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ヘヴンリー・ガーデン~天界の庭~  作者: 石田あやね
第4章【蘇りし追憶】
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Saelum 45

 アリアと呼ばれた女性は、虚ろな瞳をクレナの母・マイリーへと向ける。


「来てくれたのね」

「声を聞いたら心配になったのよ。ゆっくり話をしましょう」

「そうね。中へ入って……」


 幼かった頃にはわからなかった光景だったろうが、今のクレナなら、二人が深刻な話をしに来たのだと理解できる。母の歩き出した足を見て、クレナも後を追った。


「好きな場所に座って」


 通されたリビングは造りこそ古いものの、うまくアンティーク雑貨で飾られ、オシャレな雰囲気が漂う。


「あら? マイリー、その子は?」


 視界に入らなかったためか、それともぼんやりしていたせいか、マイリーにくっつく子供の存在にアリアが気がつく。どこか視線に冷たさを感じ、クレナは逃げるように母の影に隠れた。


「わたしの娘よ。クレナ、ご挨拶は?」

「こ、こんにちは」


 クレナが恐る恐る言うと、さっきまで感じた冷たさは消え、アリアは優しい表情へと変わる。


「可愛らしい子ね。マイリーによく似てるわ……よろしくね、クレナ」


 クレナは静かに頷くと、アリアはまたマイリーに目線を戻した。


「話なんだけど、子供にはあまり聞かせたくないのよ」

「そう、わかったわ。クレナ? ここで少し待っててくれない? ママたち、お話ししなきゃいけないことがあるの」

「ジュースとお菓子を出すから、それを食べて待っててくれるかしら?」


 アリアはそう言うと、戸棚から美味しそうなクッキーやチョコが入ったお皿をクレナに見せる。


「ありがとう! クレナまってる!」


 近くの椅子によじ登るようにして座ると、二人はクレナを見ておかしそうに笑った。


「なら、いい子に待っててね」

「うん!」


 目の前にジュースも置かれ、玄関を出ていく二人をご機嫌に見送る。外へと出ていくのを見届けると、クレナは早速クッキーへと手を伸ばす。


 ――カタンッ


 奥の方から、何やら物音が微かにした。


「だれかいるの?」


 クレナは廊下の奥にある部屋を息を顰めて見つめる。わずかだが、人の気配を感じた。

普通ならば、誰もいない家で物音がすれば気味悪く感じるのかもしれない。しかし、この当時のクレナは恐怖心よりも好奇心が上回っていた。


「ねぇ、クレナとあそぼー」


 しかし、反応はない。

 クレナは椅子から飛び降り、ゆっくりと廊下の奥へと進んでいった。一番奥にあるドアまで来ると、小さな手でゆっくりとノックする。


「ここから出てきて、一緒にお菓子食べよう?」

「出たらダメなんだ」


 ドアから返ってきた声に、クレナはすかさず声を掛ける。


「なんで出たらいけないの?」

「ママに怒られる」

「んー、ならここでお喋りしよう? それなら怒られないでしょ?」


 クレナの問いに答えるように、閉ざされたドアがゆっくりと開く。部屋から顔を出したのは、クレナより少し年上の男の子。


 その映像を見ていたクレナは、驚愕の声を心の中で叫んだ。


(嘘でしょ!?)


 金色の髪に、左右色の違う瞳。

 それは、紛れもないアランだった。


「わたしクレナっ! お兄ちゃんの名前は?」


 少し躊躇い気味にクレナを見つめた後、男の子は小さな声で返す。


「……アラン」

「アラン? アランはなんで、ここから出たら怒られるの?」

「……決まってるだろ。この瞳が怖いんだ。みんな嫌がるから、部屋から出ちゃダメだって」

「そうなの?」


 クレナが覗き込もうとすると、アランは避けるように目を逸らした。


「変なの、そんなに綺麗なのに……クレナは全然怖くないよ?」

「え?」

「アランの瞳の色、クレナ好きだよ! それが怖いなんて、みんな変なの」


 アランはびっくりした顔を浮かべる。


「それはお前が子供だからわからないんだ」


 少し捻くれたように返してきたが、今にも泣き出しそうな表情をしていた。


「いつかお前だって、僕を怖がるようになる」

「なら、また会いに来てもいい?」

「え?」

「もっと大人になって、クレナがまた会いに来るよ! それでもアランが怖くなかったら、友達になってくれる?」


 笑顔で言うと、アランは呆れた顔をし、溜め息を漏らす。


「好きにしたら?」


 素っ気ない返事でもクレナは嬉しくて、アランの手を力強く握り締める。いきなりの行動に、アランの体がビクッと跳ねた。


「おい!」

「こわくないよ? クレナ、アランのこと嫌いにならないから」

「……今だけだよ」

「約束するから待っててね、アラン。次に会ったら友達だよ!」


 すると、玄関先で物音が響く。その瞬間、握られたクレナの手を振り払い、アランは焦るようにドア裏に身を隠した。


「約束してやるから、僕と会ったこと誰にも言うなよ!」

「うんっ」


 クレナが頷くと、ゆっくり音を立てないようにドアが閉ざされる。



 そこで、またも映像が途切れた。



(こんな偶然がある?)


 アランとクレナは、この世界で会うより前に出逢っていた事実にただただ驚く。知らず知らずのうちに、アランに惹かれたのは、この過去の思い出が無意識に働いたからなのだろうか。


(アラン……やっと会えたのに)


 ――もう、伝えられない。

 悲しみに包まれたクレナに、またも再生され出した映像。


(……まだあるの?)


 その映像の中には、何故か天界の庭(ヘヴンリー・ガーデン)が映し出されていた。

先ほどは映像を見ている傍観者となって過去を見ていたけれど、今回は誰かの目を通して見る映像だった。しかも、見覚えのない記憶での誰かが、森の中をさ迷い歩く風景が流れる。


(ここって……漆黒の森(ニーグル)? それにこれって、誰の目線なんだろう?)


 すると、視界に悪しき人(マーム)が映し出された。


(あぶない! 逃げなきゃ!)


 声を上げるが、身体は全く別の人。あっという間に捕まり、地面へと倒されてしまった。


「暴れるな! お前も今日から悪しき人(マーム)の仲間として調教してやるよ」

「おい、なんだコイツ……男じゃない。女だっ」


 クレナはそこで気がつく。地面に倒れたその人の手首に、あのブレスレットが光っていた。


(もしかして、これはあ(・)の(・)人(・)の記憶の中?)


 クレナと同じブレスレットを持ち、あの川を渡ったはずの彼女の目線。

 漆黒の森(ニーグル)にいるということは、三途の川(テルミヌス)を抜け出した後の記憶だろうか。

 しかし、なぜクレナが見ず知らずの彼女の目線になって過去を振り返っているのか、まったく意味がわからなかった。

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