山城花 コープ1
2026年 6月14日 日曜日 12:30
昼前、渋谷の駅前では今日も人が溢れていた。
目的地に向かって歩いていく人々や待ち合わせをする人々などが居る中で、誠もまた一人の女性を落ち着きのない様子で待っていた。
「うーん……」
「どうした、その台詞を言うのは今日ここに着いて既に三回目だぞ」
「そりゃ落ち着かないさ、アモンに言われて落ち込んでるって言う花ちゃんを誘ってみたけど……よく考えたらこれデートだし」
「ふん、昨日のあの帰りの態度を見て気づかないとはリーダー失格だな、チームメンバーに常に気を配れ。 だが良かったではないか、結果として我のお蔭で役得だ」
「って言われてもな……何をどうしたらいいのかもよくわからないよ」
そう言って、誠は本日七度目となる渋谷駅出口の確認を行う。
幸い、待ち合わせの時間より一時間も早く到着していたこともあり花は現れない。
「やれやれ……恋愛経験の無い男はこれだから困るのだ」
「そう言われても困る、正直自信ないんだよ……服とかもこれでいいのかよくわからないし」
「格好は……まぁ無難な所か、自信が無いと言ってもアキラと以前一緒に出歩いていた時は何ともなかっただろう」
「晶は何ていうか、ほら、男友達みたいなものだから……」
「ここに彼奴が居なくて良かったな、聞かれていたらまた右頬を撃ち抜かれているところだったぞ」
鞄から顔を出しながら、呆れた表情をするアモンは遠くに何かを発見する。
「さぁ目的の女が来たぞマコト」
「あ、ほんとだ……だ、大丈夫かな……」
「年長者としての助言だ、自信を持ち、ハナの事を気遣いながら自然体で過ごせ」
「分かった、いつも通りに振舞うとするよ」
渋谷駅から出てきた花は、向日葵がプリントされたワンピースと小さな肩掛けカバンを身に着けながらきょろきょろと辺りを見回す。
身長の大きな彼女に周りの人間は注目しながらも、花はそれに慣れているのか全く意に介さない。
そんな花をアモンは見つけると、目印替わりに誠の頭の上に飛び乗った。
燃えるような赤色の体毛を持つアモンによって、花は誠を見つけると大きく手を振りながら駆けだしてくる。
「それで良い、どうやらあちらも我々を見つけたようだ。 では楽しい一日を過ごせ」
「せんぱ~い!」
近寄ってくる花を見て、身を強張らせた誠に助言を与えるとアモンはそのままどこかへと飛び去っていく。
花が誠の目の前に来たのは、丁度アモンが飛び去った直後であった。
「お、お待たせ……しま、した……!」
「う、うん……大丈夫?」
「すすみ、ません……先輩を見つけたのが嬉しくてつい全速力で走っちゃって……もう大丈夫です!」
「なら良かった、ちょっと待ってて」
膝に両手を当てながら、息を切らす花に困惑しつつ誠は近くの自販機でお茶を買うと彼女に手渡した。
「はい、どうぞ」
「わっ……すみません、ありがとうございます!」
「お茶一本でそんな大げさな……とりあえず、飲みながら少し歩こうか」
「はい、今日はよろしくお願いします!」
お茶を受け取ると、花は大仰に頭を下げお礼を言った。
それを面映ゆく感じたのか、誠は少し頬を染めながら歩き出し花もそれに続いた。
「花ちゃん、今日は来てくれてありがとう」
「こちらこそ、誘っていただいてありがとうございます! 二人だけっていうのは驚きましたけど」
「ははは……嫌だった?」
「そんな! 全然、今日は誘って貰えて嬉しかったです閼伽井先輩」
花の言葉に、アモンに言われたから誘ったとは言えず苦笑いを浮かべながら誠は言葉を返す。
だが彼女は屈託のない笑顔と真っすぐな言葉を誠に返し、再び彼を赤くさせるのだった。
「それで今日はどこに行くんですか?」
「うん、今日はちょっと服を買うのに付き合ってもらおうかなと思って」
「服ですか?」
「実は三年前から服を買いに行くことがあんまり無くなっちゃってて……花ちゃんならセンスも良さそうだし、俺に似合いそうな服とか選んでくれるかなと思って」
「三年前って言うと、先輩のお父さんの事件があった……」
恥ずかしそうに言う誠に、花は直ぐに事情を察し頷いた。
「分かりました、この山城花に任せてください! きっちり先輩をコーディネートしてあげます!」
「ありがとう、正直服も全然レパートリー無くて……今日も変な格好にならないように頑張ったんだけど──」
そう言って、誠は花の服装を改めて見た。
流石にアイドル候補生なだけあって、服も持っている小物も全ての調和が取れている。
その一方で自らの格好を見返し、誠は暗い顔をした。
「花ちゃんに比べるとやっぱり変な格好に見えるな、俺」
「う~ん……確かにあんまりセンス良くないですね先輩、でも大丈夫です! 直ぐに格好良くしてあげます!」
「助かるよ、ありがとう花ちゃん」
「いえ、いっつも助けてもらってますからこれ位お安い御用です!」」
誠の服装を見て、渋い顔で唸る花だったが直ぐに自らの胸を右手で叩き自信満々にそう言った。
それを見て誠は嬉しそうに顔を綻ばせると、二人は渋谷で有名なお店が集まるテナント渋谷104へ向かう。
二人は中で色々なお店を見て回り、誠の服を買い揃えていく。
「やっぱり先輩には赤い服が似合うと思うんですよねぇ……あ、そういえば今日はアモンちゃん一緒じゃないんですね先輩」
「あぁ、アモンは何かどっかに行っちゃって……俺達に気をまわしてくれたのかな」
