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未来が見えると勘違いされていますが、全部AI先生のおかげです 〜異世界で私だけが自考型AIを使えるので、今日も相談しながら生きていきます〜  作者: 紅茶伝
3章

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第三十話 金属の正体を調べます


 グレンの工房へ入ると、昨日並べた金属片がそのまま作業台の端に残されていた


 赤みを帯びたもの、黄色っぽいもの、色合いの違う銀灰色のものがいくつかあり、その横には昨日の結果を書き込んだ紙まで置かれている


「残してくれてたんだ」


 結衣が嬉しくなって顔を上げると、グレンは当然だと言いたげに椅子を引いた


 昨日より話が早い


 結衣も向かいへ座り、胸ポケットからスマートフォンを取り出した


「AI先生、今日はこの中から電池に使える金属を探すんだよね」


『はい。最初から元素を完全に特定する必要はありません。まず性質の異なる金属を選び、化学電池として電位差が生じる組み合わせを探す方法があります』


「……亜鉛を絶対に見つけないと駄目なわけじゃない?」


『はい。銅と亜鉛は代表例であり、唯一の組み合わせではありません』


「それ昨日聞きたかった」


『質問されていません』


「そうだけどさ」


 少し不満そうにスマートフォンを見ると、近くにいたグレンが結衣と端末を交互に見た


 結衣は何でもないと笑ってから、作業台の金属へ向き直る


「じゃあ、電池になる組み合わせを探そう」


 問題は、どう試すかだった


 結衣が昨日描いた容器の絵をグレンへ見せ、その中へ液体を入れるような仕草をすると、グレンは少し考えてから奥へ向かった


 戻ってきた時には、小さな陶器の器を持っている


「それ使っていいの?」


 器を指して尋ねると、グレンが頷いた


「ありがとう」


 次は中へ入れる液体だ


「AI先生、水だけじゃ駄目?」


『純水に近いほど電気を通しにくいため、電解質を含む液体の方が適しています』


「塩水?」


『使用できます。ただし、先ほど話した通り電気分解を行う場合には塩素発生の可能性があります。今回の小規模な電池試験でも、不必要に強い電流を流したり、長時間反応させたりすることは避けるべきです』


