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見知らぬ天井


 雲一つない晴天。

 足元を見れば、どこまでも透き通った青。

 今自分が立っている地面すら、どこまでが地面でどこまでがそうでないのか分からない。

 そんな場所で誠は目覚めた。


「ここは……どこだ?」


 誠は、自らの記憶があった最後とは別の場所に立っていることに気付き思わず声を出した。

 周囲を見回してもこの空間には自分一人だけが立っており、彼を不安にさせる。


「もしかして俺、また死んじゃったのか……?」


 そう不安そうに言う誠の後ろから、彼にとって聞きなれた声が響いた。


「案ずるな、今の所はまだ生きている」


「その声は、アモ…………ン?」


 今となっては最早聞きなれた悪魔の声に後ろを振り向いた誠は、そこに居た悪魔の姿に驚愕した。

 そこに居たのはいつものフクロウの姿をしたアモンではなく、より巨大な、悪魔本来としての姿をしたアモンだった。


「……あぁ、そういえば我のこの姿を見るのは初めてだったなマコト」


 誠の大きさを優に超え、ヘカトンケイルよりも大きいであろう巨体。

 そして梟の頭部と胴体、そして狼を思わせる真っ赤な二本の腕、蛇の尾を持つ悪魔の姿に誠は一歩だけ後ずさりをした。


「ア、アモンなのか……!? それにこの姿って……」


「落ち着け、この姿は我本来の姿だ。 常日頃のあの姿は仮の姿に過ぎん」


「そういえばそんなことを最初に言っていた様な……」


「思い出したか、現実では我はあの姿ではあるがこの場所でならば本来の姿に戻るのは当然の事」


「この場所? そういえば、ここは一体どこなんだ? この間の川じゃないみたいだけど……」


 威厳のある声色でそう語るアモンに、最初は驚いていた誠も徐々に落ち着きを見せる。


「ステュクスの事か、確かにここは冥界の川辺ではない、だが現実でもない」


「じゃあ、ここは一体何なんだ?」


「ここはお前の魂の中だ、今は我と同居の状態にある」


「俺の魂の……中?」


「そうだ、今の現実のお前は昏睡状態にある。 それゆえ意識がここまで落ちてきたのだろう」


 アモンは事も無げにそう言うと、右手を鳴らした。

 すると彼の巨大な体を預けるに足る玉座が現れ、彼はそこに腰を落ち着ける。


「昏睡状態……!?」


「ククク、だがそれも当然の事……我が秘奥を用いて死ななかっただけむしろまだ運が良い」


「運が良いって……確かに川から戻ってる途中でリスクがある技だとは言ってたけど酷いなぁ、下手したらアモンも死んでたかもしれないだろ」


「我は死なん、いざとなれば指輪にまた戻れば良いだけの話だからな」


 冷笑を浮かべながらアモンはそう言い、誠はげんなりした表情を浮かべた。


「だがお前は我が秘奥を不完全かつ無様な形ではあるが再現し、奴を退けた……これは称賛に値する、よくやった」


「アモンが褒めてくれるなんて珍しいな……何か裏があるんじゃないか?」


「ククク、我の予想であればそのまま秘奥によって脳神経が焼き切れ死ぬところをお前は生き残ったのだ。 これが称賛に価せず何が違うというのだ?」


「俺が死ぬの前提で考えられてたってのはかなり胸がモヤモヤするんだけど……素直に受け取っておくよ」


 玉座に座りながら、その巨大な手でゆっくりとした拍手をするアモンに誠は頷きを返した。


「それで、俺はあとどれ位で目覚める予定なんだ?」


「肉体はもう回復している、そろそろ目覚めの時だろう」


「そっか……なら、目覚めてからも言うつもりだったけど今ここで改めて言わせてもらうよアモン」


「……言う?」


 玉座の肘置きに左腕を置き、アモンが腕に顔を乗せ興味深そうな表情を浮かべた。


「あぁ、今回はアモンがあの技を教えてくれたお蔭で助かった、ありがとう」


「ク、ククク……! ハハハハ! 馬鹿な奴め、我があれを教えたのは──」


「分かってるよ、あれを使えば俺の寿命が縮んでアモンが俺の体を乗っ取るのが早くなるからだろ?」


 誠は深々と頭を下げ、悪魔へ礼を言った。

 アモンはそれを見て彼を嘲笑ったが、それでも誠は礼を続ける。


「それでもいいんだ、皆が助かったから。 だからありがとう」


「……以前から薄々狂人なのではないかと思っていたがよもや本当にそうだとはな」


「狂人は酷くない!?」


「今のお前の行動を狂人と言わず何と言うのか、何れにせよ礼など不要だ、我は我の目的の為に力を貸しただけに過ぎん」


 そう言って、アモンは馬鹿馬鹿しいと言った表情を浮かべて顔を背け目を細める。


「……見ろ、地平線が白ずんできた。 お前の肉体の目覚めも近い」


「そうか、なら待ってれば目が覚めるかな」


「そのまま目を閉じていれば直ぐに意識も肉体に戻る、再びここに来ることも恐らくはあるまい」


「そっか、ならアモンのその姿をよく覚えておくことにするよ」


「クク、偉大なる我の姿を目に焼き付けておくのだな」


 目を閉じる誠にアモンは再び笑い、そして言った。


「では、また向こう側でな」


─────────────────────────────────────

 

