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第八十一話  ギルド・トーナメント② 『盾使いと治療術師』    

〈え、えーっ!?〉


 司会の二人に告げられた次の試合ペアを知り、メアが驚く。


 ギルド主催の、大トーナメント。その次試合、組み合わせは同じパーティのマルコとテレジアだ。

 いきなりの展開に、選手控室に戻るなりメアは困惑の表情を見せる。


〈つ、次、テレジアとマルコがやるの? だだ、大丈夫?〉


 苦笑して答えるのは当のテレジアとマルコだ。


「そうみたいね……どうやら勝負の神様って、相当の悪戯好きみたい」

「確かにね。身内同士の対決だけど、まあ頑張るよ。僕なりに全力を」


 別に実戦ではないため、二人とも気楽だ。

 ただ、こんなところで当たるのは不本意だろう。出来れば当たりたくなかったという本音が垣間見えたが、二人にはメアを案じる響きがあった。


「大丈夫よ。単なる催しだもの、精一杯、楽しんでくるわ」

「そうそう。メアさんように派手にとはいかなくとも、やってみるから」

〈二人とも……うん、わかった。じゃあ頑張ってきてね。二人で、大会を盛り上げて!〉


 メアは笑顔で二人を送り出した。

 闘技場はすでに大盛り上がりだった。

 


『さあ! 盛り上がってまいりましたっ! 続く対戦カードは――ボルコス伯爵家の『元戦士』マルコ選手と、テレジア選手です!』

『ボルコス伯爵家は、有名な貴族だよね。傭兵、兵士、騎士見習い……様々な人材を集め教育する貴族で有名。その経歴は華々しく、かの有名なランクゴールド、《漆黒剣》のライザ・メルードや、《灼王》のキーラ・バッグファーンを排出した名門貴族。その名に漏れず、マルコ選手とテレジア選手も優秀。先日の『青魔石事変』では大活躍しました』

『『青魔石事変』では、首謀者を倒すのに一役買ったとして大健闘。今、リゲルさんに続いて大注目の両名です』


 解説が終わった途端、観衆席から応援が沸き起こる。


「「テレジアさん! テレジアさん!」」


 主に男衆からの声援が多かった。

 テレジアは可憐な容姿の少女。金髪に怜悧な瞳。その気高い白鳥のような雰囲気もあって、華麗だ。観衆が湧くのも当然だろう。


『これは凄まじい歓迎! ……お二人は基本的には支援が得意ですが、その実力は高く、ランク黒銀相当の力を持つらしいですね。優勝候補の五角を打ち崩すダークホース! メアさんに劣らぬ好勝負が期待されます!』

『まあ、惜しむべくは元ボルコス伯爵家同士の対決ってことだよね~。どっちもダークホースだけど、それが初戦で当たっちゃうとか。正直、勝負の神様も意地悪だよね。まあ、そこがトーナメントの醍醐味って言えばそうかもだけど』

『そうですね! しかしながら、マルコ選手もテレジア選手も、高実力者ゆえに名勝負が期待出来るでしょう! マルコ選手は、高位盾使い(ハイシールダー)』として名を馳せる前衛戦士! 方やテレジア選手はハイヒーラーにして攻撃もお手の物な戦乙女! メイスを使って相手を撲殺姿は、なかなか派手とギルドでは好評です!』


 すでに観衆席は甲高い声援でいっぱいだ。

  そしてマルコも、優男だが柔和な顔つきの好少年だ。華やかな見た目の二人に、観衆が湧くのも当然だろう。


『さあさ、では第一回戦、第四試合――』


 司会のイータが場をさらに盛り上げ、そして――。


 

 数分後。


『おおっとぉ!? ここに来てマルコ選手、テレジア選手、共に不動―っ! 最初、数度だけ打ち合って、そのまま静止状態! どうなっているのでしょうか!?』

『うわ、互いに一歩も動かず視線だけを交わす――まるで英傑同士の対決だね。これが俗に言う『達人同士の対決』ってやつかな? お互いの隙を見計らい、戦闘を考察し合う超高等光景。実力が高次元、かつ伯仲だからこその光景だね。一撃で命運が決まる――だから二人とも、好機のタイミングを図ってるみたい』

