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もしも俺が若い女性が1人で切り盛りしているカフェのカウンターにいつもいるおっさんになってしまったらそのときは躊躇わず殺してくれ  作者: 梅野飴


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スーパーの片隅でジジイババアのケツに電流を流して飯を食う謎の組織に8カ月潜りこんだ話①

今日から週に一度、毎週火曜に更新します。

多分途切れないです。エッセイ楽しいので。

四月だ。

四月と言えば、入学シーズン。桜の花びら舞う中、各カテゴリーの新人生たちが、ワクワクと期待に胸を膨らませながら新たな道を歩いている。

彼らを見ていると、俺のクソたれた人生にもあんな風にワクワクした季節があったなと、懐かしくなる。

そして、彼の顔を思い出す。

短く刈り込まれたウニみたいな直毛、笑顔が顔面に張り付き常に上がりっぱなしの口角、バッキバキにキマった目。

そんな最高にサイコで爽やかな男『こうちゃん』は、間違いなく俺の17歳の青春を彩った一人だ。



17歳、高校三年生のある春の日、バイト先のスーパーの隅の畳4畳分ほどのスペースに突然謎の木製椅子が並んだ。

そこには筋肉質な体に爽やかな笑顔を張り付けた若い男が立っていた。

彼の名前は、ひろちゃん。

俺をめくるめくワクワクの世界に連れて行ってくれることになる地獄の案内人である。

平和な田舎のスーパーに突如として舞い降りた謎の男ひろちゃんは、買い物を終えた客、主に高齢者を対象にそのバッキバキにキマッた爽やかな笑顔で声をかけていた。

しかし、悲しいかなこの世の三角コーナーみたい場所に存在している俺の地元に突如現れた爽やかで素敵な人間なんてどう考えてもまともな人間ではないので、ひろちゃんはほとんど相手にされていなかった。

あれ、大丈夫なのか?ていうかなんなんあの人。目、バッキバキだけど。

と、俺はジュースの品出しをしながらチラチラと彼の様子を伺っていた。

しかし、ひろちゃんはどれだけ無視されても一切気にする素振りも見せず、ずっとその笑顔を崩さなかった。目はキマッていた。

その謎のスペースが出来て3日が経った頃、店長が俺達高校生バイト軍団に言った。

「お前ら、サクラ役してやれ」

つまり、俺達が客としてあの謎の椅子に座り、他の客たちにその姿を見せることで「あら、あんな純粋無垢そうな若い子たちがいるなら目バキバキでも安心かしら」と思わせてウブな老人を誘い込もうという魂胆である。

というわけで、俺達は早速私服に着替えて例のスペースに向かった。

「いらっしゃいませー!どうぞどうぞ座ってください!」

そう言って俺達を嬉しそうに迎えてくれたひろちゃんの胸には「ワクワクランド ひろちゃん」という手作りの名札があった。目はバッキバキだった。

俺はその時初めてこの謎の小さなスペースにそんなワクワクしない名前が付いていることを知った。

ひろちゃんに促されるまま、俺達高校生の男女4人は並んだ木の椅子に座る。

ひろちゃんは、俺たち全員が着席したことを確認すると、スペースの隅にある謎の小さな箱のスイッチを入れた。

「みなさんには、これから15分間この椅子に座ってもらいます。それだけです。ただ、それだけで皆さんの身体は健康になります」

おお、のっけからかましてくるやん。なにその隠そうともしない怪しさ。人間17年もやっていれば座っているだけで健康になったり、寝ているだけでお金が入るなんて話は存在しないことはわかっているよ流石に。

しかし、そんなクソガキのニヒルな苦笑いなぞ織り込み済みですよ。といった様子でひろちゃんは笑顔のまま続ける。

「実はさっき僕がスイッチを入れたあの機械。あれが人間に痛みを感じない程度の微弱の電流をこの椅子に流しているんです」

ひろちゃんはとても爽やかに俺達を電気椅子に座らせたことをここに宣言した。

その笑顔に俺達は震えあがった。多分全員の脳裏にはグリーンマイルの例のシーンが浮かんでいただろう。

ちなみにこの後もひろちゃんは俺達の前でついに一度たりとも笑顔を崩すことはなかったので、描写がなくても笑顔であると脳内で補完してほしい。目ももちろんバキバキだ。

それからの15分間、このスペースがなんなのか、あの箱がなんなのか、そして俺達の身体にどんな理由でどのような変化をもたらすのか、を非常にわかりやすく説明してくれた。

ひろちゃんの言うことには、あの箱から流れる微弱な電気が椅子を伝ってケツというケツから俺達の身体を甘く刺激して、人間の身体に本来備わっている自然治癒力を爆増させる。それによって風邪が引き辛くなったり、ケガの直りが早くなったり、細胞の活性化を促し肌や髪の毛を綺麗にしてくれたりするらしい。

ちなみに、この電流は体内に24時間流しまくればいいというわけではなく、一日15分で十分で、大切なのは毎日続けることだと。

以上が「椅子に15分座るだけで勝手に健康になっていく」という怪しい宣伝文句の理由だった。

素晴らしい。まるで俺の大好きな開運ブレスレッドのような大発明品だ。

ここまでは、どこにでもいる普通の詐欺師だった。

しかし、ここからひろちゃんは信じられない発言をする。

「僕は、この機械の素晴らしさを広めるためにこのスーパーさんにスペースを貸していただいたんです。なので、今日はもちろん今後もお金をとることは一切ありません」

「無料で続けるってことですか?」

俺は思わず聞き返していた。

「はい!」

ひろちゃんは、待ってましたとばかりに声を張り上げる。なんならちょっと食い気味だった。目もバキバキだった。

「絶対に無料です。そして、この機械を売りつけるなんてこともありません。ただし、一カ月だけです。一か月経ったら僕はここを引き上げ、この機械を広めるためにまた別の地域へと行きます」

なにその昔の坊さんみたいな動き。

しかし、彼のあまりのはっきりした物言いに俺は思わず腕組みをした。

冒頭にも言ったがこの時の俺は17歳だ。17歳と言えば、子供じゃなくなって、社会のダーティな部分も知ってますよ感を出したくなってくる年頃だ。事実、俺は当時カイジやウシジマくんなんかを読んで世間の怪しさ、厳しさを知った気になっていた。

そんな中、まるで漫画の世界から飛び出してきたような胡散臭いキャラクター、ひろちゃんこと目バキバキ男が現れたのだ。

この、誰も客のいない謎スペース「ワクワクランド」がたった一カ月でどうなるというのか。なにができるというのか。そして、彼の狙いはなんなのか、必ず見極めてやる。

俺は、もうワクワクが止まらなかった。

この日から、俺の8カ月にも及ぶ長い長いワクワクランド潜入調査がはじまることとなった。


今でも思い出す17歳のクソガキからの挑戦的な視線を受けたあの日のひろちゃんの瞳。それはやはり変わらず、穏やかでバッキバキだった。


続く




ワクワクランドくん編は多分三部作くらいになりそう

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