04母が御涙頂戴みたいに涙を流し出す。それは無理すぎる。妊娠期間ちょっと言ってみてごらん?
祖父の調べにより潜り込ませた者からの報告が寄せられて、ケミティも読む。そこには娘は大怪我をして、他国の病院に送ったと言っているのだと囁いているのだと、書いてある。
やっぱりねとしか言えない。ずっと入院させる予定の言い方だ。そこに行きたいと言ったらどうするのだろうか?
「いつまでも隠し通せるわけがないのに」
祖父が言うけれど、思わず笑ってしまう。
「甘いですね。私がある程度大きくなったら、娘を騙る偽者、または成り代わるために殺した犯人として殺そうとしてきますよ?」
「はぁ!?」
祖父がそんなバカなと言いかけたが、意味のわからない言葉で幼い娘を家から容赦なく追い出した実行犯だと思い出したのか、固まる。
「私が現れても言い訳なんて何通りも考えているから簡単に追い出すことができたのでしょうね」
「私が孫と認めているのにか?」
「そんなの、あなたがもうろくしたと言えばいい。孫が死んだことで成り代わりを用意した、なんてことを言い出すでしょうね?ほら、完璧でしょ?」
「完璧ではない……」
「どう転んでもあの人が当主なのは変わらないんですよ。おじいさまだって、いつまでもしっかりし続けているわけでもない。先に死ぬのは親です。私にも言えますがねえ……でも、おじいさまが死んだらわたしは平民の子ども。証明方法なんてどこにもありはしません」
「お前は私たちの養子にしたのだ」
「その程度でどうにかなるといいですね。あれは人じゃないんですよ。モンスターと言えます。思考が破綻している」
祖父の爵位を継げば生活には困らないけれど。実父は二度と娘と認める気はないだろう。関わらないでいきたい。
プネラスと出かけたりして、数ヶ月を過ごすとさらに驚くべき事態にまで進行しつつあった。
「え?に、妊娠!?」
母が妊娠したらしい。
「あやつめ!娘を捨てたばかりのくせに!子供を持つ資格をなくした獣の分際で!」
「お婆様はどんな顔で聞いたのか」
娘が好きすぎるにしても、倫理観に恐れ慄いているに違いない。女の子なら第二の己になる。まずそれは確実。男の子なら、だめだ、わからない。
実父が男の子が欲しかったのかと思っているところもあるので、男の子だったら捨てられない可能性もワンチャンスあるかな?
と思っていた時期もあったよね〜。
「え、捕まえた?」
「山に赤子を捨てようとしていた現行犯でな。ふんっ!」
話をもっと深掘りしていくと、父は母が子どもを産んで寝ている最中に山にこっそり、捨てに行ったらしい。見張っていた祖父の手の者が現行犯で取り押さえて、言い訳などできないように映像も撮ったとか。
取り押さえたので跡取りのはずの長男の男の子は無事なんだそう。本当に子ども自体、いらなかったのだなと謎は一応解けた。男の子が欲しかったわけでも、女の子だから捨てたのでもなかったみたい。
母だけいればよかった。爵位も継承する気はさらさらなかったというわけか。
下手に、いとこやら系譜を引き取る話が周りから出て、周りの圧力に耐えられなくなった母を見た父が仕方なく養子にしても、いずれ変死していた可能性が極めて高い。
実父は狡猾に見えるが三人も連続して亡くなれば、監査が入るので白日の下に晒されていたか怪しいとシロとも言えない、クロ扱いを受けていただろう。
乳幼児と幼児が亡くなったり療養していることを誤魔化せても、ある程度大きい子供が相次いで亡くなってしまうと確実に疑われてしまう。
本当に知れ渡るのも、何年かかるのかわからない。しかし、自分が実質本物のケミティということは少なくとも周りからも気付き始めて、母もそれを知って会いに来るだろう。
そうなると己を邪魔に思う父が二人の世界を無くさないために娘を殺しに来るだろうことも予期できる。やはり、早めに摘むのが良さそう。
「と、言うわけで。お分かりになりましたか?」
今までの推理を語ると祖父は固まって微動だにしない。
「天才だったのか?」
「天才ではなく努力によるものです」
努力だ。転生したことは積み重ねて年齢をゼロスタートにしただけ。それだけなのに、周りは天才扱いしてくる。されたくないので控えめにしてみても、これだ。
「私のことはいいので。母のこと、父のことについて教えてください」
続きを催促すると、祖父は慌てて報告書を見せてくる。
「母は一応保護されると?あー、ここに来るのですか?」
祖父のことを見ると頷く。どうやら実家に戻されることになるみたい。一緒に住みたくないなと思った。
「家に帰ってくるのは当然だ。もう婚家がないのだから」
「おばあさまもですよね?私に謝ってもらわないと」
「うむ」
祖父も母しか心配せずに、のうのうと弟を作らせたことにすっぱい気持ちなのだろう。弟を作らせるのは無理でも、孫について言及することくらいはできたろうに。
ずーっとただただ、傍に居ただけ?本当になんのために祖父が送り込んだのか、一ミリも理解しなかったみたい。
「ケミティ!」
遂に母が帰ってきて娘と感動の再会の抱擁をしようと近づいてきた。もちろん避ける。当たり前だ。気持ち悪い。
「え?え、どうしたの」
目を丸くする経産婦。
「触らないで」
「っえ、そんな」
なんだろうか、その信じられないことを言われたとでも言う顔は。
「あの男にたくさん触れた手で。汚い」
死んでもいいと思われた男と再び、子をもうけたことをそろそろ恥ずかしく思い始めてもいいんじゃないか?
その前に娘がいたことを思い出して子どもはあまり考えられないと思い詰めて、拒否してもよさそうなのにポコポコ産むなと思った。
呑気に捨てられる可能性すら、知らず産んで捨てられそうになって。どれだけやらかせば気が済むのか。娘がいなくなって少しは怪訝に思えば、いくらでも粗があったはずなのに。ちっとも考えず二人目?
「わ、私は、ずっと騙されていたの。お母さんは……」
母が御涙頂戴みたいに涙を流し出す。
「安い涙を娘に見せないで。親のくせに」
「なっ、そんな言い方!」
「泣かないで。大人なんだから我慢できるよね?できないの?」
「お母さんだって、苦しかったの」
「いや、直前までグースカ寝てたのに苦しい期間ほとんどなくない?」
思わずいつもの調子で言う。母ははくはくと口を動かして、言葉がなにも出ない様子で笑える。




