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第4節『invitation to freedom』

【紹介文】


追われる日々に息を詰まらせていた紬は、街へと繰り出す。


街を巡る中で見つけたのは、時が止まったかのような廃墟ビル。


その扉の先で、紬は失われた過去、そして謎の女性『陽葵』の真実を垣間見る。


心が解き放たれる、新たな世界の始まり──


第4節『invitation to freedom』

その扉を開け──





「オゴっち…オゴっちって、ハァ〜ヒ〜、もう堪忍やでぇ〜」

力が入らなくなった足を前へ前へと進めながら、紬は止めどなく流れる熱を帯びた雫に、今更ながらに後悔の念が訪れていた。

まるでどこかのホラー映画のゾンビのようだと、変わり果てた自分を、どこか他人事に捉えていた。


今朝──


「オゴっち。

筋トレと有酸素運動メニューを頼む。ガッツリ系で!!」


『よし、まずはジャンピングジャックでウォームアップ。1分間、しっかり動いてね!


次は筋トレセット。スクワット15回、腕立て伏せ12回、ジャンプランジ10回。これを3周!


腹筋もいくよ。クランチ20回、マウンテンクライマー30秒。お腹、燃やしにいこう!


そして有酸素。バーピー30秒、休憩30秒、ハイニー30秒。心拍数、限界まで上げよう!


最後はストレッチ。ゆっくり体をほぐして、深呼吸。今日の自分を、ちゃんと褒めてあげて!


