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2026年 6月26日 金曜日 10:19


「この、私が……敗北するなど、とぉ……」


 恨めしそうな眼を誠に向けながら、会田は壁に寄りかかる様にして気絶した。

 会田の視線を真っ向から受け止めると、彼が気絶したのを確認した誠はそのまま次に倒すべきもう一人の敵の方を向いた。 


「次はお前だ、魔王アバドン」


 誠の前には、部屋の天井から血管が何本も繋がった心臓があった。

 アバドンと呼ばれた心臓は、表面中央にある一つの大きな眼を開くとひどく落胆した声を上げる。


「Huuuu……失望シタゾ会田、アノ女ニ鍛エラレタ割ニハ惰弱ナ……イヤ、元ヨリ人間ニ期待シタノガ愚カデアッタ」


 地獄の底から響く様な重低音の声が、室内に響く。

 アバドンは独り言ちながら、自らを睨みつける誠を値踏みするように見つめる。

  

「小僧、コノ魔王アバドンヲ殺シ何トスル」


「このカテドラルを消滅させ、会田の不正の証拠を世に公開する」


「ナルホド、ソレナラバ致シ方アルマイ……オ前ガ望ム通リニセヨ」


「やけに聞き分けが良いなアバドン、もう少し抵抗はしないのか?」


 誠に行った問い掛けの答えを聞くと、アバドンはそれに納得したのか頷くように瞳を閉じる。

 その様子を見てアモンは嘲る様に問い返した。


「フン、実ニ悪魔ラシイ反応ダナ……元ヨリ奴トハ体内ヲ貸与スル契約ノミ、抵抗スル理由モ無イ」


「それはそれは潔い事だ、では望み通り燃やしてやれキング」


「ダガ魔王ヲ葬ル者ノ名ハ聞イテオコウ、オ前ノ名ハ?」


「心して聞け、我が名はゴエティアに記されし序列七位、40の軍団を従える偉大なる悪魔、アモンである!」


 右手を前に突き出し、拳に炎を溜めながらアモンは答えた。


「ソロモンノ悪魔カ……! フハハ……精々帰リ道ハ気ヲ付ケルノダナ……!」


「消えろ」


 アモンの名を聞き、驚いたような声を上げたアバドンを誠の炎が貫いた。

 アバドンの本体である巨大な心臓は熱線に貫かれながら、笑い声をあげて消滅する。


「……帰り道?」


 悪魔の残した言葉に誠は疑問の表情を浮かべるが、直ぐにその答えを実感する事となる。

 強烈な地鳴りと振動が、誠達を襲った。

 室内にあったショーケース等の上に天井であった巨大な肉塊などが降り注ぐ。


「カテドラルの核だったアバドンを消滅させたのだ、そうなればこうなるのも自明の理か」


「なるほどなぁ……って頷いてる場合じゃない、皆、撤退だ!」


「撤退すんのはいいけど、こいつらはどうすんだよ!?」


「それは──」


「見捨てるしかないな、この人数を助けるのは不可能だ」


 崩れつつあるアバドンの中、晶達の方を振り向き撤退を指示する誠。

 だが彼の指示に晶は悪魔と合体させられた人間達をどうするのかを問い返し、誠は答えに窮した。

 そんな時、アモンが口を開いた。


「見捨てるってそんな……酷いです!」


「頑張ればいけるかもしれねーだろ、簡単に見捨てるなんて言うんじゃねえよアモン!」


「目先の感情に捕らわれるな、ざっと見て数十人も居る連中を何時崩れるかもしれない状態で救助するのは不可能だ」


「それに無事に地上に連れて帰れてもこの人たちを治せるかどうかは未知数っス、助けてはあげたいっスが……」


「そんな……色山さんの時は捕まってた人達は助けられたのに……」


 アモンの言葉に女性二人からは反対の声が上がる。

 だが古森は会田の不正の証拠を探す手を止めないまま、アモンの言葉を支持した。


「さぁどうするキング? この哀れな人間どもを救うか……それとも我が身可愛さに見捨てて逃げるか、選ぶのはリーダーであるお前だ」


 アモンはそう言って、誠に選択をするように促した。

