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秘奥解禁

2026年 6月26日 金曜日 11:00


 魔人。

 悪魔と自らの意志で契約し力を得た人間の総称。

 通常、人間が悪魔と出会う事は稀だ。

 どちらかが人間の領域、あるいは悪魔の領域に移動し契約を行わなければまず起こり得ない。


「せんぱい……せんぱい……!」


 その魔人が今、私の目の前に居る。

 息も絶え絶えな状態で、先ほど私の後ろで首を刎ね飛ばした魔人の死を嘆いている。

 更にその遠くではヘカトンケイルともう一人の魔人、そして悪魔使いが会田を守りながら戦っているが……。


「あれでは時間の問題だな」


 如何にあの釘バットの魔人が物理的攻撃に耐性があったとしても、ヘカトンケイルの手数と腕力には劣る。

 それにこの魔人を殺した後、私が合流すればすぐに魔人と悪魔使いを殺し会田を回収することも可能だろう。

 抜かりはない。


「諦めろ、お前達のリーダーは死んだ」


 そう、ここまでは。

 今、通常ではあり得ないことが起きている。

 この少年たちが活動を開始したのは今年の4月頃だと聞いている。

 それからおよそ3か月余りで魔人が一気に3人もなるなどというのはあり得ない。


「いや、いやです! 先輩が死んだなんて、そんな……!」


「信用しないのならそれはそれで良い、その嘆きを抱えたまま死ぬだけだ」


 私の言葉を聞き、長身の魔人は首を何度も横に振りながら涙を流す。

 

「そんな体たらくでよく今まで生き残ってこれたものだな」


「うっ、うぅぅ……」


「お前に一つ聞きたいことがある、お前達を魔人にしたのはどこの組織だ」


 この魔人が私の質問に答えられる状況ではない事は自分でよく理解している。

 だが聞かずにはいられなかった。

 通常、魔人となる人間は専門の機関や術者を介し入念な準備の下で行われる。

 しかし、現在国内にある機関や術者は全て運命会が管理している……。


「組織でないならば運命会から逃れた術者か、あるいは海外の組織……あるいは両方か」


 だが個人がこの短期間に悪魔と契約をし魔人になるなど、およそ有り得る事ではない。

 故に……もしかしたら、もしかしたらこの魔人どもは奴と繋がっているのでは。

 そう期待を抱いてしまう。

 

「ひぐ、ひっく……せんぱ……」


「やはり答えられんか」


 しかし、目の前の魔人からの返答はない。

 相も変わらず泣きじゃくるばかりだ。

 それを見て、思わず剣を握る左手に力が入る。


「役立たずめ……今すぐお前も後ろの魔人と同じ場所に送ってやる」


 剣を真上に構え、これから殺す相手である魔人の首へ狙いを定め剣を振り下ろす。

 振り下ろしている途中、魔人が信じられない物を見るような表情をした。

 その視線は私や自身へ迫る剣ではなく、私の背後を見ていた。


「ぐぅっ!?」


 それを認識した瞬間、私の体は吹き飛んでいた。

 まるで猛烈な速度の重量級トラックに衝突されたかのような衝撃と、高熱が体を焼く。

 先ほど倒れていた魔人から大きく吹き飛ばされながら、私はその衝撃が飛んできた方向を見て目を見開いた。


「馬鹿な……!?」


─────────────────────────────────────


 花に向かって魔剣が振るわれた瞬間、死んでいた筈の誠の体が動いた。

 倒れたまま峰に向かい、拳を振るうとそれは巨大は炎の鉄拳となり敵を吹き飛ばす。

 そして地面に倒れ、別たれたままの胴体と首が燃え上がるとそれらはゆっくりと地面を移動し合体し人の姿を形作っていく。


「…………戻って、来たのか?」


「せ────」


 炎が誠の姿を形作ると掻き消え、誠は周囲をゆっくりと見回した。


「先輩!!」


 誠が死ぬ瞬間を見ていた花が、声を上げる。

  

