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ヘヴンリー・ガーデン~天界の庭~  作者: 石田あやね
第2章【犠牲的精神】
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Saelum 15

 太陽の都市(ソール)から一時間ほど歩いた先に、その森はあった。日の光を拒むように木々が密集し合い、ひんやりとした空気で肌寒さを感じる。仄暗い空間がどこまでも続き、少しでも気を抜けば来た方向を見失ってしまいそうなほどだ。

 ヨンギとアランは武器を片手に、辺りを警戒しながらゆっくりと足を進めた。時折、鳥が羽ばたく音と野生動物の鳴き声が響く。だが、その他の音は一切しないのが不気味さを生む。ふたりは既に察していた。


 何者かが、息を潜め攻撃の時を窺っていることを……


「何人いる?」


 アランが声を低くして聞く。


「さぁ、気配が半端ないんで……」


 ヨンギには似合わない口調が今の状況を物語っていた。


「アランは後ろを頼みますよ」


「ああ、任せろ」


 背中合わせになり、お互いの方向に集中する。


「クレナさんは大丈夫でしょうか? 何もないといいのですが……」


「大丈夫だろうが……ここを片付けたらさっさと戻るぞ」


「僕もそのつもりですよ」


 少し笑いを含ませた返答に、アランが眉をひそめる。


「ヨンギ、聞きたかったんだけど……あいつのこと、どうしたいんだよ」


「どうしたい……とは?」


 アランの頭の中に、あの日の光景が思い出される。


「あいつと出逢ったことを運命に思ってるとか……前に言っただろ」


「ああ……あれですか」


 そこでまた笑い声が漏れる。


「盗み聞きは悪趣味ですよ」


「仕方ないだろ、起きたら聞こえてきたんだよ!」


 アランは苛立つように、前髪を掻き回した。


「思ってますよ、運命だと……」


 その発言に、アランは焦ったように顔を上げる。


「そして、アランにとっても彼女との出逢いは運命だと感じるのでしょう?」


「運命とか、俺に分かるはずないだろ……けど、クレナは守ってやりたいって思える」


「それでいいんじゃないですか? 誰よりも先に自分が守ってあげたいと思える人との出逢い……それを皆誰もが運命と思うのではないでしょうか」


 そこで、アランは気付いてしまった。


「待て待て……話を逸らすな!」


「ええ、逸らしてませんよ。ちゃんと真面目に答えてますよ?」


「俺が言いたいのは……」


 アランは我慢しきれず、振り向きヨンギの肩を掴んだ。自分の方へ向かせると、少し驚いた顔のヨンギと目が合う。


「お前は……クレナが好きなのか?」


 その一言を言っただけで、アランは恥ずかしさに項垂れそうになった。しかし質問された本人は、余裕の表情で笑顔を浮かべている。


「アランの言う好きとは女性として好意を抱いているのか、という意味ですよね?」


「それしかないだろ!」


「なら、その答えは……こいつらを消してからにしませんか?」


「そこは同意」


 気が付けば、周りに100人以上はいるであろう人影がヨンギたちを囲んでいた。不気味な笑い声が微かに聞こえる。武器の放つ光が森の奥で見える。ふたりがまた構えた時だった。どこからともなく大きな剣がヨンギ目掛けて飛んでくるのに気が付く。その刹那、態勢をかえたアランがヨンギの前に移動し、向かってくる剣に刀を振るう。投げられた剣は見事に弾き飛ばされ、近くの木に勢いよく刺さった。


「攻撃確認……規則(ルール)違反だ」


「それはいけません。では、更生の道へ進んでもらわないといけませんね」


 ヨンギの目が一気に鋭くなり、凄まじい早さで銃を撃ち放った。その命中率はかなり高く、次々と悪しき人(マーム)たちを捕らえていく。


「少しは地獄で学んできたらいいですよ」


 ヨンギの挑発に乗った悪しき人(マーム)が、一斉にこちらへ向かって走り出した。


「悪いが浄化させてもらう」


 アランは一気に群れの中央へ向かっていき、姿勢を低くした瞬間に尋常じゃない早さで刀を振るった。気付けば10人以上が彼の周りで倒れ、風とともに消えていく。


「早く終わらせたいんだ。さっさと掛かってこい」


 指で招くアランに、また新たに飛び掛かっていく悪しき人(マーム)たち。ヨンギは銃を放ちながら、微妙に感じる違和感の正体を探っていた。


 ――何かがおかしい。


 こんな人数で襲ってくることは80年以上いるヨンギでもはじめての事だ。まるで、自分たちをここに留めておかなくてはいけない理由があるように感じる。その企みはなんなのかと考えていた最中、ひとつの仮説が浮かび上がった。嫌な予感がヨンギの体中を駆け巡る。


「アラン!」


 ヨンギの呼び声に、アランは目の前の男を勢いよく蹴り倒してから振り返った。


「どうした!?」


「いったん引きましょう!」


「どうして!?」


「これは罠かもしれません!」


 その言葉にアランの瞳が動揺したように揺らぐ。しかし、それに気が付いた瞬間、頭上から無数の矢がヨンギとアラン目掛け降り掛かってきた。


「これはっ!?」


 気付くのが遅く、防ぎようがない。ヨンギとアランはなんとか回避しようと木の近くに避難した。命中はしなかったものの、身体のあちこちを掠めていった場所からは血が滲む。傷痕から白い湯気が立っているのに気が付いたヨンギは緊迫の声を上げた。


「アラン、これに当たってはいけない!」


 痛みで顔を歪ませながら襲いかかってくる連中に刀を振るい続けるアランは、思ってもみない事態を知らされる。


「これは“神の武器(デェウス・テルマ)”です!」


「なんで、こいつらが!?」


 ヨンギの額に冷や汗が流れる。


「これは護衛隊(カンボーイ)しか持つことを許されない武器のはず……ということは」


「まさか、奪われたのか!?」


「気をつけてくださいよ……これに命中すれば僕たちだって更生コースです!」


 一呼吸して、ヨンギはまたも降り注ぐ矢の雨に銃口を向けた。


「こんなところで更生なんて真っ平ごめんですから」


 ヨンギの放つ銃声が森中に木霊した。


「ヨンギ!」


 名前を呼ばれ、はじめて背後に剣を持った男が迫っていたことを知る。ヨンギが舌打ちし、態勢をかえるも、刃は直ぐそこまで迫っていた。

 もう間に合わない。諦めかけた時、なんの音もなく男の剣が何かによって弾かれた。その隙を見逃すことなく、ヨンギの銃弾は男の心臓を貫く。


「ヨンギ!」


 心配して駆け付けてきたアランに、ヨンギは苦笑いを浮かべた。


「危うく成仏するとこでした」


「アホか! それより今の攻撃は?」


「分かりません。味方の援護だと有難いのですが……」


 しかし、辺りを確認する限り、見えるのは自分たちを狙う敵ばかりだ。ふたりはまた武器を構え直した。

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