カルフィア
テンプレは続きます。
「いやー雪山大変だったねー」
「……大分、楽だったと思うが」
見慣れてきた少し疲れた、いや今は呆れが混ざったような表情のアルを横目で見て、すぐに前に広がる森に視線を戻す。
はい、一気に山越えてきました。
って言っても歩きにくかったりする所だけ空中移動しただけなんだけど。
それでも七日ほどで三つの山を越えた私たちは、山に登る前に通った森とほとんど変わらない痩せた森の前にいる。
「普通だったら一ヶ月近く掛かるのを、たった七日で済ませて大変はないだろ」
「だって私だったら空間移動なしでも三日もあれば越えられたし。そう考えれば倍以上掛かってるんだから、やっぱり大変だったんだと思うよ」
「だと思うって……」
「ほらほら、小さいことは気にしない。山越えれば目的の村まであと少しなんでしょ?お酒が待ってるよ」
「……そうだな。……小さいことだな」
私の言葉にも私自身にも大分慣れてきてくれたようで良かった。良かった。
私達は止めていた足を動かし森の中に入っていく。
結局、あの後雪男みたいな魔獣に三回、兎の魔獣はちょくちょく出会したが他の冒険者なんかとは会わなかった。
ちなみにあの後の魔獣は全てアルが倒した。二回目からは雪崩を起こす前に倒したから、私が手を出すこともなく全くの無傷。
私の力も関係しているとは思うけど、元々の身体能力や雪山での戦いの経験からさほど苦戦もしなかった。徐々に力にも慣れて、最後の方は楽勝だったしね。
森の中はやはり痩せている為か、前回の森と同じように動物は少ない。魔獣にも何度か出くわすけど、私が出る前にアルが倒してくれる。
完全に前衛って感じだなー。まぁ、アルがそれで良いなら良いんだけど。
数が多かったりすれば私も適当に倒して前に進む。
痩せた森が徐々に姿を変えていく。緑が増え、花なのか茶色と緑以外にもちらほらと色が見え始めた。
「ここは大陸の南側になるから、気候もアンディールに比べれば温暖なんだ。カルフィアは更に南にある。だから酒に使う果物も育てることが出来るそうだ」
俺もここまで来たことはなかったから少し驚いてると言いながらも、以前酒を買った行商から聞いた話を含め説明してくれる。
そういえば、植物だけではなく普通の動物もたまに見かけるようになった。出会す魔獣も増えたような気がするが。
魔獣なんかはサクッと倒し、私たちは順調に進み遂に目的の村カルフィアに到着した。
「へぇ、村って言うより町くらいありそう」
「ここは旅人や冒険者も多く立ち寄ると言っていたからな。俺も想像していたより大きくて驚いてる」
村に入ってすぐに人の多さに少し驚く。
道は土が剥き出しだったけど、それなりに整備されている。家は石造りが多い。人も多いが店もそれなりに出ていて賑わいを見せている。どちらかというと村の人より旅人や冒険者の格好をした人が多いけど。
そしてやっぱり視線を感じる。
黒髪の私はもちろん、隣にいるアルにも視線が向かっているような気がする。
そういえば、アンディールの武器屋で大剣を買いたいって言った時も、大男が使うのかって聞かれた気がする。
実際、身長はあるが大男という表現が似合わない細身マッチョなイケメンが使っているわけだけど。
だからなのか、人々はアルの背中に担いでいる大剣とアルの顔を交互に見ては驚いた表情をしているような気がする。
視線の中には格好付けや見栄で大剣を持っているんじゃないかと、あからさまに見下したような視線を向けてくる人もいる。
気にくわないなー。でもアル本人が何も言わないのに、私が口出すのもなー。
「……あんなの一々相手してたら大変だぞ」
「……顔に出てた?」
「なんとなく不機嫌そうな感じがな」
苦笑交じりにアルに言われて頬に両手を当てて、マッサージするように撫でる。なんとなく固くなってるような気がする。
アルの言うことももっともなので、それ以上は気にしても時間の無駄と周りの店を見て回ることにした。
目的のお酒も見つけないといけないしね!
