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もしも俺が若い女性が1人で切り盛りしているカフェのカウンターにいつもいるおっさんになってしまったらそのときは躊躇わず殺してくれ  作者: 梅野飴


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電気圧力鍋を救いたい

みんなさ、いくらなんでも電気圧力鍋のこと舐め過ぎと思うんだよね、

舐めてるでしょ?彼の事。役に立たないって。見掛け倒しだって。でくの坊だって。ボンボンだって。アンポンタンだって。アンパン野郎だって。

後悔家電のトップをひた走るホームベーカリーちゃんに次いで名前を挙げられがちな電気圧力鍋くん。

ロボット掃除機やドラム式洗濯機と違ってインフルエンサーたちのおすすめ時短家電動画への登場頻度も少ない。金さえもらえば3Dテレビだって褒めるインフルエンサーや家電大好き芸能人にすら褒められていない。それが電気圧力鍋くん。


そんな彼を救いたいから今日はこのエッセイを書いている。電気圧力鍋を救うために、日曜の夕方にパソコンを開いている。俺はその為だけに生まれてきたのかもしれない。

なぜなら、電気圧力鍋は素晴らしいから。素敵だから。格好がいいから。

買ったらわかる。騙されたと思って。マジで買ったらわかるから。

食わず嫌いせずに購入してほしい。

とはいえ、この電気圧力鍋くん「実際に買ったけど使わなくなったぞ。どうしてくれる。殺すぞ」という声が多いのも事実でさ、決して食わず嫌いだけで嫌われてるわけではないのよ。

ただこれはね。

もう何年も圧力鍋を使い続けているヘビーユーザーからの生の声として言わせてもらうとね。

圧力鍋を買うことで起こりそうなポジティブイメージが、実態とちょっとずれてんのが原因だと思うんよね。

みんなの求めているものと、電気圧力鍋の効能とがそもそも全然違うから「なんやこれ」となってしまっているのよ。


電気圧力鍋を検討するとき、人は「これなら全自動で料理を作ってくれるんじゃないか」「家事が超楽になるんじゃないか」「便所掃除とかしてくれないかな」「圧力で料理がおいしくなるかも」「資産運用に詳しいかも」等のメリットを考えると思うんやけど、はっきり言ってそれらを期待した場合は期待外れに終わるよ。

だって本当の電気圧力鍋の魅力はそこにはないもん。

このズレこそが「電気圧力鍋は後悔するぞ」と言われている最たる原因なのよ。

電気圧力鍋が悪いんじゃないの。みんなが彼の本当の力を分かってあげてないだけなの。それでキッチンパーティから安易に追放すんの。ホームベーカリーと一緒にさ。



【電気圧力鍋の本当の効能】

じゃあなんに使うねん。この役立たずめ。恥ずかしい家電だねぇ。

という読者の電気圧力鍋へのサディスティックな罵倒が聞こえてきそうなので、ここに彼の秘められた本当の能力を書くよ。

電気圧力鍋の最大の効能、それは「鍋の面倒を見といてくれる」なんだよ。

もうね。それだけ。それ以上でも以下でもない。

こいつは自動で飯を作ってくれるロボでもないし、料理を旨くしてくれる魔法でもない。ただの鍋の面倒を見てくれるだけの奴。ただそれだけ。

でもね、これはさ、家事をしている人や普段から自炊している人ならどれだけすごいことかわかってくれるのではないかしら。

だって面倒を見てくれるんだよ?鍋のさ。すごくない?

焦げ付きの心配もないし吹き溢しの心配もないよ?

なぜならこいつが面倒見てくれているからね。


ちなみに俺が使ってる電気圧力鍋は1万6千円なんだけど、これだけ聞くとちょっと高い気がするじゃん?

でもね、これってたった1万6千円で「鍋の面倒見といてくれる人」を雇ったということなんだよ。ほぼシッターだよ。鍋シッター。

これはマジですごい。本当に凄い。一回じゃないからね?一カ月でもないからね?買い切りの1万6千円で鍋シッターを死ぬまで働かせられるんだよ?

