05あなたに手を出せないから母で憂さ晴らししますね?なんて言ったら父は鉄格子越しでやめろと喚く
長女が夫の嘘であれ病院に送り込まれてしまうほどの病を得ている中で二人目の子供を作ることがそもそも信じられない。
手紙を送ったらしいが、存在しないので返事はない。そのことに、不審にすら思わないアホさ加減。騙すのは一番容易い。
「て、手紙を書いたわ」
「赤ん坊が生まれるのは何日目なの?一年目だよね?それまでに会いに来ないの?妊婦になる前は普通だよね?生まれたあとは?歩けるよね?手紙が一年以上、一年以上話してないことに不思議に思わないところが心配してるなんて台詞嘘ってわかる。おばあさまには赤ん坊のことしか語らなかったって聞いてるんだからね?」
「あ……違うの」
こんなにたくさん話さなかったからびっくりだけど、こっちも成長してるってことで誤魔化せるだろう。
「一年以上声も姿も見てない。会いに来ない。話題に出さない。病弱な娘にはもう用はないって思ったんだよね?お母様」
「そんなわけないわ」
「いやいい。私もお母様なんていらないから。おあいこ」
もうなにも言えなくなる母を無視する。家であっても他人のふり。実父は実の子供を二人、手にかけた容疑で殺人未遂により捕まってそのまま牢屋行き。母は実感がないようで会いに行っている。親の資格はやはりなさそう。割り切ったのでもういいけどね。
ケミティも父をおちょくるために会いに行った。壁越しならばいくらでも好きに挑発したり、怒らせたりできる。この世界はそこまで洗練されてないので、弁護士によって免れることはない。囚人をからかっても叱られず、邪魔されない。
「お父様、会いにきてあげましたよ」
無理矢理相手を座らせる向こう側から、真っ赤な顔をした漢が睨みつけてくる。怖くない。
「お前っ」
「お前……!ふふ!まだ家族とでも思ってるんですか?だめですよ?もう他人なのでそんなに馴れ馴れしくしちゃ。ね?」
怒ろうとしているが、この男とはすでに縁が切れており事実上家族でもなんでもない。正式的には血縁関係のある知り合いだ。
「子供のくせにっ。父親をあざ笑いに来たのか!?」
「はい」
「は、はい……!?」
まさか頷かれると思っていなかった、間抜けな顔をする向こう側。思わず笑った。逆に嘲笑いに来ない理由は、ないのでは?復讐しに来ない理由が全くないというのに、変なの。
「バカにして、人間の尊厳を削ぎに来ました」
「なっ、な、なにを」
わなわなと震える大の男を冷たい目で見つめる。
「私がされたことをするだけなので仕返しというより、真似って言った方が正しいのかな?じゃあ、父親の真似をしていきたいと思います」
母が事故に遭って以来、やったことを徐々に思い出している中、白い顔になって冷や汗をダラダラし始める元当主。幼児に何をやらかしたか今になって、身をもってして体験することに恐怖を感じていると思われる。
「まずは、無視。でも、これはここじゃあ意味をなさないので……看守さんたちへお祖父様が指示してくれたのでこのあと、やってくれるらしいです」
この後、父は徹底的に看守たちに無視される生活を送る。罰の一環で提案したら通してくれるってさ。流石、緩い。元父は何を言っているのかピンと来てないだけなので、何も反応はないけれど無視は今後少しずつ精神を蝕むだろう。
「お金も持たせず外に追放。小さい子供を捨てる。定期的にあなたの私物を焼くようにしてるんだそうです」
「は」
父の私物には母の写真や手紙が大切にされており、よく眺めているとかなんとか。気持ち悪い。
「あと、母は死にました」
「っ!な、え、は」
「ああ、間違えてしまった。余命一年なんですよ。なんでも子供を二人産んだから体に負担がかかってしまったからとか」
「余命?薬はっ」
「……さぁ?手紙でも書いてあげればいいのでは?届くことはないですけど。だって、送られる病院の場所は嘘を言っておくので」
「なぜそんな酷い真似をっ。ま、さか」
病院を伝えないということを言うと、詰られるが娘を捨てたことを怪我をしただとか病が発症したなどと、二枚舌を駆使して誤魔化した男への当てつけだと気付いた顔色になる。うん、理解したようだ。
「どうです?最高ですよね。あなたにはもう正確な情報は届かないでしょう」
「お前は彼女の娘だろうっ。情というものがないのか!」
「情?情を育てる時間を母親から奪っておいて、なにを言うかと思えば。私は捨てられた後、ちょっとは探しに来てくれるかなと期待してみたんですけど、探しに来なかったんですよね〜」