「じゃあ、塩水じゃない方がいい」


 結衣はすぐ候補から外した


「他は?」


『酸性の液体も利用できます。酢や果汁などが代表例です』


「お酢……」


 少し嫌そうな顔になる


 飲むわけではないと分かっていても、酸っぱい匂いはあまり好きではない


「まあ実験なら我慢する」


 問題は、それをどうグレンへ伝えるかだった


 結衣は口元を指し、酸っぱいものを食べた時のように顔をしかめてから、陶器の器を指した


 グレンが怪訝そうに見る


「酸っぱい液体」


 もう一度顔をしかめる


 それでも伝わらない


 すると横で見ていたレオルが何か言い、グレンと短く言葉を交わした


 グレンが「ああ」とでも言いたげな顔をして棚の奥へ向かう


「レオル分かったの?」


 結衣が振り返ると、レオルは少し得意そうに笑った


「なんか悔しい」


『意思疎通に成功したのであれば有益です』


「それはそうなんだけど」


 ほどなくグレンが戻ってきた


 手には小さな瓶がある


 栓を外した途端、結衣にも分かった


「お酢だ」


 鼻へ届いた匂いに思わず少し顔を背けると、レオルが笑う


「飲まないからね」


 先に言っておいたものの、当然日本語は通じない


 グレンが陶器の器へ少量を注いだ


 結衣は昨日描いた図を見ながら、まず赤みのある金属片を選ぶ


「これを銅候補にしよう」


『便宜上、候補Aとして記録します』


「銅候補でよくない?」


『材質が未確定です』


「じゃあAでいいです」


 もう一方は銀灰色の金属から選ぶ


 結衣が一つ手に取ろうとすると、グレンが別のものを指した


「こっち?」


 頷く


 理由は分からないが、金属を扱っているグレンが選ぶなら試してみる価値はある


「じゃあこれをB」


『記録します』


 二枚の金属を液体へ入れる


 触れ合わないよう少し離して固定すると、見た目には何も起こらなかった


「……これで電気出てるの?」


『外観からは判断できません』


「じゃあ測る」


 昨日の測定器を使う


 結衣が指すより先に、グレンが棚から持ってきた


「ほんと話早くなったね」


 グレンは何を言われたのか分からないまま、器と測定器を見比べている


 ただ、ここで結衣は手を止めた


「AI先生、これ直接繋いで測定器壊れない?」


『今回の簡易電池で生じる電圧は、昨日発生させた放電可能な出力より大幅に低いと推定されます。ただし、測定器の仕様が不明である以上、絶対に安全とは断定できません』


「グレンにも決めてもらおう」


 結衣は器から伸びる二つの金属と測定器を指し、繋ぐような仕草をする


 それから測定器を指して首を傾げた


 グレンは少し考えたあと、自分で端子を接続した


 三人の視線が針へ集まる


 僅かに動いた


「あ」


 結衣が顔を近づける


「動いたよね?」


『はい。初期位置からの変位を確認しました』


「電池できてる?」


『二種類の金属と液体を組み合わせた際に測定器が応答したことは、電気化学的な電位差が生じたという仮説と整合します』


「つまり?」


『簡易的な電池として機能している可能性が高いです』


「できた!」


 結衣がぱっと笑顔になる


 グレンは針と陶器の器を見比べ、今度は自分から金属片の一方を抜いた


 針が戻る


「戻った」


 もう一度入れる


 針が動く


「ちゃんとこれが原因なんだ」


 グレンもそれを確認したかったらしい


 今度は銀灰色のBを別の金属へ交換した


 針の動きが小さくなる


「違う金属だと変わる」


『はい』


 さらに別の金属へ交換する


 今度は先ほどより大きく動いた


「これ、一番大きい」


『候補Dとして記録します』


「もうD?」


『途中の金属をCとして記録しています』


「あ、そういうこと」


 結衣は紙へ自分でも印を残した


 赤いAと銀灰色のD


 今のところ、この組み合わせが一番大きく針を動かしている


 グレンも面白くなったのか、結衣が頼む前に次の金属へ交換した


「待って、順番分かんなくなる」


 結衣が慌てて止めると、グレンが不満そうな顔をする


「記録してから」


 紙を指してみせると意味が伝わり、グレンは手を止めた


 結果を書き終えてから次へ進む


 何度か繰り返すうちに、結衣が指示しなくてもグレンが測定後に待つようになった


「ちょっと慣れてきた」


『共同作業の手順が形成されつつあります』


「そういう言い方すると仕事みたい」


『実際に共同で試験を行っています』


「まあ、そうだけど」


 結衣は笑いながら最後の結果を書き込んだ


 全部でいくつか試した中では、AとDの組み合わせが最も大きく針を動かした


「じゃあ、この二つで電池を何個か作る?」


『その前に再現性を確認することを推奨します』


「同じのをもう一回?」


『はい。同じ材料と液体を使用して、近い指針位置になるか確認してください』


