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最終話『緊張しいな女騎士』

 前回の剣技大会から1年が経つ。


 実は、あれから、副隊長とルセットは周りが認めるほどの仲の良い恋人同士になっていた。そろそろ婚約も近いという話もある。本当にうらやましい限りだ。


 だけど、ふたりの交際が順調なおかげで、副隊長は今年の剣技大会の予選の出場をやめた。去年、すでに、ルセットからの祝福を受けたからだという。


 今年の副隊長のいない予選で勝ち進んでいくのは、あんまり難しいことではなかった。ひとり、ルセットが好きだったはずの騎士はかなりやりにくかったけど、まあ勝ったし。負けた彼は、かなり悔しそうだった。


 そんなこんなで、本戦出場を果たしたわたしは、ついに馬上にいた。絶対に勝ってみせる。そう意気ごんで正面を向くと、「シュテラ」と声がした。


 馬のかたわらに立った団長は騎士服を身に纏い、前髪を後ろに撫でつけて、それはもう格好よかった。幼いわたしが憧れたときのまま、団長は変わらず、団長でいてくれる。


「約束、覚えていてくれたんですね」


 去年、本戦の出場が決まったら、祝福をしてくれるという約束をした。今年は何も言わなかったけど、団長は約束を覚えていてくれたらしい。


「約束だからな」


 何だか恥ずかしそう。今さらだけど、団長には悪いことをしたかもしれない。周りの祝福者は女性ばかりで、男性は団長だけだ。それでも約束を優先してくれた団長の気持ちが嬉しい。


 祝福を受けるために、本戦に向けて練習してきた。あの隊長も嫌々ながら相手をしてくれた。「もし、優勝したら女の子、紹介してくれよ」とか言っていたけど、わたしの方は返事していない。たぶん、紹介しない。


「絶対に優勝しろよ」


「はい」


 祝福の儀式がはじまる。だけど、わたしが団長を抱えあげることはできない。でも、団長は背が高いから、わたしが身をかがめるだけで顔を近づけられる。


 ちょっと照れてきて瞼を伏せると、頬に感じるぬくもり。頭上で歓声が上がった。これをずっと、夢に見ていた。


 ぬくもりが離れて、もう終わりかと思ったら、唇にもしてくる。ここをどこだと思っているのだろう。団長室でのあれやこれも恥ずかしすぎておかしくなりそうなのに、こんな群衆が見ている前でなんて。


「お前なら勝てる」


 そんなに優しく笑いかけられたら、文句を言おうと開きかけた口が止まる。胸がいっぱいになってしまって怒れない。頬も熱くなってくる。


「絶対に勝ちますから」


「ああ」


 それに。


「そ、そしたら、わたしを、あ、あなたの、お、奥さんに、し、してください」


 確か、祝福の儀式で結婚の約束を取りつけるのも多いと聞いた。だから、今がいい機会だと思った。そう思ったのに、団長は長い息を吐く。


「もちろんだ。だが、それはまた改めて俺のほうから申し出る。男としてのけじめだからな」


 団長が受け入れてくれたことがありがたいし、嬉しくて涙が出そうになった。それをやり過ごすように拳を握る。


「団長、見ていてくださいね」


「ああ、見ている」


 団長がわたしを見ていてくれる。それだけで緊張なんてしない。絶対に勝てる。


 わたしは舞台の中央へと勢いよく馬を走らせた。父と約束した、一人前の騎士となるため。そして、憧れの人の奥さんになるために――勝つ。


おわり

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