 誠は顔を俯け歯を食いしばり、右手を握っては開きながら逡巡するが直ぐに拳を握りしめ顔を上げた。


「…………この人達は、見捨てるしかない」


「キング……クソっ、納得いかねえ!」


「先輩、そんな……」


「俺に対する批判は後、まずは撤退だ!」


「オッケーっス、こっちも証拠集まったっス! さぁ皆逃げるっスよ!」


 誠の判断を聞き、晶は地面に転がっていた肉塊を蹴り飛ばし、花は悲しそうな表情を浮かべる。

 だが古森だけは静かに頷き、暗くなる雰囲気を少しでも良くしようと明るい雰囲気を保ったまま走り出す。

 それを見て、花、晶も駆け出していく。


「……非情な判断っスけど、正しい判断だと思うっスよキング君」

 

 先頭を駆けていく古森は、小声でそう呟きながら書類の束を持って駆けてゆく。

 そんな風に走っていく仲間達を一瞥すると、気絶していた会田を肩に担ぎ自らも走り出した誠だったが部屋の出口で足を止めた。


「……皆さん、助けられなくてすみません。 俺の事は恨んでくれて構いません、ですがこんなことをした奴の罪を俺達が必ず暴いて見せます」


 目に涙を浮かべながら、誠は崩れていく部屋の中で立ち尽くすバッタ人間達へ深々と頭を下げる。

 悔しさを滲ませながら、手を強く握り謝罪をすると誠は再び出口へ振り返り走り出した。

 誠は、そのまま地上に出るまで決して振り返らなかった。


─────────────────────────────────────


「……きろ」


「うっ……」


「起きろオラァ!」


 誠達が脱出してから幾つかの時間が経過した。

 体全体に感じる風で、目を覚ましかけていた会田の頬に突然平手打ちが直撃する。


「くっ、な、なんです!? 何が──」


 突然の衝撃に会田の意識は急激に覚醒し、体を起こそうとして彼は自らの体が縄で縛られていることに気が付いた。


「縄? これは……」


「おう、やっと起きたか」


「お前達は……そうか、私は──」


 目を覚まし、荒漠とした大地で自らの前に立つ晶とその後ろに居る三人を見て会田は自らの状況を理解し俯いた。


「どうやら自分の状況が理解できたみてーだな」


「…………私も色山の様にお前達に洗脳されるのですか?」


「洗脳ではない、認知の変化を与えるだけだ」


「はっ、それのどこが洗脳と違うのです? やはりあなた達も私と同じ穴の貉でしたか」


「あんたと一緒にしないで欲しいっス、自分たちは正しい事の為に力を使っている、あんた達みたいに私利私欲の為に人を傷つけたり何かを奪ったりはしないっス」


 俯き、項垂れながら悪態を吐く会田に古森は真っすぐな視線を向けたまま答えた。


「だがお前を改心させる前に幾つか聞きたいことがある」


「運命会の事でしょう? それでしたらお答えは出来かねます」


「いいや、必ず答えてもらう……!」


 怒りの感情を露わにしながら誠は、悪びれもせずに回答を拒否する会田の前にしゃがみ込むと右手で顎を鷲掴みにした。

 そして、その燃えるような真っ赤な瞳で会田を睨みつける。


「ひゃ、ひゃにをふるのでふか!」


「お前は……お前達は……何故あんなことをしたんだ!」


「ひゃんなこと……一体ひゃにを……」


「惚けるな! お前があの部屋に隠していた書類を見せてもらった、アバドンの眷属を使った土地の荒廃させた」


 会田の顎を掴む手に、力が入る。


「それだけじゃない、それによって困窮した人たちに多額の報酬をちらつかせて言葉巧みに悪魔との合体の実験に向かわせ……失敗したと見るやアバドンの中に廃棄した!」


「ひょれに関ひては互いにけいひゃくが……」


「他人を陥れておいて、何が契約だ! そんなことが正しいと本当に思っているのか!?」


 誠の手の力は彼が吐く言葉と共にどんどんと大きくなり、会田の顎がメキメキと音を立てる。

 