「なるほど」


 同じ組み合わせでも毎回違うなら、基準には使えない


 結衣がもう一つ器を求めるように身振りをすると、グレンはすぐ二つ目を出してくれた


 同じ液体を入れ、AとDを差し込む


 測定器へ繋ぐ


 針が動いた


 最初の位置とほぼ同じところで止まる


「近い」


『はい。ただし目視による比較であり、精密な一致は確認できません』


「今はこれでいい」


 結衣は二つの器を並べた


 見た目はただ、金属片の刺さった小さな器が二つあるだけだ


 けれど、どちらも電気を生み出しているらしい


「じゃあ次」


 結衣の声が少し弾む


「二個繋いでみよう」


 AI先生に直列の繋ぎ方を確認しながら、結衣は紙へ図を描いた


 一つ目の片側を二つ目の反対側へ繋ぎ、残った両端を測定器へ持っていく


 グレンも図を覗き込み、接続を手伝う


「これで合ってる?」


『映像上、直列接続になっています』


「じゃあ測るよ」


 グレンが端子を繋いだ


 針が動く


 さっきより明らかに大きい


「おお……!」


 結衣が身を乗り出す


 一個の時より先まで進んでいる


「AI先生、倍?」


『目盛りを正確に読み取れないため、厳密な二倍とは断定できません。ただし、一個の場合より大きな変位を確認しています』


「でも増えた」


『はい』


 結衣は嬉しそうにグレンを見る


 グレンも針を指し、次に二つの器を指した


 同じことに気づいている


「通じてる」


 今度は言葉を使わなくても、二人同時に頷いた


 その様子を見ていたレオルが何か言う


 結衣には分からなかったが、グレンが少し得意そうな顔をしたので、おそらく悪いことではない


「じゃあ三個にしたらもっと動く?」


『理論上は、同方向に直列接続した各セルの電圧が加算されます』


「やってみたい」


 結衣が三本指を立てると、グレンもすぐ意味を理解した


 ところが三つ目の器を取りに行こうとしたところで、工房の入口から声が飛んできた


 グレンが振り返る


 知らない男が立っていた


 仕事用らしい服を着た男で、何か金属部品を手にしている


 グレンは短く返事をすると、作業台から離れた


「あ、お客さん?」


『その可能性があります』


 男はグレンへ部品を渡し、何かを説明し始めた


 グレンの表情が一気に職人のものへ変わる


 結衣は二つの器を見てから、静かに椅子を引いた


「邪魔しない方がいいね」


『はい』


 ここはグレンの仕事場だ


 自分の実験だけを優先してもらえる場所ではない


 昨日、グレンが協力してくれることを嬉しく思ったからこそ、それを当然にはしたくなかった


 結衣は紙と器を作業台の端へ寄せ、邪魔にならない場所へ移動した


 レオルも壁際へ下がる


 男とグレンの話はしばらく続いた


 結衣は何となく聞いていたものの、まだ知らない単語が多く、内容までは分からない


 やがてグレンが部品を持って工房の奥へ向かう


「時間かかりそう?」


『判断できません』


「じゃあ、待ってる間にできることやろう」


 結衣はスマートフォンを取り出した


 さっき試した金属の組み合わせと針の動きを整理しておきたい


 紙を見ながらAI先生へ確認していると、レオルが近づいてきた


 彼は二つの器を覗き込み、それから結衣を見る


「これ?」


 結衣が器を指す


「電気」


 現地語でまだ説明できない


 そこで発電装置を指し、昨日火花が出た時のように指先を動かしてから、今度は器を指した


 レオルの眉が上がる


「そう。同じ……だと思う」


『少なくとも、どちらも電気的現象として説明できます』


 レオルは器をもう一度見る


 マナリスは入っていない


 魔方陣らしいものもない


 ただ液体と二種類の金属があるだけだ


 それが気になるらしい


「不思議だよね」


 結衣も同じ気持ちだった


 地球では学校の実験で済むものが、この世界では見たことのない仕組みなのかもしれない


 レオルが金属へ触れようとしたので、結衣は慌てて手を伸ばした


「待って」


 その手首を掴む寸前で止まり、代わりに器を指して首を横へ振る


 今回の小さな電池なら危険性は低いだろうが、実験中のものへ不用意に触れる習慣をつけたくない


 レオルは素直に手を引いた


「ごめん。でも、これからもっと強くするから」


 もちろん言葉は通じない


 それでも三本指を立て、器を増やすように示すと、レオルは少し理解したらしく頷いた


 その時、工房の奥から金属を叩く音が響いた


 結衣はそちらを見てから、作業台へ戻した視線を紙の上で止める


 一つなら針が動く


 二つならもっと動く


 同じ組み合わせなら、似た位置まで針が動く


 少なくとも昨日より、測るための足場はできている


 けれど、結衣が本当に欲しいのは、針が動いたという結果だけではない


「AI先生」