「ふふっ、そうかもしれませんね。 アモンちゃんは自分の事悪魔って言ってますけど、優しいですよね」
「そうだね、優しいっていうか面倒見が良いところはあると思う」
「うふふ、優しい悪魔なんて何か面白いですね」
誠は頷き、二人は服を持ちながら笑いあう。
その後、花が選んでくれた服を昨日稼いだバイト代で払うと二人は店を出る。
「買い物、付き合ってくれてありがとう花ちゃん」
「いえいえ、むしろ何時も助けてもらってるのにこれ位しかできなくて……それで、この後まだ時間ありますか?」
「それはもちろんあるけど……どこか行きたいところでも?」
誠の言葉に花は首を横に振る。
「そういう訳じゃないんですけど……少し話したいことがあって」
「分かった……あそこのお店に入ろうか」
神妙な顔をする花を見て、誠は彼女の提案に頷くと近くにあった喫茶店を示し入店する。
店の奥に座り注文を済ませ、周囲に誰も居ないことを確認すると花は話し始めた。
「その、話したいことって言うのは実は私の事なんです」
「花ちゃんの事?」
「はい、私っていうか……色山さんの事も含めて色々ですね」
「……分かった、話してもらっても?」
「と言っても何から話したらいいですかね……えっと、まず私のお爺ちゃんが元々色山プロダクションになる前の会社の社長だったっていうのは知ってますよね?」
誠は頷き、言葉を返す。
「あぁ、確かあの時に聞いたと思う」
そう言う誠の脳裏には、色山を改心させた時の光景が浮かんでいた。
「はい、私の家は元々芸能関係の仕事をしていて……お爺ちゃんが社長、お婆ちゃんが副社長でお父さんとお母さんが役員だったんです」
「知ってたつもりだったけど改めて言われると凄いね……」
「あはは、そうかもしれませんね、実際お爺ちゃんが社長だった10年前は凄かったって聞いてます」
「10年前か……」
「はい、10年前にお爺ちゃんやお父さんお母さんが会社のお金の横領容疑で捕まって……お婆ちゃんはその責任を取って副社長を辞任して、色山さんに社長職を譲りました」
10年前と言うと、花はその時6歳位である。
それ位の時期に両親と祖父が突然逮捕された子供の悲しみは筆舌に尽くしがたいだろう。
そう、誠は思った。
「その後お婆さんだった色山さんは病死という扱いで孫と言う扱いの若返った色山さんに社長職を引き継いで……お婆ちゃんは会社に残ってアイドル候補生のトレーナーとして働きました」
「成程……そういう経緯で彼女は社長になったのか、でも今は確か花ちゃんのお婆ちゃんが会社の社長に戻ったんだよね?」
「そうですね、凄い忙しそうにしてます、色んなところへ謝罪をしに行ったり……入院している行方不明だった候補生の方たちのお見舞いに行ったり」
「そうか、色山さんが全部自白したからってそれで全部罪が消える訳じゃない、むしろ残った人の方が大変なのか」
「でも一番大変だったのは色山さんだってお婆ちゃん言ってました、私がもっとあの子の悩みに気付いてあげられればって」
それは……と口に出掛かった所で花が言葉を遮る。
「もちろん、今更そんなことを言っても仕方がないのはお婆ちゃんも分かってると思います。 それでもやっぱり自分が気づいていればって後悔してると思うんです」
「……責任感の強い人なんだね、花ちゃんのお婆ちゃんは」
「はい、とっても立派な私の自慢のお婆ちゃんです! だからお爺ちゃんたちが戻ってくるまで、私がお婆ちゃんを支えようと思ってるんです」
「それは良い考えだと思う、きっと花ちゃんのお婆ちゃんも喜ぶよ」
「あはは、だと良いんですけど……とりあえず、私の話したいことはこれだけです。 私の決意表明、先輩に聞いてもらいたくて」
そう言われて、誠は胸の中が熱くなるのを感じた。
花の屈託のない笑みと意志の強さを感じて、彼の中に何か共感できる部分があったのだろう。
「あぁ、聞かせてもらえて光栄だよ、ありがとう花ちゃん」
「えへへ……あっ、それと先輩が良ければですが恩返しの意味も込めてあちら用の特訓もお願いしたいです!」
「もちろん、喜んで」
「わっ……ありがとうございます、先輩!」
誠の言葉に花はとても喜び、席から立ち上がると頭を下げる。
喫茶店の中で突然立ち上がり、大声でお礼を言う花の姿に店内が一瞬沈黙に包まれる。
花は数瞬の後、それに気づくと恥ずかしそうに席に座りなおした。
「す、すみません……大声出して……」
「ははは、大丈夫気にしてないよ」
「うぅ……今後も一生懸命頑張りますので、ご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いします先輩!」
「こちらこそ、頼りにしてるよ」
誠はそう言って、花へ右手を差し出した。
彼女もまた右手を差し出すと、誠の手を握り返す。
その柔らかな手を掴みながら、少しだけ彼女の事が分かったような感覚を誠は感じていた。
「そういえば、この後はどうするんですか?」
「あぁ、実はもう一つだけ寄りたい場所があるんだ、良いかな?」
「もちろんです先輩! じゃあ、これ飲み終わったら向かいましょう、今日はいっぱい一緒に居られますね!」
「うん、今日は楽しもう」
二人は握手を終えると、一頻り会話を楽しみ店を出て最後の目的地へ向かうのだった。
今年度の更新はこれが最後になります、来年は……三が日明けかな!
─人間関係─
玖珂 晶 コープランク2
山城 花 コープランク2 ←New!!
???
???