『マルコ選手、テレジア選手、両名とも微動だにしない! 観衆共々、目が離せません!』


 司会の二人が言う通り――マルコとテレジアは微動だにせず互いを注視していた。


 マルコは短剣と大盾を構え、佇立して。

 テレジアもメイスを構え、泰然としたまま立ち尽くす。

 互いに一瞬も目を逸らさず、挙動の一つも見逃さぬ、凝視の時間。

 見ている方が空恐ろしくなる程の、真剣な眼差しだった。


 緊迫した空気。静謐な空気に飛び交う――見えぬマルコとテレジアの闘志と気概。


 ――どっちだ、どちらが勝つ?

 ―― 一瞬だ、勝負は一瞬で決まる。

 否が応でも高まる期待。集まる視線。

 数千を超える眼差しを受け、そしてマルコとテレジアは――。


 

「(う、動けない……っ)」

「(まずいわ、隙がない)」


 

 マルコもテレジアも互いに攻めあぐねていた。


 元々、二人とも『盾使い』に『治療術師』である。

 つまり、相手に致命打を追わず攻撃法はほとんんどなく、必殺技と言えるものも一つを除いてない。

 だからこその膠着状態。


 もちろん、ボルコス伯爵家では一通りの戦闘術を会得していた。けれど相手も同じ伯爵の元戦士ならば、手の内を知っているのも当然だった。

 結果、両者ともに攻める機会をつかめず、睨み合う程度に収まっている。


 ――今はまだいい。けれどこのまま時間だけが過ぎたなら、観客はどう思うだろう?

 ――きっと失望して、落胆して、ブーイングが飛び交うに違いない。


 そんな事はなるべくなら起こしたくない。せっかくメアや他の選手たちが高めてくれた熱気なのだ、それを覚ます事だけはしたくない。


『おおっと!? ここでマルコ選手、動いたぁ! 速い、速い、猛速度です!』


 マルコが出し抜けに走る。短剣を三発、テレジアに投げ放つ。

 鋭利な光を帯びて飛ぶそれをそれをテレジアはしゃがんで回避。


 メイス、足払い、左手の突きで応戦する。

 それをマルコは巧みに大盾と短剣でさばいていく。

 互いに身体能力だけを以て行う近距離戦だ。

 マルコもテレジアも攻め手にかけるのだからこうなるのは必至だろう。けれどそれは当人たちの思わぬ形で白熱する。

 レベルが、技術が、優れているためだ。

 当然だが、マルコもテレジアも元ボルコス伯爵家の戦士。

 不良品扱いされたとは言え、一定以上の実力なのは間違いない。


 それは―― 一流には届かないかもしれない。

 ましてや、超一流には遠く及ばないだろう。

 それでも――常人が憧れ、ため息をつく程度の技量は、有していた。


『速い、速い、速い! マルコ選手とテレジア選手、猛攻の嵐です! 斬撃、刺突、薙ぎ払い! これまでの試合が、魔術を主体とした大規模戦闘に対して、これは達人の技巧! 力と力、技と技がぶつかる試合となりましたーっ!』

『マルコ選手、盾持ちでもいい速度で動いてるよね。あの脚さばき、短剣術はそう真似出来ない。小さいけど補助魔術もいくつか使ってるね。うわ、あそこでまた支援魔術?』

『対してテレジア選手! メイス一閃! ひたすらメイスを使っての猛攻です! 加えて回復術、防護術――両方を交えての連撃は強い! 硬い、速いの三拍子! 可憐な選手が織りなす流麗な戦闘は、見事過ぎるーっ!』