おちょくる声音で笑う。男は首を振って違うと叫ぶ。
「私がお前は元気にしていると言ったのだ!妻は悪くない!」
「悪いのはあなたですね!そんな当たり前のこと言わないでくださいよもう……私からしたらあなたと母は同じ罪の重さで。あなたに手を出せないから母で憂さ晴らししますね?あなたの大切な妻を鞭打ちとか?もしかしたら貸し出しとか。貴族の元妻って人気ありそう!」
「貸し出し!?や、やめろ!やめろおおおお!!」
暴れ出してしまったので見張りが父を殴って静かにさせる。
「母親だ!母親をっ、母親に手を出すなど!」
「母親母親うるさい。母親なんて役割を私から取り上げたくて仕方なかったくせに……家族の情にすがるにはあなたからして偽物なんで響いてきません」
にっこり笑って男に向かって囁く。
「母が稼いだお金を使ってあなたになにか差し入れしてあげますよ。よければ晩年には母ごと差し入れてもいいですよ」
止めをさされた男は叫んでいた声を止めて壁に背中をつけたまま、ずるりと滑り落ちていく。力が抜けたのだな。
立ち上がると看守に終了を告げて去った。外に出ると祖父が立っていた。
「話せたか」
「はい。お祖父様」
「そうか」
母は別にどうこうなってない。単に現在、お見合いした再婚相手に夢中になっている。恋愛脳なだけあって、あっさり夫に見切りを付けて次に行った。母にお咎めがないのかとなるが、多分そうはならない。
子供を二人産んだ体は本当に負担になったらしくもう子供を望めない。祖父はそれを再婚相手の男に言わないまま、母の再婚を許した。
再婚相手にも子供がいるので後継ぎには困らないし、迷惑をかけることもない。けれど、再婚相手の子供たちは将来母を疎むだろう。
「さて、行こう」
「はい」
母は気付いてないけど、再婚相手の子供たちは母を見て納得してない顔をしていたから。顔合わせでケミティも気付いていたが、母は鈍感ゆえに気づかない。
母は世間的には被害者だから、再婚相手を見つけられた。
けれど、次代の子どもはその事件に偏見を持って聞くだろう。それに母の頭の悪さに真実を薄ら察する。単に周りを把握することをしなかっただけと。ただでさえ、再婚の義理の母親という相容れない相手の性格。
好きになるわけがない。産んだ娘、息子にも全く会いに行ってないと知ったら、年頃の子供からしたら犯罪者を見る目になる。あの時期は潔癖が強く出るんだよね。
「プネラスくんとは本当に進めてもいいのか?」
「お願いします。私はあの人たちが好きですから」
プネラスのことを切り出す祖父。プネラスの家からうちに婚約が打診された。打診を受けるかと最近はその話題が多い。
家に戻るとプネラスと友人の妹が来ていた。
「ケミティ!」
「チェロリィ!来てくれてありがとう」
「ううん。うちに嫁入りするか、兄さんが婿入りするかはまだわからないけど、家族になるんだから、もっと会って親睦を深めないとねっ」
チェロリィが笑う。プネラスは見守るようにこちらを見ている。
「ケーキをあーんとかして、私とプネラス様の仲を割く小説のシーンでもやる?」
「ええー、お兄様にアーンとか虫唾が走るわ!イヤッ」
「おい、おれも嫌だが。それはそれでムカつくぞ?」
兄妹仲が良くて笑みが浮かぶ。
「お兄様よりケミティにアーンとするわ!」
「立場が逆になるだろ」
プネラスが苦笑した。
「ケミティ、お二人とカフェにでも行ってきなさい」
祖父が嬉しそうにこちらを見ていた。その際、向こうのドアからはしばみ色のドレスが見える。祖母だ。
自分の家なので戻って来たはいいが母はさっさと再婚して、我先に後先考えずに母だけを世話しに孫を放置して。いないことにしたような母への世話をしたことにより、祖父も思うことがあったのか厳しい態度で迎え入れた。
孫ではなく、母を援護して何事かと怒っていたので肩身が狭いらしい。
「三人で行こう」
祖父に返事をした三人は外へ向かう。すれ違った祖母は俯いて見送る。
「ケミティ、段差に気をつけるんだぞ」
「あ、お兄様ったらもう婚約者ぶって。そこは親友の私の役目ね」
チェロリィに腕を組まれて、プネラスに転ばないように手を掴まれた。幸せな体温にどちらの手にもギュッと力を入れて足を一歩、踏み込んだ。
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