「……ない?」
「はい、申し訳ないのですが……」
目の前には本当に申し訳なさそうにしている人の良さそうなおじさん。少し後ろには、やはり同じ様子のおばさん。
聞き返したアルは残念そうだったが、ないものはしょうがない。逆に言えばそれほど売れてるってことじゃない?
ここじゃなくても名産品となれば、他にも売っている場所くらいあるだろうし。
「だったら他に売ってる場所を教えて貰っても良いですか?」
私は残念そうなアルに代わり、おじさんに聞いてみる。だが、おじさんは更に申し訳なさそうにして、どこにもないんですと言う。
どこにもない?ここの名産品なんじゃないの?
おじさんに代わり奥にいたおばさんが私たちの前に出てくる。
「正確には売れる物がないんです。あれは作ってから出来上がるまでに時間がかかりまして、作成途中の物はあるのですが完成して売れる物はないんです」
??どういうこと?
「完売しちゃってないってことなんですか?このお店だけじゃなくて、他のお店も?」
「あの酒はこの村の一カ所で作っていまして、そこから各店へ卸されるんです。……でも完売したわけじゃないんです」
私の質問に丁寧に答えてくれるおばさん。
でも完売したわけじゃなくてないっていうことは……。
アルも気づいたらしい。そして諦める気もないようだ。
「その話もう少し詳しく教えてくれ」
おばさんは嫌がることもなく教えてくれた。
最近出るようになった賊が出来上がっている酒を一個残らず持って行ってしまって、しかもそれを高値で貴族なんかに売りさばいている。
なら村にいる冒険者やら傭兵なんかにお願いすればいいじゃないかと思うが、その賊が厄介で人数は少数ながら精鋭揃い、おまけに巨大な熊の魔獣を操るらしく迂闊に手が出せないらしい。
テンプレに続くテンプレだなー。
この展開も嫌いじゃないけど。
「その賊をなんとかすれば、売ってもらえるんだな?」
「え?あ、はい。ですが、もう既に何人も返り討ちに合っていまして……」
まさか行くのかと驚くおばさん、おじさんを無視してアルは私の方に顔を向ける。
あ、これ、あれだなー。行く気満々だなー。
でも私もここまで来て目的の物を手にしないのも嫌だし、私が来た村でそんなことしてる奴らがいるなら……ね。
「レイナ……行ってくる」
「うん、いいよー……って、え?」
行ってくる?なんだか一人で行くような言い方。
するとアルは体を完全に私に向けて真面目な顔して話し始める。
「レイナは無理に付き合わなくて良い。元々ここには俺が来たいと言って来たんだ。だから」
「いや、ちょっと待って!」
なんだか勝手に話を進めていくアルにストップをかける。アルは止めても行くぞと目で語っていたけど、誰も止めないし。
「私も行くって」
「面倒なのは嫌なんじゃないのか?」
あ、そういうこと。
アルの不思議そうな顔を見ながら納得する。
「確かに面倒臭いことは嫌だけど、こういうことは別。嫌なもの、むかつくものは徹底的に、ね?」
「……わかった」
もちろん、世界のバランスを崩さない程度にね。
私とアルで話がまとまったところで、場所など詳細を聞こうとすると、おばさんは思い出したように言った。
「そういえば……村長が賊退治をしてくれた者に取り戻したサンリアの半分を渡すとかで傭兵や冒険者を集めていましたよ。私たちは賊の居場所なんかは知らないんですが、そこに行けば詳しいことが聞けるかもしれません。確か集合は今日だったかと」
なんて良いタイミング!しかも報酬付きだなんて!
……でも、なんでかなー。何か他にも面倒なことが起きそうな予感がするんだよねー。
この話は王道展開で進んでいきます。
ありきたりな話や結果になることも多いかもしれませんが、読んでいただけたら嬉しいです(^^)




