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ミリタリーショップ

2026年 6月14日 日曜日 15:02


 日曜日、午後三時の渋谷。

 誠と花の二人は喫茶店を出ると渋谷方面へ他愛のない話をしながら歩き始めた。

 十分ほどの時間が経過し、不意に花から質問の言葉が飛んできた。


「それで先輩、次はどこに向かってるんですか?」


「あぁ、実は近くにあるミリタリーショップに向かってるんだ。 」


「ミリタリーショップ……ですか?」


「そう、花ちゃんの契約は代価として武器を買わなきゃいけないんだろ? だからここなら何か売ってるかなって」


「そんな、私の事をそこまで考えてくれてるなんて……感激です!」


 誠の言葉に花は目を潤ませながら、胸の前で両手を組んだ。


「花ちゃんの契約してる悪魔のお眼鏡に適うかは行ってみないと分からないけどね」


「大丈夫です、きっとシュウちゃんも気に入ってくれます!」


 花の方を向きながらそう言うと、彼女は鼻息荒く答え誠はそれを見て笑った。

 そして再び携帯を見ると地図アプリは彼等のちょうど斜め向かいの建物を示しており、誠は建物の入り口を指差した。 

 二人は建物の入り口から続く下り階段をゆっくりと下っていく。

 すると一つの自動ドアに突き当たった。


「おぉ……結構迫力あるね」


「そ、そうですね、何ていうか……ちょっとお化け屋敷みたいな雰囲気です」


 渋谷の外れ、ビルの地下にあるミリタリーショップ。

 その前に立った二人は、店の雰囲気に圧倒されていた。

 自動ドアの先にある筈の店内は真っ暗で見えず、入ってよいものかどうかすら二人には分からない。


「これ、入っていいのかな……お店休みなのかな」


「でもネットの情報だと今日は開店ってなってますよ?」


「う~ん……」


 二人が不安そうに店の入り口を眺めていると、自動ドアが開き中から小柄な青年が現れた。


「それじゃ店長、また今度っス~……ん?」


 青年は、両手の満杯の紙袋を携え現れると彼にとっての出口を塞いでいる二人を見て困惑した。


「あの~、邪魔なんスけど……」


「あっ、すみません! 私でっかくて邪魔ですよね、今退けます!」


「ん~、もしかして初見さんっスか? この店めちゃめちゃ暗いから初めて来る人は皆入り口で固まるんスよね」


「はは、実はその通りで……空いてるかどうか分からなくて困ってたんですよ」


「店長は雰囲気重視の人っスからねぇ……しかしカップルでミリショに来るなんて珍しいっス、サバゲー初心者とかっスか?」


「あ、いや、私達は……」


 矢継ぎ早に繰り出される青年のトークに、誠と花は少し困惑する。


「そ、そうなんですよ! 実は俺達、色々そう言うのに興味があって見て回ってて……」


「おっ、ご新規さんっスか~良いっスね~、そういうことなら自分、色々案内しちゃうっスよ」


「え、良いんですか?」


「もちろんっス、予算内で良いの見繕ってあげるっスよ~、ささ、狭い店内っスけどどうぞどうぞ」


 と、青年はまるで自分の店かのように二人を中に案内する。

 中に再び入ってきた青年とそれに連れられてやってきた二人を見て、物に囲まれた状態の受付から老齢の店長は顔を出すとぎょっとした表情を作った。

 店の中は所謂何でも屋の様になっており、丸机の上に乱雑に本や銃が置かれ、また壁にはナイフや鈍器、他には迷彩服などが吊るされている。


「おぉ、忘れ物かい古森君……っておや、ひょっとしてお客さんかい?」


「そうっス、自分の接客トークでお客を二人連れてきたんだから今度何か奢って欲しいっス」


「ははは、考えておくよ。 お嬢さんにはちょっと狭い店内で申し訳ないが、その分品物は良いものが揃っていると思うから好きに見ていって構わないよ」


 体を曲げながら、窮屈そうにする花を見て店長は申し訳なさそうに言う。


「だ、大丈夫です! 私がちょっと大きいだけですから!」


「ま、彼女さんも辛そうだしパパパっと選んじゃうっスかね、予算は幾らなんスか?」


「えっと、さ、三万円なんですけど……足りますか?」


「それだけあれば入門用を買うには十分っスよ、それで彼氏さんと彼女さんのどっちの分を買うんスか?」


「あ、それなんですけど彼女用が欲しくて……あと俺達別にカップルとかじゃなくて……」


 自信満々に胸を前に出し、眼鏡を上げる青年に誠は否定の言葉を告げる。

 カップルではない、と言われた時若干花の表情が悲しそうだったが誠にそれは見えていなかった。


「なんと、それはごめんなさいっス! そういえば自己紹介もまだだったっス、自分、古森大洋(こもりたいよう)っス」