 テレジアの貼った光の防護盾がマルコの短剣を弾く。

 その激突した火花が空を染め上げ、さらなる短剣の投擲と、テレジアのメイスがぶつかり合う。

 火花がより弾ける。テレジアは多少の傷なら、回復して突っ込む事が出来る。


 そしてマルコは大盾で突進も出来る前衛。。

 結果、近接戦闘でありながら傷を恐れぬ狂戦士バーサーカーめいた戦闘は、激しい火花の押収となり、派手、かつそして流麗な光景を演出する事に成功していた。


「やるね、テレジア……っ」

「……っ、マルコも、ねっ!」


 マルコが短剣を抜き放ち疾走し。

 テレジアがメイスを盾に突貫する。

 派手な魔術こそない。派手な宝具もない。

 けれど卓越した基礎と基礎のぶつかり合いが、絡み合い、ぶつかり合い、衝突し――見る者の目を覚まさせるような戦闘へと昇華させていった。

 達人の技量は、ただそれだけで常人を魅了する。

 特別なものなど何一ついらない。

 全ては日頃の研鑽した技が自分に応えてくれる。

 短剣と、メイス。

 防護盾と、大盾。

 互いの武器や防具魔術が、ぶつかり合う様は、まさに閃光の如く。


「はあ、はあ……っ」

「もう、少しで……っ」


 けれど、どれほど卓越した技量でもいつかは限界が訪れる。

 比肩した実力同士の戦闘は、お互いの消耗を促していた。

 たった十分のぶつかり合いで、異常なほどの疲れが互いを支配する。


『おおっと! ここでマルコ選手、テレジア選手、止まりましたーっ、そして高まる魔術の気配! ここで大技が来るのかー!?』

『技巧派の選手が立ち止まって魔力を練る理由は一つ。――来るんだね、両者の必殺技が。文字通り、全てを終わらせる瞬間が……!』


 然り。――次こそがマルコとテレジアの最大の奥義だ。

 支援役として培った二人が、唯一持つ制圧力に長けた絶技。


 だからこそ使えるのは一発。魔力の大半を使う。外れれば負け。当たれ勝ち――そんな、単純にして至高の瞬間が今、訪れる。


 マルコの周囲に色濃い魔力が濃縮し――。

 テレジアの周りに、怜悧な魔力が乱舞して。

 そして観衆の期待が最大限に高まった瞬間――。


『エスパーダ・オブ・グローリアス!』

『レイン・オブ・フリーズン!』


 マルコの、テレジアの、圧縮された魔力が。

 互いの大盾とメイスに――暴力的なまでに吸い込まれ、そして。

 


 ――その瞬間、ふわりと。風が舞った。


 

 その風は、魔力の高まりで生まれた偶発的な産物で、二人とも予期していなかった。

 予期していなかった風。そのために、片方の――テレジアの短いスカートの端が、ひらりと舞った。


 ――ちなみにだが、テレジアはレストール家の使用人服の『スカート着用』である。

 つまり、動きやすい服装だった。


 しかし、試合の中で、幾度もマルコの短剣を受けたスカート。すでにぼろぼろで、結果的にミニスカートになっていた。

 つまりそんな状態で、風が舞ったらどうなるか?

 答えは、次の瞬間、マルコと観衆の視界に飛び込んできたものが物語る。


 

「……あ。白の紐パンだ」


 

 ぐしゃあああああああああ、と。

 次の瞬間、マルコは場外に吹っ飛んだ。


 テレジアが恥ずかしさのあまり、全力で奥義を発動させたせいである。

 下着に見惚れて必殺技を打つのを忘却していたマルコは買わせるわけがない。


 結果、マルコは場外で一発負けとなった。


『しゅ、終了――っ!? マルコ選手、一瞬で沈んでしまったー!? 命運を分けたのはテレジア選手のパンツ! パンツ! ……じゃなくて、ええとテレジア選手の奥義――っ! ……いやあ、すごかったですね! テレジア選手、凄いですね!』

『うわあ……うわあ……』


 司会席でイータが必死にとりつくろっているが、相方の司会のレーミンほか観衆の大半は呆然である。


 当然だ、まさか○ンツが明暗を分けるとは。


 皆同じ気持ちだろう。観衆の多くは呟いた。


『白パンだ……』

『白の紐パンだ……!』

『いい色の白パンですね……っ!』

『今夜のおかずにしよう。うん』


 大好評である。

 そしてテレジアはもちとん、顔面真っ赤だった。湯気すら出ていそう。

 瞬く間に時の人となり、試合後控え室に戻った。

 その後、「ひゃあああああ~っ」と恥ずかしさのあまり、顔をずっと手で覆っていたのは言うまでもない。



お読み頂き、ありがとうございます。

次回の更新は2週間後、12月5日になります。

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