2026年 6月29日 月曜日 16:16


「はっ……!」


 意識をベッドの上で取り戻した時、まず最初に目に入ってきたのは真っ白な天井だった。

 見覚えのない天井に、顔を横に向けた誠の視界に次に飛び込んできたのは同じく真っ白な壁と床。

 右側の壁には窓が設置されており、半開きとなった窓からは都会の変わらぬ喧騒が聞こえてくる。


「ここは……病院か」


 ベッドに自らの名前が書かれたネームプレートが設置され、自らも下着の上に一枚羽織っているだけという格好に誠は直ぐにここがどこか理解した。


「そうか、あの後俺は倒れて……それで誰かにここまで連れてきてもらったのか?」


 病室で今まで起きた事を考えながら、外を眺めている誠の耳に廊下から複数の足音と羽ばたき音が聞こえてきた。


「……なんだ?」


 騒々しい音を立てながら自らの病室に近づいて来る誰かに誠は一瞬身構えるが、病室に入ってきた人間の顔を見て直ぐに安堵の表情へと変わった。


「おぉ、マジで起き上がってんじゃねえか!」


「先輩!!」


「何か意外と大丈夫そうっスね、誠君」


 入ってきたのは、三人の仲間達と一匹のフクロウだった。

 アモンに連れられ、晶、花、古森の三人は入室すると起き上がっている誠を見て全員嬉しそうな表情に変わった。


「やぁ皆、何かその……心配かけてごめん」


「ったく、ひやひやさせやがって……アタシ等がどんだけ心配したと思ってんだ!」 


「いやほんとっスよ、誠君が倒れてから……」


「ま、まぁまぁ皆さん! 詳しい話の前にまずは、ね?」


 肩にアモンを乗せた花が誠と二人の間に立つとそのまま病室の入口へ手を向けた。

 その動作に不思議そうな表情を浮かべた誠だったが、入ってきた人物を見てそれは驚きへと変わった。


「誠、久しぶりね」


「か────母さん!?」


 そこには、数か月ぶりに見る自らの母が立っていた。


「二か月以上も連絡をしてこないと思ったら駅の階段から落ちて頭を打って入院してるなんて……心配させて」


「あ、え? 階段から落ちた?」


 母はそう言って涙ぐみながら誠へ近づいていき、彼を抱きしめる。


「でも無事で良かったわ……本当に心配したのよ誠」


 母に抱きしめられながら困惑した表情を浮かべる誠は三人を見るが、三人は目を閉じて頷くだけで何も言わない。

 アモンも冷笑を浮かべるのみであり、誠は困惑したまま母を抱きしめ返した。


「うん、ごめん母さん……心配かけて」


「本当にお父さんに似て困った子ね、金曜日に三木さんから連絡があった時は本当に驚いたんだから」


「三木さん? 三木さんって……あの三木おじさん?」


「えぇ、お父さんの部下だった三木さん、よく遊びに来てたから誠も覚えてたのね」


「覚えてたというか……前に会ったというか……」


 誠が何とも言えない顔をしながら返答すると、母は息子から離れると不思議そうな顔をする。


「あら、そうなの? なら後でお礼言っておきなさいね、三木さんも今日様子見に来るって言ってたから」


「わかったよ母さん」


「よしよし、いい子いい子」


「ちょ、ちょっと……恥ずかしいよ母さん」


「はいはい、それじゃお母さん、看護師さんにあなたが起きた事伝えてくるわね」


 誠の頭を撫で、恥ずかしがる息子を見て母は微笑むと手を振り、扉を閉めて部屋を出ていった。

 母が部屋を出ていくと、ホッと一息つく誠に三人はニヤニヤとした顔を見せた。


「恥ずかしいよ母さん、だってよ!」


「リーダーも母親には形無しっスねぇ」


「家族の仲が良いのは良い事ですよ、先輩!」


 と、三者三様の対応をされ誠は赤面しつつも三人へ問いかけた。


「そういえば、さっき母さんが言ってた……」


「あぁ、駅の階段で転んで~って奴か?」


「先輩がすっごい技を使った後に倒れちゃって、そしたら異界もそのまま消えちゃって私達東京駅に放り出されちゃったんです」


「で、本当に誠君だけ階段の上から落っこちて行ってそのまま意識が戻らなかったから病院に運んだって訳っス」


「ククク、実に無様な姿だったぞマコト」


 口元を羽で隠しながら、アモンが思い出し笑いをすると誠は苦笑いを浮かべた。


「そ、そうだったのか……よく無事だったな俺。 そういえば会田は?」


「あぁ、それなら多分今日もテレビでやってんじゃねえかな」


 誠の質問に、晶が病室に備え付けられたテレビのリモコンを押した。

 すると、とある光景が映し出された。


「この度はお忙しい中お集り戴き、ありがとうございます。 本日は私ども帝国銀行が行ってきたある行為について全てをお話させていただく所存です」