「心配かけてごめん」


「ひっぐ、えっぐ……よ、よがっだぁぁぁぁ……」


 涙と鼻水でぐしょぐしょの顔で叫ぶ花に、誠は微笑みを浮かべながら答えた。

 遠くでヘカトンケイルと戦っていた晶と古森、そして敵対している悪魔と峰すら蘇った誠を見て呆然としていた。


「……馬鹿な、確かに心臓を破壊して首も刎ね飛ばした筈だ、不死鳥の魔人だとでも言うのか?」


「いや、確かに死んだよ。 けど地獄は満員でね、直ぐに追い返された」


「では、次は極楽に送ってやる……蘇ったと言っても内包する魔力が増えた訳でもない、同じことの繰り返しに過ぎん」


 花から遠く吹き飛んだ峰は、驚きながらも再び強く魔剣を握りしめる。

 一方誠は、花を守る様に彼女の前に立つと両手の薬指を折りたたみながら、残りの指を合わせた。


「あぁ、だからもう……そうならないような方法を戻ってくる間に習ってきた! 行くぞ、アモン!!」


「5分間、我が秘奥の解禁を許可する! 命を燃やせキング!」


「おぉ!!」


 誠が指を合わせた瞬間から、彼の魔力が爆発的に跳ね上がっていく。

 それに気づいた峰は直ぐに駆け出しながら、遠方の自らの悪魔へと叫んだ。


「まさか……! ヘカトンケイル!」


「あいよ、マスター! オレ様が必要か!」


 晶と戦っていたヘカトンケイルは主の呼びかけに直ぐに振り向くと、大地を跳ねるように誠へ駆けだす。

 しかし、この二人と誠の距離はおよそ500メートル。

 彼等二人の攻撃が届く前に、誠は奥義を完成させていた。


大聖堂カテドラル再構築……!」


「刮目せよ、我が至高の獄炎(マグヌス・オパス)!」


 アモンが叫びを上げると同時、誠を中心にドーム状に空間が広がる。

 その空間は、今まで居た荒野ではなく荒れ狂う炎と溶岩が至る所に流れる大地へと変化していた。


「ちっ……取り込まれる!」


「オラァ!」


 誠が奥義を用いた直後、峰とヘカトンケイルは彼へ攻撃する。

 峰が首を狙って魔剣を振るい、彼を切り裂くと続けてヘカトンケイルの拳が真上から誠を押しつぶした。


「あづっ! な、なんだぁ!?」


「首を切った瞬間に体全体を炎にして避けられたな、しかしこれは……不味いな」


 拳を叩きつけたヘカトンケイルは、拳に熱を感じ腕を引っ込めた。

 火傷した拳に息を吹きかける自らの悪魔を見ながら、峰は周囲を警戒する。

 彼女の周囲には湧き上がる溶岩と炎以外は何も存在せず、先ほどまで倒れていた花や遠くに居た晶達も存在しない

 また、常に異常な熱波が峰へと襲い掛かった。


「なぁマスターミネ、この場所は……」


「あぁ、間違いない……ここはあの魔人のカテドラルだ」


「ひゅぅっ、そりゃすげえな! 魔人がカテドラルを作り出したなんてのは聞いたことがねえ!」


「私もだ、だが原理的に不可能ではない」


 峰が言葉を紡ぐ間も、地面は徐々にひび割れていき溶岩がその顔を見せる。

 

「カテドラルはその場所を構築した者の望みを適える為だけに存在する」


「アバドンの野郎は倉庫が目的だったなぁ、んじゃこの場所はどういう目的なんだよマスター」


「決まっている、私達を確実に殺すことだ」


 次の瞬間、峰が立っていた足元がひび割れ砕け散った。

 ヘカトンケイルと峰は大きく飛び退くと、地面から出てきたそれを見つめる。


「完全な再構築とはいかなかったか、我が城の再現すら出来ないとは……だが奴程度にはこれで十分だ」


 溶岩を纏い、全身を炎に包まれながらも誠は平気そうに言う。


「魔人の身でカテドラルを再構築とは大した魔力だ、殺す前にお前の名を聞かせてもらいたい」


「デアデビルのキング、そしてソロモン第72柱、序列7位、アモン」


「……ソロモンの悪魔か!? 運命会が探している悪魔とは……面白い」


「我を探す……?」


 疑問の表情を浮かべた誠を見て、峰は好機として腰を深く構え地面を蹴った。


「カテドラルは必ず目的を達成する空間、絶対に私を殺す空間であるならば……刺し違えるまで!」


 誠へ走りながら、峰は盾を構える。

 すると次の瞬間には、彼女目掛けて正面からマグマの奔流が押し寄せる。

 峰はそれを右へ受け流すと、左へ避け叫んだ。

 