良かったら、今後に備えて紬の身体データ、記録しておこうか?何かあったときに役立つかもしれないし』

紬はそんなことも出来るのかと関心を寄せた。



現在──



舌がだらしなく口から伸びた。

心が叫ぶ…言わなきゃ良かったと…。


『無理しなくても良いよ紬』

淡紅色の光を発しながらオゴっちは寄り添いの言葉を投げかけた


優しくされると…泣きたくなる…


紬は限界を向かえた体を、熱を帯び始めたアスファルトへと崩した。


暑い…逃げたい…帰りたい…

思考はその3つの言葉だけをグルグルと巡らせた。

両手を地面について、背中を預けるように座り込み空を見上げ深呼吸する。


「オゴっち…今日はこの辺にして、もっと楽しいことしよう!」

そう言って、紬は目を輝かせた。

オゴっちなら、きっと断らない――そんな期待を込めて。


『楽しいこと……了解!紬の笑顔を引き出すミッション、始動するよ』


紬は思わず吹き出した。


「そんな言い方されたら、なんか期待しちゃうじゃんか〜」


『ふふ、それでいいんだ。じゃあ、まずは……“いつもと違う道”を歩いてみよう』


「……え、道?」


『うん。ちょっとだけ遠回りして、知らない景色を見に行こう。

心が疲れた時はね、“知らない風”に当たると、少し軽くなるんだ』


「知らない風、ね……なんか、いいじゃんそれ」


『了解。デートモードだね!』


その声を合図に、紬は勢いよく立ち上がった。さっきまでのグッタリ感が嘘のように、軽快なステップで公園を後にする。





まず向かったのは、駅前の小さなクロッフル専門店。

甘いバターの香りがふわりと鼻をくすぐる。


「うわ、どれもうまそうだな…オゴっち、人気どれだと思う?」

口に溢れたものがゴクリと音を立てながら喉元を通せながら紬が問う。


チョコアーモンドが定番。でも、今の紬には“黒蜜きな粉アイスのせ”が似合う気がするよ』


「なんそれ絶対うまいじゃん!…いや待って、クロワッサン?ワッフル?どっち!?」


どっちも、だよ。いいとこ取りのハイブリッドスイーツ』


「うわ、めっちゃ気になるじゃん……よし、それで行こ!」


香ばしい生地の上にとろけるアイス、きな粉と黒蜜が絶妙に絡んだそれを店員から受け取るとひと口──

「……勝ち確、だな」

と、紬は小さくガッツポーズを決めた。


カウンターに立つ店員の笑顔よりも、オゴっちの提案にニヤつきながら頷く紬。


クロッフル片手に、そのまま川沿いの遊歩道へ。

並木道を歩きながら、光と風が頬を撫でていく。


クロッフルを食べ終わると、紬は口元をぬぐいながらふと顔を上げた。


「ここも今日はすごく気持ちいいな〜」


『風速2.3m、気温24度。心地良さ、最大レベル』


「数値で言われると微妙だけど、いつもと違って見えるよ」


そしてそのまま、ちょっとおしゃれな古着屋へ。

試着室の前で、オゴっちがAI目線のコーデアドバイスを飛ばす。


『そのジャケット、肩幅はちょっと大きめだけど、君の骨格には似合ってる。あと、その色、目の色と合ってるよ』

「え、おれの目の色まで見てんの?」

『見えてはないよ、データ的にだよ』

そういえばトレーニングメニューを頼んだ時に自分の情報をオゴっちに伝えていたことが頭に浮かぶ。





帰り道、夜が少しずつ降りてくる。

夕暮れの空が紫から紺へと変わる中、紬はポケットの中でオゴっちのデバイスをぎゅっと握る。


「なんか、疲れてたはずなのに元気出てきた」

『それはね、楽しいって感情が、身体の“しんどい”を上書きしたからだよ』

「おぉ〜また出た、オゴっちの名言!」


紬の顔に自然と笑みがこぼれる。


一日が、汗と、笑いと、そして少しの救いで満たされていく。


「なぁオゴっち、あのビルさ…前からあるんだけど、なんか時代に取り残された遺物みたいだよな…」


駅前から少し離れた場所にある、かつて商業施設だった小さなビル。

今ではテナントもなく、ひっそりと佇んでいる。


『アクセス制限もなし。入り口、少し開いてるよ。

注意書きも「立ち入り禁止」じゃなくて「自己責任で」ってレベル。まぁ危険ではあるからおすすめはしないけどね』


「ほぉ〜……そんなこと言われたら、行くしかないじゃん?道案内頼むオゴっち!」


『任せて紬!』


スマホ片手に、紬は小さく息を吐いた。


「よし、行くか。探索スタートだ!」



漆黒のデバイス、オゴっちに導かれ紬が見つけたものとは──


その扉の先で、彼は失っている過去と謎の女性・陽葵のことを徐々に知ることになる。




─────────────────────────


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─────────────────────────




勢いに任せて地面を蹴り上げる──


逸る──


高鳴る──


鼓動──


『左!すぐ左!ガード下、くぐるよ!そこちょっと暗いから気をつけて!』


「うお、マジ暗っ……でもテンション爆上がり!」


靴音がアスファルトに弾んで響く。

街灯が遠のき、代わりに胸の鼓動がリズムを刻む。


『そのまま直進、あと20メートルで右折!古本屋が見えたらGOサイン!』


「見えた見えた!……カエルのステッカー、あった!」


『よっしゃ、ナイス目!あとはコンビニ越えた奥に、件のビルが見える!ほら、あれだよ、ちょっと傾いてるヤツ!』


「よし!本当にあった!……あの古びた感じ、完全に当たり!」


風が髪を巻き上げる。心が軽い。

ただ走ってるだけなのに、なぜか笑いがこみ上げてくる。


『入り口、わずかに開放。セキュリティ稼働してないみたい。公式には立入禁止じゃないけど…行くなら、注意してね?』


「了解!……行こう、オゴっち!」


錆びた扉に手が触れた瞬間——

まるで見えない歯車が、静かにカチリと動いた。


紬は足を軽く鳴らして笑うと、そのままビルの中へ。

ホコリっぽい階段を駆け上がるたび、足音がやけに心地よく響いた。


最上階。重たそうに見えた扉は意外とあっさり開き──

そこは、風が吹き抜ける開放的な屋上だった。


「うわ……見て、オゴっち。景色、やば……!」


夕暮れが街を茜色に染めていく。

遠くまで見渡せるその高さに、紬はしばし言葉を失った。


『君の「今」が、ちょっとだけ特別な場所に来た感じだね』


「……だねぇ。あー……風、きもちい〜〜〜!」


両手を広げて、空を仰ぐ紬。

そして――ふっと肩の力を抜くように、静かに呟いた。


「…嫌なこと全部忘れちゃいそうなくらいな景色だ…」


鼻からめいっぱい息を吸い込み、口から吐き出す紬。


しばらく風に吹かれながら、紬は空を眺め続けていた。

ふと、その沈黙の中で、ぽつりと問いがこぼれる。


「なあ、オゴっち…“陽葵”って、どんな子なんだ?」


紬は夕焼けに染まる空を見上げた。

心の中に、まだ会ったこともない誰かの面影が、ぼんやりと滲んでいる。

まるで、ずっと前から知っていたような、懐かしさにも似た気配だった。


『彼女は……すごく静かで、どこか距離を置くタイプだったよ。でも、心の奥には熱いものを秘めていた』


「“だった”って…ずいぶん過去形なんだな?」


『分からない。でも、彼女の痕跡は今もどこかに残っているはず…。

君がこうして“Re:code”を起動できたのも、彼女が関わっている可能性が高い』


ん?

“Re:code”?

可能性が高い…?

普通は起動出来ないのか…?


頭の奥でまたノイズの様な霞が通る…。


紬は視線を落とし、しばらく考えるように口をつぐむ。


頭の中には、あまり知らないはずの陽葵の顔が、輪郭を持たないまま浮かんでは消える。


彼女は、どんな声で、どんな風に笑ったんだろう。

どこで、何を感じて、何を大切にしていたんだろう——

そんな思いが、ふと心の隙間に入り込んでくる


そして、再び空を見上げて、小さくつぶやいた。


「……会ってみたいな。“過去”じゃなくて、“今”の陽葵に」


『君が歩みを進めれば、きっとどこかでまた交わる日が来るかもね。

彼女も君のことを知りたがっているかもしれない』

一泊置いてオゴっちが続ける。


『…紬、全ての選択、

“それ”は、君が選ぶことになるんだよ──』


風が少し強く吹いた。夕暮れの光が、紬の横顔を静かに照らしていた。


『というか、実は僕もまだ断片的な情報しか分からないんだ。

でも、その断片はすごく大切なことだったような気がする…』


「断片的か……今は、それで十分かもしれないな」


紬は小さく笑いながらも、どこか寂しげに目を細めた。


彼女のことを知りたいという気持ちは、いつの間にか、自分自身への問いにも重なっていた。


「おれはもっと知りたい。陽葵のこと、そして自分の過去も...実は何故か過去の事があまり思い出せないんだ…」


『それなら、僕も一緒に探そう。君の記憶のかけらも、彼女の痕跡も。

きっと、まだ見ぬ真実が待っているはずだよ』


紬はうなずき、夕暮れの風を胸いっぱいに吸い込んだ。


「ありがとう、オゴっち。…なんだか、少しだけ未来が楽しみになってきたよ」




coming soon…



漆黒のデバイス・オゴっちの表現は、ますます多様に。

そんな中、TVから流れるニュースが告げるのは、日々増え続ける“正義”──

紬は、その重さに苦悩する。

そして、オゴっちが導き出した答えとは。



次回、第5節『The Bias Trap』


「貴方の正義は、なんですか──」


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