『はい』


「この電池が何ボルトくらいかって、使った金属が分かれば計算できる?」


『金属の組み合わせ、電解質、温度などの条件が分かれば理論値を推定できます。ただし、実際の端子電圧とは差が生じます』


「じゃあやっぱり、このAとDが何なのか知りたい」


『はい。材質を特定できれば、基準としての信頼性を高められます』


 結衣はAと書いた赤い金属と、Dとした銀灰色の金属を見比べた


 電池はできた


 次は、その電池の正体を知らなければならない


 そこまで考えたところで、奥からグレンが戻ってきた


 依頼された部品を男へ見せ、何か確認を取ってから渡している


 男が硬貨を支払い、工房を出ていく


 結衣はその一連のやり取りを見て、ふと自分の財布代わりの包みへ視線を落とした


 グレンは仕事をして、お金を受け取っている


 当たり前のことなのに、昨日は自分の実験へ夢中で、その時間をかなり使わせてしまった


 グレンが戻ってくると、結衣はすぐ実験を再開しなかった


「グレン」


 名前を呼び、昨日と同じように硬貨を一枚取り出す


 今度は作業台だけではなく、グレンがさっき仕事をしていた場所を指し、それから自分たちの実験を指した


「仕事の時間、使ってるよね」


 グレンが結衣を見る


 硬貨を見る


 昨日と同じように押し返そうとした


 けれど結衣は今回は手を引かなかった


「だめ」


 少し眉を寄せて、もう一度差し出す


 色仕掛けでも、泣いて頼むわけでもない


 ただ、自分のお願いで誰かの仕事を止めているなら、その分は払いたかった


 グレンはしばらく結衣の顔を見ていた


 やがて大きく息を吐く


 硬貨を受け取った


「あ」


 結衣の表情がすぐ明るくなる


「受け取ってくれた」


 ところがグレンは、その硬貨を自分の懐へ入れなかった


 作業台の端へ置き、何か言いながら金属片を指した


「……材料代?」


『発話内容はまだ十分に解析できません。ただし、硬貨と材料を関連づけている可能性があります』


「じゃあ、それでいい」


 結衣は嬉しそうに頷いた


 何の対価なのかまではまだ分からない


 それでも、ただ好意に甘えているだけではなくなった


 グレンも作業台へ戻り、二つ並んだ器を見る


 結衣が三本指を立てると、今度はすぐ三つ目の器を持ってきた


「続きやってくれるんだ」


 結衣も椅子へ座り直す


 三つ目の簡易電池を作り、同じ向きで繋いでいく


 グレンが測定器へ接続した


 針がさらに進んだ


「やっぱり増えた」


 結衣は紙へ結果を書き込みながら、今度はすぐ喜ぶだけでは終わらなかった


 一つ、二つ、三つと増やすたびに針がどう動いたかを見比べる


 完全に同じ幅ではない


 それでも、おおよその関係は見えてきている


「AI先生、これなら使えそう?」


『基準候補として前進しています。ただし、AとDの材質を特定し、この電池が生じる電圧を推定する必要があります』


「うん」


 結衣は赤いAを指先で示し、次に銀灰色のDを見る


「次は、この二つの名前を調べよう」


 グレンも二つの金属へ視線を落とす


 そして何かを思い出したように、工房の外を指した


「外?」


 グレンはDの金属片を持ち上げ、もう一度外を指す


 続いて誰かを示すような身振りをした


 結衣は少し考えたあと、目を瞬かせた


「この金属のことを知ってる人がいる?」


『その可能性があります』


 グレンはDを布へ包み、立ち上がった


 どうやら今度は、工房の中だけで答えを探すつもりではないらしい


 結衣も慌ててスマートフォンを胸ポケットへ戻し、椅子から立った


「行くの?」


 グレンが頷く


 レオルも壁から離れる


 結衣は作業台に残った三つの小さな電池と、昨日作った発電装置を一度振り返った


 スマートフォンへ繋げるには、まだ遠い


 それでも今日は、液体と二種類の金属だけで針を動かし、数を増やせばその動きも大きくなるところまで確かめられた


 そして次に調べるものも、もう目の前にある


「よし」


 結衣はグレンが持つ銀灰色の金属片を見て、少し楽しそうに笑った


「今度は、この子の正体を調べに行こう」


『金属に性別は確認されていません』


「そういう意味じゃないってば」


 工房を出かけたグレンが、振り返って二人を見る


 結衣は慌ててその後を追いながら、胸ポケットのスマートフォンへ小声で文句を続けた

ここまで読んでくださって本当にありがとうございます!

もしよかったら感想などいただけると、とっても嬉しいです…!

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― 新着の感想 ―
すごく面白いです この世界の人たちはみんな優しくて協力的で感激ですね 続き楽しみに待っています
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