 それは謝罪会見の録画だった。

 机にはいくつものマイクが並べられ、画面の中央には会田が立ちながら話を続けている。


「我々帝国銀行は社員に過度なノルマを課し、それが達成できなかった人間に圧力を掛け退社や自殺に追い込んだこと、更にはノルマ達成の為に犯罪行為を行っていたこと……」


 会田は目に涙を浮かべながら、それらを粛々と語っていく。


「また、それらを銀行ぐるみで隠ぺいしていたこと……誠に、申し訳ございませんでした」


「それらは会田頭取、あなたの指示の上で行われていたと……そう、とらえていいんですね?」


「……はい、全ては欲に目が眩んだ私の不徳の致すところです」


 会田はそう言って頭を下げ、謝罪した。

 その姿に会場からは一斉にフラッシュが焚かれ、様々な質問が彼に投げかけられていく。


「えー、以上が会田元頭取の謝罪会見の様子でしたがこれを取材していた飯田アナウンサー、これについてはどう──」


 そして再び画面が切り替わり、ニュース番組は会田についての話などで盛り上がっていく。


「……そうか、会田は無事改心出来たんだな」


「あぁ、つってもアイツが罪を償うのはこれからだけどな」


「でもこれでもうバッタの被害も無くなります!」


「それにこっちとしても会田が握ってたデータの解析で色々と進むっス、今回は無事解決と言っても良いと思うっスよ」


「……なら、俺への脅迫の件は終わりということで?」


 誠の言葉に古森は掌を打つと思い出したような顔をした。


「あぁ、そういやそういう話だったっスね。 もう色々ありすぎて正直覚えてなかったっス」


「オイオイ……てきとーだなテメェ、こっちは色々焦りまくったってのに」


「と言ってもまだ自分の疑問が解決したわけじゃないっス、暫定怪しいってのが解除されただけっスよ」


「ははは、それでも良いですよ。 今回も誰かを助けることが出来たのなら……それに運命会に近づくことも出来ました」


「前向きっスねぇ、でも運命会に近づけば近づくほど今回のあの化け物みたいな奴にも近づくんスよね……」


 古森はそう言って、暗い顔をした。

 彼が言っている化け物みたいな奴と言うのが峰を指していることに気が付くと、アモン以外の全員が暗い顔をする。 

 そこへ……。


「おーう誠ー、目覚めたんだってー? ……ってあら、取り込み中だったか?」


 公安の捜査員である三木が陽気な顔で空気を読まずに登場した。


「あっ、三木おじさん」


「だからお兄さんだって言ってるだろ誠、まぁそれはいいや、今から体の検査すっからお友達軍団はお暇するようにってお医者様からの伝言だ」


 陽気な顔で告げる三木だったが、一瞬古森を見た表情に違和感を誠は感じた。


「そういやまだ起きたばっかだもんな、そろそろ帰るか」


「ですね、しっかりご飯食べてしっかり元気になってくださいね先輩!」


「そんじゃ自分も家に戻ってゲームするっスかねぇ、退院する日決まったら連絡して欲しいっス」


「うん、わかった。 皆気を付けて」


 何とも言えない空気になっていたのを、すっかり三木がぶち壊すと三人はそれぞれ頷きあうと一言ずつ告げると部屋を出ていく。

 そして、室内には三木と誠の二人だけが残った。


「アモンも行っちゃった……」


「病院はペット禁止だからな、そりゃ残れねえだろ」


「そっか、そうだよな……お礼、言いそびれちゃったな」


「礼? フクロウにか?」


「あ、いや、こっちの話、うん」


 誠の発言に怪訝な顔をした三木だったが、まぁいいかと口にすると彼は再び笑った。


「さて……話したいことは山積みだが今日の所はお暇するわ、また今度話聞きに来る」


「うん、わかった。 あの……おじさん」


「どしたぁ?」


「あの、俺の事……病院まで運んでくれてありがとう」


「別に俺が運んだわけじゃない、たまたまお前の友達から連絡が来て成華さん、お前の母さんに連絡とかはしたが特に何もしてない、だから気にすんな」


 一瞬、真面目な顔になりそう告げると三木は部屋から出ていき……その少し後に母親と看護師が共に連れ添って現れるのだった。



【閼伽井 誠 人間性ステータス】

教養 ★★★学校でトップレベル

勇気 ★★★警察官並み

慈愛 ★★★困っている人は見過ごせない←Rank Up!

魅力 ★★一般高校生並み

ユーモア ★★人を笑顔にできる

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