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父と娘

2026年 8月17日 月曜日 22:31


「次は渋谷、渋谷です、左側の扉が開きます──」


 人も少なくなり始めた電車の中に、次の駅を告げるアナウンスが流れる。

 乗客はそれぞれ荷物を持ち、次に開くであろう扉の前に少しずつ群れ始める。


「…………ったく、しこたま殴りつけやがって」


 その乗客の中に彼女、玖珂晶が居た。

 腫れ上がった左頬を軽く擦りながら、晶もまた特訓後の着替えや財布などが入ったジムバックを手に持ち立ち上がる。


「渋谷、渋谷です、お降りのお客様はお忘れ物の内容お気を付けください。 次は──」


「一閃とか言って、全然できねぇし……イラつくぜ」


 到着を告げるアナウンスを聞き流しながら、晶は右手に荷物を持ち降車する。

 ホームへ繋がるエスカレーターは人の列を作り、彼女はそれを呆れた顔をしながら一瞥すると階段へ向かう。


「あんなに列作って待つ位ならぱっぱと階段上った方が早くねえか?」


 そう呟きながら人の列を避け、そして見えてきたものを見て晶は先ほどの自らの意見が間違っている事に気が付いた。


「なるほど、そりゃ避けてくわけだ」


 大きな階段には数人の青年たちが座っており、彼等が出口への道を封鎖していた。

 見るからに今時の不良と言った見た目の彼らは自分達が誰かの邪魔になっていることに気が付いていないのか、延々とその場で会話を続けている。


「オイ、邪魔だから失せろ」


 晶は階段を塞ぐ青年達にうんざりした表情をしながら近づくと、一言そう告げる。


「あ?」


「え、なにこの子、よくね?」


「オイオイオイ、こんな時間に君みたいな子が歩いてると危ないよ~?」


「っつーか今、おれらに邪魔だっつわなかった?」


「ははっ、良い度胸してんじゃん」


 晶の声かけに男達は一斉に彼女を見て、思い思いの反応を返しながら立ち上がった。


「おれらちょうどヒマしてたんだよね、いっしょにあそばね?」


「オイオイオイ石黒ぉ、お前この間ひっかけた子そのままアレで潰しちまったんだろぉ?」


「こんなアホよりさ、オレと一緒にヤんね? 一発5000とかでさ」


 晶を見て、盛り上がり始めた男達に彼女は溜息を吐いた。

 直ぐ隣で不良達に囲まれた晶を見ても、大人たちは見て見ぬふりでそれが余計に彼女を落胆させた。


「いいからさっさと退けろ、退かずに次にそのくせぇ息吐いたら殺す」


「あ? オイオイオイ、よっちゃんこのアマ嘗めた事抜かし────」


 晶の言葉に、茶髪の男がリーダー格と思われる男へ顔を向けた。

 その次の瞬間、晶の拳が漢の腹にめり込んでいた。


「おっ、あっ……!!」


「くせぇ息吐くなつったろ」


 晶の体からは見合わない打撃を無警戒な腹部に諸に受け、男は膝を折りぶざまにホームの地面に頭から落下した。


「て、てめぇ!」


 倒れていく男を避けながら、階段を昇り始めた晶に男の仲間が背後から手を伸ばす。

 だが晶は彼女を捕まえようとする腕をするりと避けながら、裏拳を男の顔面に叩き込んだ。


「がっ!」


「う、うわぁっ!!」


 その裏拳の衝撃で男はエスカレーターの方へ吹き飛び、もたれかかるように倒れた。

 晶と男達のやり取りを見ていた男性の一人は自らの近くに飛んできた男に思わず悲鳴を上げる。


「ちっ、雑魚が……練習にもなりゃしねぇ」


 自らの拳に残る感触にイラつきながら、晶は吐き捨てるように言った。


「掛かってこいよ、全員纏めて殺してやっからよ」


「ひっ……」


「や、やべぇよこの女……!」


「け、警察、警察に……!」


 残りの三人はイラついた表情の晶を見て、怯え携帯を取り出そうとする。

 それを見て、彼女は更にイラついた表情を作りながら踵を返し階段を駆け出した。


「てめぇ、絶対タダじゃおかねえからな……!」


 彼女の背後からは、そんな負け惜しみの様な遠吠えだけが聞こえてきた。

 だが晶はそんな言葉が耳に入るよりも早く、勢いよく階段を駆け上がると改札を抜け渋谷の街に躍り出る。


「ったく、余計な時間食っちまった」


 人がごった返す駅前で、晶は悪態を吐くと帰路へ目線を向け……その通り道にある交番から何人かの警察が出てくるのを確認した。


「よえーのに電話すんのだけははえーな、あの連中」


