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TSヤクザの異世界生活  作者: 山本輔広
三章∶異世界商売録-元ヤクザだけどプリン屋始めました-
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憤怒の蓮

 咆哮した瞬間にオオシマの拳がバハムートの胸を貫いた。


「テメェ俺の娘に向かって殺気飛ばしてんじゃねぇよクソが」


 敵意がオオシマだけでなくプーフやシロに向けられたと分かったときにはもう鬼姫へと変わると目の前の脅威を一撃で無力化させた。

胸を貫かれたバハムートは翼を広げたまま絶命すると後ろに倒れて土埃をあげている。


「ママ!」


 咄嗟にオオシマの背に隠れていた二人は顔を出すと目の前に倒れるバハムートの巨体を見た。

青い体に岩のようなゴツゴツした足。嘴は先端が尖っているが太くて重たそうだ。

オオシマよりも二回りは大きそうな体をしているが、バハムートの目の前にいた金髪の美少女は獣など恐れぬ無双の鬼姫。

もはやバハムートなど相手ではなかった。


「まだいるな。ミーナ! テメェはプーフとシロを守れ!」


 言いながらオオシマは駆けだしていた。


「分かりました!」


 二人の娘を抱きしめるとすぐにでも駆けだして小さくなる背に目を向けた。

リリアを探しにいったのだろう。二人を連れていては時間のロスになる。だから二人の娘を自分に預けたのだろうと察するとミーナもすぐに返事をしていた。


「グルルルル……!」


 ミーナの背後に一匹のバハムートが迫っていた。

振り向けばすぐそこにバハムートの姿があり、嘴に生えた牙をむき出しにしている。


「舐めないでくださいよ。これでも元女神なんですからね!」


 食らいつこうと開かれた口目掛けて手を翳すとバハムートの体を青い炎が包んだ。


「魔獣ごときに負ける私ではありませんよ!」



 何羽ものバハムートが町に降り立っていた。

暴れ狂うバハムートに町は混乱状態になっている。逃げ惑う人々はさらに猛烈な勢いで駆ける鬼姫を目にすると重なる恐怖に震えあがった。

すでに噂が広まっていた鬼姫。そしてバハムートの襲来。

逃げ惑う人々はそこに信じられない姿を見た。

暴れ狂うバハムートを目にした瞬間に鬼姫が飛び掛かると一撃でバハムートを撃破していくのである。

 地面を蹴り壁を蹴り宙に舞い上がりながら金色の鬼姫がバハムートを無力化していく。

恐ろしいはずの姿、噂に聞いていた通りの怪力で鬼姫はその体の倍はあろうバハムートに臆することなく立ち向かい、自身はダメージすら受けることなく次々とバハムートを倒していく。


「邪魔なんだよコノヤロウ! ぶっ殺すぞコラ!」


 咆哮するバハムートの嘴を鬼姫の拳が砕く。

いつしか住民たちは逃げることも忘れて鬼姫がバハムートを一方的に倒していく姿に目を釘付けにしていた。


「あれ、鬼姫だよな……あの怪力。鬼姫に間違いないよな!?」


 住民の一人が口にする。

あれは確実に噂に聞く鬼姫だと言うと、同じように動きを止めて鬼姫に目を奪われていた魔族の住人が目を合わせて頷いた。


「間違いねぇ。あんな怪力見たことない。バハムートが一撃でやられてくなんて見たことない!」


「確かに恐ろしいが……バハムートを倒してくれている。鬼姫がバハムートを倒しているぞ!」


 住民たちの顔が驚きから笑顔に変わった。

突如として現れたバハムートの群れ。しかし、そこに現れた鬼姫は猛烈な勢いでバハムートを倒していく。

その姿は噂に聞いていたよりも何倍も強い。そして恐怖していた噂は心強い味方として捉えられる。


 何匹ものバハムートを一撃で砕きつつオオシマの目はリリアの姿を探していた。


――クソ、どこいきやがった。


 逃げ惑う住民を見ながら黒髪で羽の生えた少女を探す。

同じような黒髪の少女はいてもリリアの姿はない。


――なんだってこういつも上手くいかねぇんだよ!


 度重なる不幸に苛立った。

ベヒーモスのときも、地割れに挟まったときも、いつも自分は頼りない。いつも自分は必要なときに力になれない。

不甲斐なさ、情けなさが混ざり合うと猛烈な怒りへと姿を変える。


「リリー!!!」


 叫んだ声は龍の咆哮のようだった。

金髪を逆立たせながら鬼姫が子を探す。

真黒な表情に穴が開いたような白い目、ひび割れたような口から叫ばれる咆哮。

オオシマが立っていた地面にヒビが入った。ミシミシと音をあげながらそこに立っているだけで地面は砕けていく。

ひび割れた地面から本来は生えるはずのない蓮の花が咲き誇った。

足元から蓮の花を咲かせながらオオシマは地面を思い切り蹴り上げると宙に舞った。

 蓮の花びらが舞う。

いくつもの淡いピンクの花びらを舞わせながらオオシマは駆けた。


「リリー!!!」


 駆け、倒し、舞い、咲き、探す。

蝶のように舞い蜂のように刺した。



 息を切らしながら走っていた。

いきなり現れたバハムートを目にしてリリアは恐怖しながらもすぐにその場から逃げた。

バハムートはリリアに襲いかかると嘴で座っていたベンチを粉々にした。

逃げ出すリリアをターゲットにしたバハムートは青い翼を広げて空に飛びあがると上空から急降下してその巨大な足と爪でリリアを捕えようとしてくる。


「ママ……ママー!」


 逃げながら母を探す。

来た道を走っているがそこには逃げ惑う人たちがいるばかりでオオシマの姿はない。

荒く早い息をしながら目でオオシマの姿を探す。

いない。右を見ても左を見てもどこを見てもいない。

遠くには叫び声が聞こえて、空を見ればまだバハムートが数匹舞っている。


「ママー!」


 どうしてこうなっちゃうの。

プーフを泣かせてしまった罰が当たったのかと思ってしまう。

きっとプーフを泣かせてオオシマの言うことをきかなかったから、自分は悪い子だから罰が当たったんだ。

逃げながらリリアの頭に過る考え。


――私が悪い子だから、リリアが悪い子だから神様が罰を与えたんだ。


 後悔が押し寄せるが今は逃げるしかなかった。

バハムートの巨体がリリアの一歩後ろに急降下して地鳴りを響かせる。

もうすぐそこまで来ている。あと一歩迫れば食べられてしまう。

恐怖した。自身に命の危険が迫っていると分かるともう走れないはずの足を必死に動かした。


――ママは、ママはどこ、助けて。


 きっと鬼姫のオオシマならバハムートなどすぐに倒してくれると考える。

だが、その頼りの母はいない。

それは自分がプーフに当たって逃げ出したから。自分から離れてしまったから。


――ママ、ママ、ママ!


 嗚咽交じりの荒い息。

涙に顔を濡らしながら両手を振って思いっきり駆けた。

こんなことになるならあんなことしなければ良かったと思っても、時は戻せない。


「ママー!!!」


 叫び声をあげて駆ける足が前にあった木箱に当たると、リリアは体を地面に打ち付けながら転がった。


「うぅ……痛い……痛いよ」


 転がった身体のまま足を見れば脛を木箱に打ち付けて血が滲んでいる。

このままでは食べられてしまうと立ち上がろうとするも痛みが響き、焦った身体はうまく言うことを聞いてくれない。


「ママ……ママぁ……」


 巨大な影が倒れるリリアに重なった。

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