「あ、あごが……やめ……!」


「止めろ……? お前だってそう言われただろう、それに対してはお前はどうしたんだ! 言ってみろ!!」


「やめへ……くれぇ……!」


「お前が失敗作だと言ったあの人達も今のお前の様に助けを求めた筈だ、それをお前は……!」


 あわや、会田の顎を握りつぶす寸前の所で誠はぶっきらぼうに会田の顔を地面に投げ飛ばすように放した。

 勢いよく地面に放された会田は上体を軽く打ち付け、ゴホゴホと咳をし、憤怒の表情をした誠を見る。


「し、仕方なかったんですよ! あの土地が今後の構想で必要になるのは既に決まっていた事なのです、彼らの犠牲も今後の国の為を思えば……」


「仕方なかっただぁ!? だったらテメェが悪魔と合体すりゃよかったじゃねえか!」


「それもあるっスが、今後の国の為……? どういうことっスかそれ」


「そ、それは……」


「言え」


 言い淀む会田を誠が睨みつける。

 すると蛇に睨まれたカエルの様に会田は怯え、頷いた。


「わ、わかった……! 我らが運命会は今後のこの日本の未来の為に活動しているのです」


「未来の為……? 善良な人を騙して悪魔と合体させるのがですか!?」


「そうだ、私達は今後この国に襲い来る国難を乗り越えるために活動しているのだ」


「コクナン? 何が来るってんだよ、外国から未知の病気でも襲ってくるってか?」


「それは……」


 会田はそこで言葉を詰まらせた。

 言うべきではないと心の中で思っていても、先ほど誠の瞳を見たせいで認知が徐々に書き換わり悪事を隠しておくことに耐えられなくなっているのだ。


「馬鹿馬鹿しいっス、仮に本当に悪魔と人間が合体しなきゃいけないような未曽有の何かが起きるとしてもあんたが悪魔を使って私利私欲を肥やしていたことは言い逃れは出来ないっス」


「ビショップ先輩の言う通りです、あなたのやった事は間違っています!」


「いい歳した大人がこれとか最悪だな……国難っていうか、そもそもテメェ等の方が災害に近いんじゃねえの?」


「わ、私は……私だって、最初は良くないと思っていたんだ! だが次第に手に入る金額や地位に目が眩んで……わ、私は……うぅぅ!」


 軽蔑的な眼差しと意見が会田へ降りかかった。

 アモンの力によって徐々に自身の善性を呼び起こされ始めた会田に、魔人の姿をしていても子供達からのそれは耐え難いものだった。

 浴びせかけられた言葉に彼は瞳にうっすらと涙を浮かべ、うずくまる。


「お前はこれから現実に戻り、これまで犯してきた罪を全て告白しろ。 そして罪を償うんだ」


「……私を殺さないのですか?」


「お前を殺しても何も解決はしない、それに……お前にとってそれは罪から逃げる一番簡単な方法だからだ」


 誠はそう言うと、再び強く言う。


「罪から逃げるな、お前がやった事はお前が死ぬまで背負って、そして償っていくんだ!」


「……分かり、ました。 私は現実に帰り、罪を──」


 会田は誠の瞳を再び見て、観念したかのように頷いた。

 そして言葉を紡いでいる最中……もう一人の言葉が割って入った。


「いや、その必要は無い」


 言葉と同時に、誠の胸を諸刃の剣が貫いていた。 



次の更新は4/25予定ですがちょっと遅れるかも…遅れたらゆるちて

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