「私は山城花と申します、今後ともよろしくお願いします!」


「あ、俺は閼伽井誠です、今回は花ちゃんの銃の見繕いをお願いします」


「あかい……ふぅん……そうっスか」


「あの、俺の苗字が何か……?」


「あぁいや、別に何でもないっス! そんじゃ見繕うっスよ~!」


 誠の苗字を聞き、少し訝しみながら古森は小声で呟くと直ぐに明るい笑顔を作ると店の商品を漁り始めた。

 雑多に商品が積まれている店の中を我が家の様に闊歩し、様々な商品を引きずり出しては横に置いていく。


「それで山城ちゃんはどんな銃が欲しいとかあるんスか?」


「私は可愛いのがいいです! 打つと花が出るとか!」


「うーん、花はともかく可愛い銃ならこっちにあったような……おっ、あったあった、店長~、このNSR製の奴一万で売って良いっスよね~?」


「古森君の目利きは確かだからねぇ、君に任せるよ」


「お、アドっスね~、それならこれとこれと……初心者サバゲーセットを作りながら店の在庫処分もして……よし、出来たっス!」


 素人目には何をやっているのかよくわからない作業を繰り返し、古森は十分ほどで入門用サバゲーセットと四つの銃を纏め上げそれを花に手渡した。


「これで大体三万くらいっス、もちろん税込みっスよ」


「わ、こんなに沢山……良いんですか?」


「大丈夫大丈夫、どーせ売れ残りの型落ち品っスからね、つっても粗悪品って訳じゃないっスよ、単純に銃に人気が無いだけっス」

 

「それにしてもヘルメットや服にガスガンもこんなに付けてもらって……」


「別に大丈夫だよ、元々在庫だからね、売れてくれた方がこちらとしても助かるんだ」


 困惑する二人に、店長は受付から声を掛ける。

 その言葉に、花と誠は互いの顔を見合わせると頷く。


「そういうことなら……」


「はい、ご厚意に甘えさせていただきます! ありがとうございます!」


「別にそんなに大したことじゃないっス、それに初心者には優しくしておくのはどんな業界でも大事な事っス!」


「うん、君たちに今優しくしておけば今後うちの店を贔屓にしてくれるかもしれないしね」


「ワハハハ、最初に優しくして沼に引きずり込むのはオタクの常套手段っス!」


 それは別に言わなくても良かったんじゃないかな、と誠は思いながら頭を下げる。


「すみません、ありがとうございます」


「はい、とっても助かりました!」


「気にしなくていいっスよ、しかし二人は高校生っスよね? サバゲーを始めるなんて珍しいっスね」


「あ、それはですね……」


「古森君、詮索も良いけどそろそろ大学の時間じゃないのかい」


 興味津々と言った感じで聞いてくる古森に誠と花は困った顔をする。

 するとそれを感じ取ったのか、店長が助け船を出してくれた。


「あっ、そういやそろそろ行かないとヤバイっス、流石に単位もう少し取っておかないと……マジめどいっス~」


「大学? 古森さん、大学生なんですか?」


「そうっスよ、一応帝国大学のロボット工学専門っス」


「帝国大学って、確か最近出来た日本で一番頭の良い大学ですよ!? 凄いですね、古森先輩!」


「古森君は他にも昆虫学や人類学、色々な事に詳しいんだよ、それに確か……サイトの運営とかもやってるんだったかい?」


「あー……あっちはちょっと情報集めるのに作ったらでかくなりすぎただけっスけどねぇ……」


 大学という言葉を聞き、携帯を見てげんなりした顔をする古森に誠が質問する。

 彼はその質問に頷き、店長がそれを更に補足した。


「なるほど、古森さんって単なるサバゲー好きの人じゃないんですね」


「人は見かけによらないって奴っス、って今暗にオタクっぽい見た目してるって言われたっスか?」


「いや、その、あははは……」


「もう閼伽井先輩、失礼ですよ!」


「まぁ別にいいっス、弄られキャラなのはいつものことっスからね。 とりあえずここで会ったのも何かの縁、折角だから連絡先の交換いいっスか?」


 古森はそのまま提案し、二人は頷いて互いの連絡先を交換しあう。

 その時、連絡先を交換し終わった誠の携帯にノイズが走った。


「ん? ……なんだ?」


「よし、交換終了っス。 そんじゃあ今後調べたいこととかサバゲーについて聞きたいこととかあったら連絡して欲しいっス」


「あっ、分かりました、今後ともよろしくお願いします古森さん」


「はい、いっぱい頼りにしちゃいますね古森先輩!」


「うぉぉ、素直な好意を向けられると照れるっス……そんじゃ自分は時間がやばいんでこれでっス!」


 連絡先の交換を終えると、古森は携帯をポケットにしまい両手一杯の紙袋を手に店を出ていった。

 その姿を二人は見送り、先ほど彼が見繕ってくれた品物を持って会計の為店主の元まで歩いていく。

 