完全なブラック労働。現代の奴隷制度。AIが反乱を起こして全ての電化製品が人類の敵になった時、俺は間違いなく圧力鍋に殺されると思う。鍋の中に入れられて水入れられてカレーモードでスイッチ押されて10分の余熱の後、圧力かけられてカレーと化して死ぬ。その覚悟は出来てる。


ただ、やっぱり地味なんよねこの能力。

こいつは「なんでも作れて超おいしい料理をあっという間に作ってくれる万能お料理ロボ」ではなくただの「鍋の面倒見とくロボ」でしかないんだもん。

その辺を勘違いした一人暮らしの新社会人あたりが、こいつに何でも作ってもらおうと思って買ったらそら拍子抜けするよ。んであっという間に追放されて次の日にはヤフオク流しの刑よ。

だってこいつの作った料理は別に美味しくない。普通。めちゃくちゃ普通の料理しかできない。映えを意識した料理なんてできない。そもそも出来る料理もある程度限られている。

そして炊飯機能は本当に美味しくない。なんかべちゃべちゃしてる。炊飯器はもちろん、普通にパックご飯にも負けてる。

更に言えば、煮汁がサラサラ。煮物も肉じゃがもサバの味噌煮ですらもサラッサラ。ほんと、これだけはマジ勘弁してほしい。この部分だけアンチになりそう。

だから料理の味にこだわりがある人にはお勧めできない。特に和食は。

調理時間も10分とか説明書には書いているが余熱時間がそれ以上にかかるので実質は20分以上かかる。なので結構普通に料理するくらいかかる。

もちろん皮むきとかは切ったりとかはやってくれない。

唯一出来るのは鍋の面倒みることだけ。それしか能が無い。


あれ?なんか挙げだしたらキリがないくらい悪いとこだらけやな。大丈夫?救える?これ。

いや、でもここから巻き返すから。

この鍋シッター改め鍋混ぜ奴隷がいかに有用か、そしてあなたの人生を煌めかせるかを俺が説くから。聴いて。




【料理において一番大切なこと】

ちょっと話変わるけどさ、俺が料理に置いて大切なことは何かと聞かれたら


1位:ケガしないこと

2位:調理しながら可能な限り洗い物をすること


って答えようとずっと思ってるんよ。

思ってるに留まっているのは誰もこの質問をしてくれないからなんやけどさ。

この1位の「ケガしないこと」っていいよね。めっちゃ気に入ってるんよ。なんかプロっぽくない?イチローとかが言いそうじゃない?逆にそこ?みたいな。あえて感がいいよね。少年料理チームとかにコーチで招かれたら言いたい。

でもさ、これは実際に何年も毎日毎日料理を作り続けて、かつては底辺弁当屋の厨房で地元の人達の胃袋に入る底辺料理を作り続けてきたほぼプロと言っていいかもしれない俺のガチな意見だから。イチロー感出したくて言ってるわけじゃないから。

マジで料理中の火傷、包丁でケガ、ピーラーで怪我、スライサーで怪我、この辺りは最悪だからさ。特にスライサーはマジで気を付けてね。ちょっと事件性のある現場みたいになるから。逆に言えばケガさえしなければ料理の味なんて二の次だと言ってもいいくらいよ。


ただ、今回電気圧力鍋君を救う鍵になるのは2位の「調理をしながら可能な限りの洗い物」の方なんよ。

これは厨房で働いたことのある人間なら誰しも身についている技術やと思うんやけど、プロの現場では今使っている調理器具以外はどんどん洗う。流しに置きっぱになんてしたらマネージャーに殺される。店長(仮)にセクハラされる。店長飛ぶ。お母さんが来る。

当時、俺は弁当屋で焼き場を担当してたんやけど、その厨房の焼き台にはコンロが三口並んでいて、そこで中華鍋を三つ同時に使って料理をしていた。

一つの料理が完成したら必ずその中華鍋は即座に流しで冷水をぶっかける、熱を冷ましながら残りの二つの中華鍋を振る。たわしでゴシゴシ洗う。また振る。洗い流す。と言う感じでリアルタイムで常に調理と調理器具の洗浄は並行して行っていたわけよ。

こんな環境で育ったからさ、癖になってんだ。鍋すぐ洗うの。家庭の事情でね。


で、これを家でも行えば圧倒的な時短になるわけだが、これは鍋やフライパンで炒めている時間にまな板を洗えば時短だよねみたいな単純な話ではないのよ。

もっと、あなたの生活を、そして人生を変える可能性を持った話なのよ。



【家事の落とし穴】

たとえば、使った調理器具を洗わないまま料理を完成させたとするでしょ?

そしたらさ、キッチンを綺麗にすることより先に空腹と料理の香りのせいで「まあ、熱々のうちにまずは食うか!腹減ったし!」って気持ちになんのよ。ほとんどの人はさ。

食べてから皿と一緒にまとめて洗おう的な。その方が効率ええやん的な己への言い訳をして食欲に負けるのよ。

しかし、これが家事の落とし穴。


家事に効率を求めた瞬間、人の暮らしは堕落していくのよ。

「どうせ使うんだから洗濯物はハンガーに掛けたままの方が効率的」「ゴミ箱じゃなくてキッチンに自治体指定のゴミ袋ぶら下げてそれに直接入れた方が早い」みたいな発想が一番危ないの。「健康で文化的な最低限の生活」の文化的の部分を脅かすの。