 明らかにそれが先ほどの騒動に対しての出動であることを確認し、警察との鉢合わせを避けるため少し遠回りをして帰る事を決意する。

 その時だった。


「あーちょっと君、今いいかな」


 一足早く交番から出ていたであろう警察官と晶は遭遇した。

 思わず、晶の顔にうんざりした表情が浮かび上がる。


「げっ……」


「さっき交番に通報があってね、暴力を振るわれたって話だったんだけど……君何か知ってる?」


 あからさまな疑いの眼差しを自身に向ける警察官に晶のイラつきの度合いは更に増した。


「しらねぇな、アタシは今急いでんだ、退けろよ」


「いやいや、そういう訳にはいかないな。 それに君のその怪我はどうしたの、ちょっと詳しく話を……」


 警察官の横をすり抜けようとする晶を、男は制止する。


「あ?」


 その行動に対し、晶は警察官を睨みつけ拳を握った。

 頬の怪我について言及され、晶は一日中行っていた特訓で一度も一閃を決められなかったことを思い出し更に力強く拳を握りしめる。


「なんだね君、その目は……やっぱり怪しいな、ちょっと付き合ってもらうよ」


「アタシに触んじゃ──」


 晶へ警察官の手が伸び、反射的に払いのけようとしたとき彼女の腕を別の男の手が掴んだ。


「そ、それには及びませんよ……」


「てめぇ……!?」


「……あなたは?」


「わ、私は玖珂安男くがやすおと申します。 この子の父でして……」


 晶よりも少しだけ背の高い、眼鏡を掛けた痩せ型の男性はそう名乗った。

 丁寧に身分証明書代わりの運転免許証を警察官に手渡しながら。


「父親?」


「は、はい、その……この子はその……左頬が腫れる難病持ちでして……」


「難病? 本当ですか?」


「え、えぇ……それで今はその、二人で映画館に向かっている最中でして……え、映画の時間が迫ってるんです」


 必死に説明をする父親の姿に、警察官は頷くと道を開けた。


「そういうことでしたら……失礼しました、では本官は仕事に戻りますので映画楽しんできてください!」


「あ、ありがとうございます……! ほ、ほら、晶! 行こう!」


「ちっ……いつまでも触ってんじゃねえよ!」


 道を開けた警察官に晶は父親の手を強引に振りほどくと、映画館方面に向かって歩き始めた。


「あっ、ご、ごめん……って晶!」


 先に歩き始めた晶を見て、父は慌てて彼女の後を追う。

 その二人の姿を苦笑しながら眺めると、警察官は駅構内へと消えて行った。


「……あ、晶、その、余計な真似だったかな?」


「…………」


 人ごみの中を強引に進む晶と、その後を必死に追う父。


「あっ、す、すみません、は、はは……」


 道中何度も人とぶつかり、その度に立ち止まって頭を下げる父の姿を後ろ目で見て晶は息を吐く。

 そういったやり取りを何度も繰り返し、人気が無くなった通りに出ると晶は立ち止まり振り返った。


「……なんであそこに居たんだよ」


「し、仕事の帰りさ……エスカレーターを待っていたら晶が喧嘩を始めたのが見えて……慌てて追ったんだ」


「ストーカーかよテメェは」


「は、はは……ご、ごめんよ晶……し、仕事が最近上手くいっていて晶に話したくて……で、でも晶が警察に捕まらなくて良かったよ」


「余計な事しやがって、助けてくれなんて言ってねぇ」


 イラついた表情で、左手の掌に拳を打ち付け晶は低い声で脅すように言った。

 そんな娘の言葉を聞き、父は少しだけ怯えたがそれでも彼女に言い返す。


「あ、あぁ……そうだよね、ごめんよ晶……でもその、お父さん暴力はやっぱり、その、良くないと……思うんだ」


「わりぃのは道塞いでたアイツ等だろ、アタシは退けっつった、アイツ等は退かなかった、だから殴った」


「た、確かに彼らはその……良くなかったけれど、だからって暴力は……」


「世の中には話し合いだけで解決しねぇこともあんだろ、それともああいうバカが納得するまで話し合えってか?」


 父の言い分に晶は呆れた表情で言い返す。


「そ、それは……やっぱりそうだと思う……」


「けっ、テメェみたいなのが居るからああいうバカが調子に乗るんだよ、わりぃことしてる奴ぁ誰かがぶん殴ってやらなきゃだめなんだよ」


「な、殴る必要は無い……と思うかな……ほら、け、警察とか駅員さんとかに言えば……」


「言ってアイツらが何か変わんのかよ、他の場所で同じことすんだけだろ。 ああいう犬みてーな連中は一度殴って躾けてやらなきゃいけねぇんだ」