「ヘカトンケイル!!」


「おうよ、オレ様の体を盾にしてやっちまいな!」


 左に避けた峰へ続いて上空から獄炎の炎が続けざまに降り注ぐ。

 だが間一髪、ヘカトンケイルが自らの体で峰を覆い防ぐと峰は自らの鎧に腰に刻み込まれた文字へ触れていく。


「秘奥には秘奥で返す、召喚サモン……!」


 峰が召喚の言葉を唱えると、彼女の鎧から悪魔達が召喚された。


「オーディン、トール、フェンリル! 連携して一気に叩くぞ!」


 彼女が召喚したのは、北欧の神話に名高い神々であった。


「おぉ、おぉ、これはこれは……4体同時召喚とは恐れ入る。 それに北欧の主神と雷神に主神殺しの狼とは……我への供物としてはそれなりだな!」


 召喚された神々を見て、アモンと誠は愉悦の笑みを同時に浮かべるとヘカトンケイルへ降り注ぐ獄炎の柱を更に増やす。

 触れただけで並大抵の悪魔ならば即座に蒸発するであろう獄炎を一身に受けるが、その忍耐も直ぐに限界を迎える。


「ぐおぉぉぉ、わ、わりぃなマスター……先逝くわ!」


「献身、感謝する」


 5メートルを超える巨体に徐々に焦げ跡がつくと、そのまま炎の柱が体を貫通し峰達へ降り注ぐ。

 同時に、前後左右からも炎が襲い掛かった。


「ふぉっふぉ、呼び出されて直ぐに絶体絶命とは今世の使役者は相変わらず無茶ぶりをする」


 右手に持った槍、グングニルを回転させながら長い顎鬚を左手で摩り、オーディンは笑った。

 そして槍の石突を地面に勢いよく叩きつけ、岩盤を隆起させ背後、そして左右の獄炎を防ぐ。


「正面は任せよ! はぁっ!」


 雷神トールがそう叫ぶと、愛用の槌であるミョルニルを一度天に掲げ振り下ろす。

 すると槌からは雷が迸り、前方の獄炎を打ち消した。


「ガルルル!」


 神二人が獄炎を消すと同時、2メートル程の大きさの白狼フェンリルが駆け出していく。

 峰と他の悪魔も同時に駆け出し、崩れ落ちていくヘカトンケイルから抜け出した。


「ガウッ!」


 一目散に駆けていくフェンリルの眼前に、マグマが噴き出す。

 白狼は口から霊気を放出し、それを凍らせるが……。


「ククハハハハハ!」


 凍り付いた溶岩を突き抜けて、アモンが現れる。

 アモンはそのままフェンリルの冷気を一身に受けながら突破すると、白狼の上顎と下顎を両手で掴む。


「お前は一度口を開けば天にも届くと言うが、どこまで伸びるのか試してみよう」 


 そして一気にフェンリルの両顎を上下に開き、肉体ごと上下に引き裂く。


「おや、伝承は嘘だったのかな?」


 白狼の血を全身に浴びながら、アモンは笑う。

 

「せぇや!」


「食らえぃ!」


 両腕で白狼を引き裂いたアモンの真横から、オーディンとトールが同時に攻撃を仕掛けた。

 槌がアモンの頭部を砕き、槍が腹部を貫く。

 しかし、攻撃が当たり頭部が消し飛び腹部に穴が空いた状態でもアモンの両腕は二体の神を捉え、炎を放つ。


「ぬぅっく……!」


「なんと……」


 炎で2体の神を吹き飛ばすと、アモンは両腕を同時に上げた。

 すると大地からマグマが噴出し、2体の神は一気に塵となって消える。


「残念だったな、カテドラル外なら今の一撃で──」


 アモンはゆっくりと損傷した部位を炎で補填しながら、自らを後ろから両断しようとしている峰へ振り向いた。


「終わっていたのだがな?」


「やはりカテドラル内では不死身か」


「無論だ、現状不完全とは言え我がカテドラルは他の雑魚どもとは格が違う」


 魔剣によって体を真っ二つにされても、アモンの傷跡は直ぐに炎によって修復されていく。


「そして、更に言うならこの中での我は最強だ!」


 剣を振り下ろしている峰の兜を掴むと、それを右膝で蹴り上げる。


「くっ、ここまでか……!」


「ほう、今の感触……遠隔操作か、味な真似をしてくれる」


 アモンは兜を掴んだ感触で鎧の中身が無いことに気付いた誠は、後ろに仰け反った鎧の胴体に乱打を浴びせる。


「ソロモンの悪魔、次は必ず──!」


「嘗められたものだ、消えろ」


 乱打を浴びせかけ、最後は鎧を蹴り上げ空中へ浮かび上がらせる。

 そして、アモンは勢いよく両手を合わせた。

 その動作と同時に、空中では高熱の炎が掌の形を取り鎧を焼きながら圧殺した。


「次か、その時までにこの技もマスターしておかなければなマコト」


 燃えながら、潰れていく鎧を見ながらアモンは愉快そうに自らの主へ言った。


「あぁ……けど、今は……意識が……」


 鎧が潰れたのを確認すると、誠はふらつきながら自らの頭に右手を当てると少しして前のめりに倒れる。


「限界か、我も少々……疲れた」


 誠が倒れるのと同時に、彼が展開したカテドラルも崩壊した。

 



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