2 文明の往路
雷轟く夏のことでした。また、北からの侵略が来たのです。ただ、このときの相手の軍勢は二百人程度、とても小規模なものでした。一度体験した恐怖を、また体験するなんて、たまったもんじゃありません。村の人たちは、自分たちが使っている農具を使って、馬に乗る侵略者たちを撃退するために、団結しました。
やはり相手は強いものでした。あの研ぎ澄まされた剣によって生まれる悲鳴と恐怖ーーー彼らはもう慣れているのでしょう。無表情、はては笑顔の人までいました。やはり、むごい。誰しもがそう思いました。
しかし今回は違いました。烏合の衆とはいえ、私たち村の人は四千人。圧倒的多数の前では、少数精鋭は無意味でした。彼らは私たちの抵抗意識に危機感を感じたのか、早々と去っていきました。
村を守ることができたーーー実感はあったのです。しかし、喜べることではありませんでした。何せ、犠牲者がいたのです。多少の犠牲はしょうがない。それで逃げようとしたのです。が、犠牲者の家族の慟哭は、天に突き刺さり、私たちの心を動かしました。侵略の後が、とても辛いものでした。
平和なんて私たちの手からは、遠いところにありました。
決心なんて、ただの軽いものでした。
現実は、夢想という淡い要塞を、冷酷な表情を見せて、突き破っていました。
犠牲者の弔いが終わった後、村中の人を集め、会議を始めました。どうすれば、どの国にも脅かされず、平和な暮らしを保ち続けることができるのか。そんな漠然とした内容に、会議が始まってから二時間ほどの間は、ほとんど声を発するものはいませんでした。話しても、今までと同じようなものばかり。農業を営んで、安定した生活を送ろう、山の中で生活しよう、、、口から出てくるのは、馬鹿馬鹿しい話ばかりでした。
神に祈ろう、という意見も出ました。これは、村のみんなも賛成しました。いざ、この案でいこう、というときに、あの”エンペラー”が言葉を発しました。
「もしまた侵略されたら、神のせいにするのか」
私たちにとって、神は絶対的なものでした。全知全能であり、過ちを犯したりすることは絶対にない。”エンペラー”の発言には、誰もが納得してしまうような、冷静なものしかありませんでした。
議論は困難を極めました。誰もどうすればいいかわからなかったのです。なんと、平和はこない、という人まで現れました。みんな反論したかったけど、彼らは正論を言っていました。なので、できなかったのです。
今までの全ての議論が、ただの水の泡のように思えました。結局、私たちの知恵では、どうすることもできない、と思いました。
そして、議論が始まってから、一年が経ちました。