 言って、左手に打ち付けた拳を晶はゆっくりと握り俯いた。


「そう……アタシがやらなきゃいけねえんだ……」


「あ、晶?」


「テメェと話してると相変わらずイライラするぜ、アタシに喧嘩すんなとかって言いてえんなら……まずはテメェの後ろから来てる連中に先に言うんだな」


「え……?」


 晶の言葉に父が振り返ると、そこには金属バットなどを持った先ほどの男達が遠くから集まりつつあった。


「さ、さっきの……に、逃げよう晶! そして警察に……」


「馬鹿かテメェ、何度も同じこと言わせんなよ、ああいう連中はぶん殴って分からせてやらなきゃいけねぇってなぁ!」


 男達を見た瞬間、父は腰が引け、晶へゆっくりと近づきながら逃げる様に言う。

 だが彼女はそれを聞かず、拳を鳴らすと男達へ向かって駆け出し……男達へ不意打ちの一撃を見舞った。


「毒蛇の晶の嘗めんじゃねぇ!!」


 彼女の父は、晶がただ一方的な暴力を振るうのを見ている事しか出来なかった。


───────────────────────────────────── 

2026年 8月18日 火曜日 13:00


「相変わらずここは人が多いなぁ……」


「しゃーねーだろ、今やアニメやゲームは日本の一大文化だ。 外国人観光客も集まるってもんだ」


「はは、そうだね、実際俺もどっちも好きだし」


 二人は秋葉原駅の改札から雑談をしながら降り、誠が三木を先導する。


「お兄さんにはそういうのわからんからなぁ、今は萌えとかも言わなくなったんだったか?」


「モエ……? あー、何か昔の人はそういうの言ってたって聞いたことあるなぁ」


「おぉ……これがジェネレーションギャップ、ちょっとクラっと来たぜ」


 三木はおでこにわざとらしく右手を当てながらふらつき、立ち止まる。


「はいはい、ふざけてないで早く行くよおじさん、今日は三木おじさんが付いてきたいって言ったんだからさ」


「……冷たくなったな誠、いや大人になったのか?」


「もう俺も高校二年だよ? 三年前よりも成長してるのは当たり前じゃないか」


「クク、それでこの体たらくなら三年前は今よりもよほど危うかったと見える」


 アモンは誠の肩掛け鞄から飛び出すと、飼い主の頭に飛び乗った。


「う、うるさいな」


「誠は昔は引っ込み思案でな、よくお父さんお父さんって言って先輩の後を……」


「お、おじさん!」


「ほう……その話は面白そうだ、もっと聞かせてみろ」


 三木が笑いながら相槌を打つと、アモンは興味がそそられたのかもっと話すように彼に催促する。

 

「いいぜ、それじゃあ誠がまだ小学四年生だった時の……」


「おじさん! それ以上話すと連れて行ってあげないよ!?」


「っと、本人からストップが掛かったのでこの話はここまでだ」


「ふむ、では次は本人が居ない場所で聞くとするか」


「それもダメ! 全く……こんな事ならおじさん連れてくるんじゃなかった」


 軽く怒った表情を見せながら、誠は進み続ける。

 

「だはは、すまんすまん、けどその古森って青年にはまだ会話したこと無かったから挨拶したくてな」


「会話なんて古森さんが家に来た時に出来るじゃない」


「まぁそりゃそうなんだが……少し気にかかってる事もあってな」


「気にかかってること?」


 誠の言葉に三木は頷く。


「……古森青年の親御さんについてな」


「古森さんのご両親は確か……父さんの事件に巻き込まれて……」


「あぁ、死んでいる。 石動市の事件に巻き込まれた人達の死亡者リストには彼の親御さんの名前があった」


「それの何が気にかかる事なのだ?」


「ま、ちょっとな……それについては直接会って色々聞きたくてな」


 三木はそう言うと、顔の前に人差し指を持ってきてチャックを閉じるような仕草をした。


「さぁぱっぱと行こうぜ、古森不動産があった場所によ」


「はいはい、分かってますよー」


「ふむ……」


 アモンの疑いの眼差しを、三木は気にもせず二人はそのまま古森が待つ懐かしの廃ビルへと向かっていくのだった。



【閼伽井 誠 人間性ステータス】

教養 ★★★学校でトップレベル

勇気 ★★★警察官並み

慈愛 ★★★★ 被災地にボランティアに行くレベル←Rank Up!

魅力 ★★★ 何処にに出しても恥ずかしくない

ユーモア ★★★合コンとかに誘われる

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