アルバイトを完遂せよ-19
バルナスがニヤリと笑った。見ているものの精神を凍りつかせるような、冷たい笑みだ。
「どんなハナシが飛び出してくるやら、とても楽しみですね」
冒険者の店の親父は、一切動じた様子を見せなかった。これはこれで、けっこうな面の皮である。
「バルナスさん。貴方、魔術師だね」
そのまま平然と特大の爆弾を投げつけた。
「ほお」
バルナスのプレッシャーが増大した。
「なぜ、そのような戯言を?」
「蛇の道はへびってね」
冒険者の店の親父は平然としていた。
「1点目。あんたら4人は、東門からこの街に入っている。あっちを使うのは、港町から入ってきた渡航者か、パーティーの護衛の冒険者しかいない。あんたらが4人だけでこの街に入ってきたのはウラが取れてる。つまり、渡航者ってことだ」
「ほぉ」
「2点目。他の3人の装備は、それなりに年季が入っているのに、あんたの装備だけ妙に新しい。まるで、この国に入国するに当たり、あわてて新調したみたいだ。普通のパーティーなら、装備の新調は全員同時にするもの。資金的に同時に出来ない場合でも、一部だけでも新調する。それなのに、1人だけ装備を新調する理由は、前の装備のままだといろいろと問題があるからと推測される」
「それで?」
「3点目。薬師のおっさんに売った、新薬の材料とレシピ。あれから、あんたが薬学に明るいことが見えてくる。ついでに、最新版の薬学辞典を持っているらしいことも分かる」
冒険者の店の親父は一つ息をついた。
「以上の3点から考えると、あんたが腕の立つ魔術師だという結論が導き出される」
バルナスは微笑を崩さない。
「証拠としては、いささか不十分では?」
冒険者の店の親父の態度にも、全く変化は見られなかった。
「これだけならな」
「これ以上の証拠が提示できると?」
冒険者の店の親父は初めて笑った。
「冒険者の店の親父の、横の繋がりを舐めてもらっては困る。有名な冒険者の動向は、だいたい共有しているものさ」
「共有、ねぇ」
「そうだよ。賢者の学院で導師やってる、バルナスさん」
バルナスの眼がわずかに開かれた。正面から注視していないと見落としてしまいそうな小さな変化だ。
「船に乗る前に、その装備を新調した店の名前と、買った金額を提示できるといっても、証拠としては不十分かい?」
「あの店は普通の服屋だったと思ったんですが?」
バルナスは小さくため息をついた。
「それだけ目立つナリで、近くにその面子を待たせて買い物してれば、嫌でも印象に残っちまうってことさ」
バルナスは無言で肩をすくめた。
「どうする?」
レイブンが剣の柄に手をかけながら聞いた。