鍜治の里
「トロイアにいくのか?なら、気をつけるんだ。旅路は長いからな」
バイト途中の女帝と別れを告げ、俺達はタレスティアを去った。
旅路は長いが、アレアトのコンパスがあれば辿り着くことができるだろう。
「ちなみに、トロイアって広いって聞くけど.....どれくらいなんだろうな」
「他のどの街も小さく思えるくらいには広いね。それに、様々な組織の本拠地が集まっている街でもあるから」
「例えば?」
「冒険者教会」
なにそれ冒険者に協会なんてあったのか。
「冒険の仕方は自由だけど、冒険者教会は冒険者をサポートするような組織だね。例えば依頼の提示とか」
「俺達は教会に入ってないんだよな?」
「今のところ、その必要がないからね」
つまりあれである。冒険者がパーティに入るか否かの巨大版。
「あと、トロイアといえば元老院じゃない?」
元老院とは、イフィリオスをある意味管理している組織のことである。
「元老院って、元老って呼ばれる人達で...構成されているんだよな?」
「その通り。元老はイフィリオスを管理している人々のことだけど、戦闘力も並外れた人が多い」
マジかよ。頭脳と戦力がそろってるってことか。マジか。
「中でも、規格外と呼ばれている元老が2人いる。1人は元老第1席、「執行者」プセウデス」
その名前は聞いたことがある。元老の中でも最も権力を持つ者。
「そしてもう1人は元老第2席、「神雷の魔槍」ヴァレット」
元老院の二柱とも呼ばれる。それにしても「神雷」か。魔術での雷攻撃とは、また次元が違うのだろう。
「...怖いなぁ」
それから数日間歩き続け、夕暮れに俺達は大きめの里に辿り着いた。
「ここは....鍜治の里だね」
「鍜治の里?」
確かに、至る所から鉄を打つ音が聞こえてくる。
それにどこからか湯気ものぼっている。
「色んな鍛冶師が集まってできた集落でね。それと、イフィリオス有数の温泉地帯でもあるんだ」
つまり湯気は温泉からのぼっているものなのか。
「数日は、ここで休憩を挟まない?それに温泉も楽しみたいもの」
「さんせーい」
「それならそうしようか。じゃあ、宿を探そう!」
カンカンカン、と鉄を打つ音が響く里へ入り、宿を訪ねる。幸いにも、1部屋空いていたようでそこを借りることになった。
もう夜になっていたこともあり、俺達は温泉に入ることに。
「ちゃんと別れているんだな」
「当たり前よ。混浴は許さないわ」
笑顔が怖い。でも温泉に入ればきっとご機嫌になるだろう。なってほしい。
木の樽に真っ白なタオルを入れ、準備万端。
「僕は...先に宿へ行ってるね......」
「温泉に入らないのか?」
「今はいいや......」
そういい、一足先に宿へ行くネモを見送り温泉へ。
ちゃぽん...と温泉に浸かった瞬間、温もりが全身を包み込む。
「あぁ〜、いい湯だなぁ〜」
「そうだねぇ〜」
アレアトと2人湯。正確には端の方にお客さんが居るが、遠いため実質2人湯。
露天風呂になっているから、里の景色を眺めることができるのだが、
「本当に美しいな.....」
闇夜の中を火と炎、明かりが照らす。
人工ではない、自然の美しさがそこにあった。
その景色を眺めながら、こっそり聞き耳をたてる。こんな静かな時には、やってしまう癖でもある。
すると、興味深い話が聞こえてきた。
「なぁ、知ってるか?この里にはよ、抜いたら勇者になれるって剣があるらしいぜ?」
「馬鹿言え、もうその剣はもうねぇよ」
「だれか抜いたのか?」
「いや、噂では魔王を倒した後の勇者が持ってったとか」
「そっちこそ馬鹿言え。そんな必要がどこにある」
「だがよ?それが1番有力な説なんだぜ」
(勇者が勇者の剣を持ってった...?それも魔王討伐の後に...?)
不思議な話である。普通はまだ魔王がいる時にするはずなのに。それに抜いたではなく持ってったである。
台座からないとかそういうことなのだろうか...?
一体なんのために.....
「アレアトはまだ温泉浸かっとくか?」
「そうしようかなぁ.......なかなか離れ難いんだよ.....」
ふにゃふにゃになってる.....!!
「そうか。じゃあ俺はお先に」
宿屋へ帰ると、案の定ネモがいた。
「アレーティアもまだ帰ってきてないのか?」
「うん.....まだ帰ってきていないよ」
2人揃って長風呂タイプか。
いや、アレーティアは久々の温泉ってことで満足するまで入るって感じだろう。
「ネモは.....やっぱり入らないのか?」
「そうだね...人がいない時に入ろうかな.......」
実質貸切。
なかなかそんなタイミングは訪れないが、真夜中でならいけるか.....?
「フードを外さなくちゃいけないから......」
「顔を見られるのが嫌なのか?」
「嫌じゃないけど......視線が...怖いんだ」
よし、深入りはよそう。
トラウマとかだったら申し訳ない。
つまり、寝よう。
眠いし。
「俺は先に寝るけど、何かあったら起こしても構わないからな」
「ありがとう.....おやすみ。いい夢を」
そういい、ネモは微笑んだ。
ベッドに飛び込み、ふと考える。
(まだ、勇者の剣の跡地って残ってるのかな...?)
恐らくは残っていそうだ。多分。
少しの間、この里に留まることだし。
(よし、探してみるか)
明日の予定が決定した。