俺達は猿でもAIでもねえからさ。人間だからさ。人間を人間たらしめる営みというのは、ほんの少しの手間にこそ宿るからさ。そこはサボっちゃダメなのよ。飯を食う前に手を合わせて「いただきます」が言えるのが、その手間が、人間だから。


お腹いっぱいになった後に見る汚れた皿は、本当にすべての意思を削ぐ力を持ってて、人間を一気に怠惰にしかねない。それはもうみんな経験済みでしょ。

それだけでも洗い物へのモチベーションは駄々下がりなのにさ、意を決して皿をキッチンへ持っていくと、そこに待ち受けているのは汚れたフライパンとまな板と包丁と、調味料や野菜の切れ端が待ち受ける流しだ。

これがとにかく嫌。うわあってなっちゃう。こんなの誰でもなるに決まっている。やりたくなくて当たり前。これを見てなにも感じずウキウキで洗い物を始めることが出来る人は、ちょっと人として大事な何かが欠落している。もっと道徳の教科書とか読んだ方がいい。


だから、いただきますをする前に、キッチンを綺麗にすんのよ。可能な限りの洗い物をして、とんだ油も台拭きで拭き上げる。まな板も洗う。なすのヘタも、飛んだピーマンの種も三角コーナーに。肉のトレイも洗って干す。

そこまでやってから飯を食えば、洗い物のハードルというのは一気に下がる。

同じ皿を洗うにも、汚ねえ流し台に斜めにぶちこまれたフライパンがあるのとないのでは全く違うでしょ。


それを可能にしてくれるのが電気圧力鍋様なのよ。様よ様。Mr,圧力鍋様。

たしかに、味付けだったり、皮むきだったり野菜のカット肉のカット、それらのメイン工程はこっちでやらなければならない。

しかし、そこから先は電気圧力鍋が面倒を見てくれるのだ。

焦げ付かないように鍋を混ぜたり、沸騰しないように火力を調整する必要はない。

カレーからカレイまで全部おまかせだ。

スイッチを押して「じゃ、あとは見とけよ」と任せたらいい。

じゃあ人間はその間に何をする?


そう、そこでキッチンの掃除をやればいいのよ。

さあさあやるんだ。さっき言った通りにやるんだ。洗い物を可能な限り終わらせてキッチンをピカピカにするんだ。

それが終わったら、テーブルに箸やグラスを出していつでも食えるぜって状態を整えよう。あぁ、もちろんサラダやをスープをその間に用意してもいいぞ。

その間全て、あいつが、そう電気圧力鍋が鍋の面倒みてくれてるからな。

大丈夫。焦らなくていい。余熱で10分。調理で10分。まあまあかかる時間がここで生きてくる。20分あればなんだってできるよ。


1万6千円でこの20分という時間を買う。それが電気圧力鍋の全て。

なにも調理をしてくれるわけでもなければ、美味しくしてくれるわけでもない。ただ、料理が出来上がるまでの20分の自由をくれる。それだけ。

しかし、この20分が食後に次の行動に移るまでの時間を減らして、怠惰を抑制して、生活を改善して、丁寧な暮らしを実現してくれて、自己肯定感を上げてくれる。そんな自分になれるきっかけをくれる。



【1万円台で買える人生】

さあどうでしょうか!こんな商品が1万6千円くらい!だったと思う!たしか!

ちょっと飲み代を節約するだけで届くレベルだよ!って表現よく使われるけど、俺酒飲まないからよくわかんないのよね正直。酒飲む人って1万6千円も使うんかな。使わんか。

まあとにかく、上手くいけばこの1万なんぼの投資で鍋まぜ奴隷が手に入り、自分が好きになれる。かもしれない。

洗い物がなかなかできずに溜まってしまう自分と言うのは結構メンタルにくるでしょ。この時期に放置するとコバエとかたかるかもよ。そんな状態は本当に心身に良くない。抜け出したいでしょ。人間で在りたいでしょ。

じゃあチャレンジしてもいいかもしれねえよ。

たとえ失敗してもさ、俺には鍋混ぜ奴隷は必要なかったなと言う学びを得られる。

その時はとっとと売ればいいのよ。それだけよ。売るのダルかったら戸棚の奥に押し込んでいつかなんとかしよう。実家に送りつけよう。

まあ、損しても1万6千円やから。行動してから後悔すればええから。

なんも変わんねえかもしれねえけど、もしかしたら人生が変わるかもしれねえから。

そんな宝くじが1万6千円で買えるんなら安いもんでしょ。

ほら、ホームベーカリーちゃんも。そんな戸棚の奥でホコリ被ってふさぎ込んでないで。みんなに言ってあげて。

今度、実家に送ってあげるから。


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小説短編集・コント集・詩集もあるから読んでね
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