派だ。
源流は古代エジプトのファラオ、メネス王の親衛隊にあると言われてる。
だがアマモの方が強い。
アマモが地面に着地した。
「……おい、マコト」
「どうした?」
「お、男の人の象さんってあんなグロいの!?」
いきなりの爆弾発言。
「そこぉ!? っていうかジャスくんのも見たでしょ!?」
「だってジャスくんのイボイボなかったよ!」
「これだからツルペタは……そんな人もいるのでしょう!」
慈恩姉が呆れた声を出す。
「あれは改造手術ですわ。お姉様」
なぜか詳しい慈恩妹。
「改造……?」
「い、いえ。お姉様を汚さないでくださいまし! お姉様は未だにぬいぐるみと一緒に寝てるお方ですわ!」
「あーしと知識変わらんじゃねえか!」
「う、うるさいツルペタ」
同レベルである。
「おめえはどうなんだよ。デカ乳首!」
あ、こっちに弾飛んできた。
「汚いものは見ないようにしてるから知らない」
プイ。顔を背ける。
「あー! お嬢さまぶりやがって! うわああああああああん! 都民がいじめる!」
「と、都民の人でなし! 千葉埼玉から搾取ばかりして!」
「うちは代々警察だから、中学時代から法医学の講習受けるの! 知識として習っただけだって……」
「こ、この清楚系叡智女優が!」
「……お前ら本気でぶち殺すぞ」
言うに事欠いて人を叡智女優扱いとは……。
人は怒りだけで人を殺せるのかもしれない。
「じゃ、オラとショタはこれで」
「逃げるんじゃねえ! 嵩山昇龍波!」
アマモのアッパーカットとともに龍が天に昇っていく。
なぜか龍にはモザイクがかかってる。
空気の読める必殺技だった。
「うおおおおおおおおおおおおおッ!」
悪は叫び、そのまま滅びた。
そしてアマモはズカズカとジャスくんのところに歩いて行く。
そのままズボンを脱がしてチングリ返し。
「なななななな! なにするだ!」
ジャスくんが叫んだ。
「ほらジャスくんのは違うじゃん!」
「ほら咲夜! 違いますわ!」
中学校の保健体育すらサボったであろうバカ二人が自信満々に叫んだ。
違う。そうじゃない!
そうじゃないが具体的な話は口に出せない。
我々は淑女なのだ。
「ふえええええええええええ! たしゅけてまこちん!」
「ほら! アマモと伊予! ジャスくん泣いちゃったじゃない! いじめないの!」
「いじめてませんわ! ジャスくんのは違うという話を……」
「ふええええええええええん!」
「ほら、咲夜も止めて!」
「その……あの状態のお姉様は止まりませんわ」
……最近、私は思うだ。
異世界の方が日本より楽しいのではないかと。
いやそれは不謹慎かもしれないが……。