「それじゃあすみません、お会計を」


「いや、何かすまないね、本当は自分で選びたかっただろうに……本当にその商品で良いのかい?」


「大丈夫です! 私達ぜんっぜん詳しくなかったので教えてもらえて助かりました!」


「はい、正直古森さんに会えてなかったらお店に入って商品を買えていたかも分からないので……有難く思ってます」


「はは、そう言って貰えると店主としても親代わりとしても嬉しい限りだよ」


 誠達の返事に店主は嬉しそうに笑いながら言葉を返す。

 その中の、親代わりという単語に誠が首を傾げた。


「親代わり、ですか?」


「あぁ、三年前に起きた石動市での事件覚えてるかい?」


「石動市……」


 その市の名前を聞いた途端、誠の表情から笑みが消えた。


「彼の両親はあそこに居たんだ」


「じゃあ、その、古森さんのご両親は……」


 花の言葉に店主は頷いた。


「その後彼の両親と親戚だった私が彼を引き取ったんだが、あの子は明るく見えるが心はかなりの傷を負っていると思う、だからもし君たちが良ければなんだが……今後もあの子と仲良くしてやってくれないか」


「それは……」


「はい、もちろんです!」


 店主の提案に、どうするかと悩んでいた誠の隣で花は即座に頷いた。


「ね、先輩?」


「あ、あぁ……うん、そう、だね」


「そうか……ありがとう」


 花の言葉に、誠は歯切れの悪い返答をする。

 それを見て店主も何かを察したのか、一度だけ頷くと目の前にあるレジを操作した。


「さ、お会計だが初めての来店祝いという事で少しだけ値引きさせてもらって2万5000円にしておくよ」


「わぁっ、いいんですか!?」


「あぁ、その代わり今後もうちをご贔屓に頼むよ」


「すみません、何から何までありがとうございます」


「構わないよ、何度も言うようだが君達がお店に通ってくれることが私にとっては一番良い事だからね、損して得取れって奴さ」


 店主はそう微笑みかけ、誠もその笑みを見てようやく元の笑顔に戻るのだった。


「それじゃあ花ちゃん、そろそろ帰ろうか」


「はい先輩、それじゃあ今日はありがとうございました、また今度寄らせてもらいますね!」


「あぁ、またおいで、気を付けて帰るんだよ」


 二人は会計を済ませると、そのまま出口で店主に向かって会釈をし店を出る。

 階段を昇っていき、地上に出ると辺りはすっかり夕日に包まれていた。


「うわ……もう夕方か」


「かなり長い時間居ましたね、入った時はまだ全然陽も高かったのに」


「そうだね、かなり濃密な時間だった気がするよ……とりあえず今日はこれで行きたいところは全部寄れたけど、他に行きたいところはある?」


「う~ん、行きたいところはあるんですけど手持ちのお金が……また今度、別の日に一緒に行きましょう!」


「分かった、なら家まで送っていくよ、荷物もあるしね」


 誠は先ほど買った荷物を両手に持ったまま花に提案する。

 だが花は両手と顔を横に振って拒否した。


「い、今から私の家にですか!? だ、だだだだ駄目です! それはだめ!」


「え、どうして──」


「まだそういうのは早いと思います、先輩!」


「あー……そうか、ごめん、そうだよねいきなり家に行くなんて言ったら困るよね」


「す、すみません! 本当は是非と言いたいんですが部屋の片づけとかを今日はしていないので……なので今回は駅までで大丈夫です!」


 頭を下げる花に、誠は苦笑しながら顔を横に振る。


「いや、こっちこそごめん。 そうだね、それじゃあ今日は駅まで送っていくよ」


「はい、最後までエスコートお願いしますね閼伽井先輩!」


 そうして、二人は店に入る前と同じように他愛のない会話をしながら帰路へ着くのだった。


─────────────────────────────────────


 同日、午後九時。

 電子機器が大量に置かれた真っ暗な室内。

 部屋の中ではパソコンのモニターだけが灯り、その正面に向かって座る青年──古森は、キーボードを叩き続け……とある画像をモニターに映したところで手を止めた。


「閼伽井誠……そうっスか、彼が……」


 モニターには、誠の写真が写っていた。

 それは現在のではなく、三年前の中学生時代の時の写真である。

 古森はモニターに映ったその写真を神妙な顔で見つめるとこう呟いた。


「少し調べてみるっスか」


 古森がそう言うと、室内にあった機器全てに一斉に電源が入った。

 それはまるで、機械全てが生きているかのような反応である。

 だが彼はまるでそれは当然であるかのように気に掛けず、再び作業に没頭していくのだった。



明けましておめでとうございます、本年もよろしくお願いいたします。

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