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TSヤクザの異世界生活  作者: 山本輔広
三章∶異世界商売録-元ヤクザだけどプリン屋始めました-
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白龍

 上空から降下したバハムートが迫る。

だが、リリアに襲い掛かる寸前でその巨体はさらに大きな牙に食われた。

一口にバハムートを捕える大きな牙と口。バハムートとは比べ物にならない巨体がリリアの目の前を通り過ぎていく。

長く太く白い鱗で覆われた体。長い体には何本もの足が生えて水晶のような玉を持っている。

 それは巨大な白い龍だった。

バハムートを咥えた龍は上空へと舞い上がると咥えていたバハムートをかみ砕いて飲み込む。


 疾風がリリアの黒い髪を揺らしていた。

空を見上げてみれば巨大な長い龍が泳ぐように空を舞っている。


「ドラゴン……」


 口をぽかんと開けてただ龍を見つめていた。

 白龍はまだ空に舞っているバハムートを見つけると、巨大な口を開いて牙をむき出しにして威嚇している。

雷鳴でも響くかのような咆哮がした。

まだ空に舞っていたバハムートは自分たちよりも遥かに大きく強力な白龍を見ると即座に敵わないと悟り、まさに尾を巻いて逃げ出した。


 髭を揺らしながら龍はまた唸りをあげる。

巨大な体を舞わせながらゆっくりとリリアのもとへと降下すると、その巨体は霧になって消えていく。

霧が町を包み、リリアはわずかにしか届かない視界を見回した。

巨大な白龍の姿もバハムートの姿もない。残されたのはただ霧のみ。


「リリー!」


 聞きなれた安心感のある声がしてリリアは立ち上がった。


「ママ!」


 霧の中から姿を見せたのはオオシマだった。

痛みのある足を引きずりながらしがみつこうと手を伸ばすとオオシマはリリアの体を抱き上げて頬ずりする。


「大丈夫か?」


「ママ!怖かった……怖かった」


 しがみつきながら胸に顔を埋めるとこれでもかというほど顔をこすりつけて力いっぱい母の体を抱きしめる。


「足怪我したのか。悪いなリリー。あとでミーナに治してもらおう」


 オオシマの心配する声はリリアの耳に届いてはいなかった。

今は危機から逃れられた安心感とオオシマに見つけてもらえた安心感に包まれてリリアは涙が流れた。

 ふと、抱きしめる体に花の匂いを感じた。

谷間から顔をあげて見てみれば服の中に蓮の花びらが入っている。花びらを摘まみ上げてみれば清らかな香りがする。


「ママ……お花……」


「あぁ、なんだろな。走ってるとき花屋にでもぶつかったかな?」


 リリアが手にした淡いピンクの蓮の花に鼻を近づける。


「いい匂いだな」


 花を手にしながらリリアは今しがた見た龍のことを思い返した。

巨大すぎる白い龍。一口にバハムートを食らったあの姿は今までに見たことも聞いたこともない。


「ママあのね! さっき大きなドラゴンがいたの! 白くておっきなドラゴン!」


「マジか。そんなデカいのがいたのか」


「ママ見てなかったの!? バハムートの何倍も大きいの! 一口で食べちゃうくらいにおっきかった!」


 泣いていたリリアはすぐに驚きの表情に変えた。

両手を広げてどれくらい大きかったか、バハムートを一口に咥えて連れ去ったことを説明したがオオシマはどこか心ここにあらずというようにリリアの話を聞いていた。




 町に立ち込めていた霧は風に流れて消えていった。

一時的に混乱状態になっていた町はバハムートの姿がなくなるのと同時に静けさを取り戻したが、住民やオオシマの帰りを待っていたプーフたちは何もない空を言葉も発さずにただ見上げていた。

 バハムートの襲来、それを狩る鬼姫、そして最後に現れた巨大な白龍。

目にしたどれもが衝撃的すぎて人々はただ白龍が舞っていた空を見つめている。


――あの白龍は。


 ただ一人ミーナだけがその白龍の正体を知っている気がした。

まさか。でも、ありえない。

確かにオオシマにはアノマリーとしての力が宿っていると確信はしていた。

だが、それを考えたとしても白龍の出現は想定外の出来事であった。

一体全体何がどうなっているのか分からなかった。

思考を巡らせる中でミーナには一つの記憶が蘇っていた。


――入れ墨。


 オオシマの背には入れ墨が残っていた。

転生した時にミーナはオオシマの姿を変更していたが、どういうわけか墨が残ってしまっていた。

それはオオシマが墨に対して思いれが強いせいだろうと、その時は深く考えはしなかった。

背に会った墨と今現れた龍は姿が似ている。

白く長い龍の姿はオオシマの背にあるものと姿かたちが同じものだ。

しかし、墨が残っていたとしてそれがどうしてあれほど巨大な龍になるのかは分からなった。

ただの勘違いかもしれない。オオシマと繋がっていることは間違いないが、まだそれが具体的に何を示しているのかはミーナにも分からない。


「しろいどらごん……」


「……おっきかったね」


 まだ空を見上げたままのプーフとシロが口を開いた。

もうそこに姿はないが強烈すぎるインパクトを残した白龍は二人の目にくっきりと刻まれると、まだ空を泳いでいるような気がした。


「プー、シロ、ミーナ、戻ったぞ」


 オオシマの声が聞こえて三人はやっと視線を前にやった。

目の前の道をオオシマがリリアを抱えて歩いている。リリアが足から血を流しているのを見るとミーナはすぐに二人の前へと駆けだした。


「怪我したんですね。すぐ治します」


「おう、頼む」


 ミーナは手のひらを傷口で当てるとほのかに発光してリリアの傷を修復する。

発光した手を退かすとリリアの足についた傷は元通りの状態へと戻っている。


「もう大丈夫かリリー」


「うん、ありがとうお姉ちゃん」


「いいのよ。それより見つかって良かったわ」


 身体を降ろされたリリアは正面に立っていたプーフを見ると居心地悪そうに視線を逸らした。

まだ喧嘩してさほど時間は経っていない。リリアの中にはまだ素直になれない小悪魔が住み着いている。

小悪魔はリリアの口をふさがせるとどうしていいか分からなくて何もさせようとはしなかった。


「リリー……おこらせちゃってごめんなさいなの」


 先に言葉を発したのはプーフだった。

だが、同じくプーフもどうしていいか分からなくて言葉を探しながら口を開く。

リリアを見てまたプーフはスカートを握りながら泣きそうな顔をしている。

あんなに責められてプーフはまだ怒っている気持ちもあったが、それ以上に自分が喧嘩したせいでリリアを危険な目に遭わせてしまった。

自分が何かリリアの気にくわないことをしたせいでリリアを怒らせてしまった。

そんな風に感じるとプーフは具体的な理由はわからなくても、リリアに謝らなければならないと謝罪の言葉を口にさせた。


「プーがリリーのことおこらせちゃったから……ごめんなさいなの」


 言いながらプーフは涙を零した。

リリアも逸らした視線をプーフに戻すと同じように涙が零れた。


「私も……ごめんねプー……デブなんて思ってないよ」


「プーがリリーおこらせちゃったから……プーがいけないの」


「違うよ。私が勝手に飛び出したの……」


「プーなきむしなの。プーのせいでリリーがたいへんなことになったの……ごめんなさい。ゆるしてなの」


「……いいんだよ、プー。いいんだよ」


 

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