アル
お久しぶりです。
「それでこれからどうするんだ?」
「実は……」
「……」
「決めてない」
アーデルハルトは軽くため息をつく。
え、ひどくない?
「とりあえず刺客はある程度倒したし、これ以上あの国も深追いしないでしょ」
これにはアーデルハルトも同意見のようで頷いている。
これには確信があった。今回送られてきた刺客はあの国の中でもトップクラスの者達だった。それを完膚なきまでに倒してしまったとあれば、これ以上の武力を私たちにさくのは得策では無い。この大陸は弱肉強食。どこでなにが漏れるかわからない。大国といえど軍事力が弱まったところを狙われれば無傷ではいかない。
それにこれ以上私たちに構うことで私の知っている情報を外に漏らされる危険もある。
そんなことはしないけどね。むかつく奴はいたけれど、それだけで国の他の人を傷つけて良いということにはならない。
王族の裏なんてこの国じゃなくても大なり小なりあるものだ。それにいちいち反応していたら、この世界から国なんてなくなってしまう。
それは私としても神としても本意では無い。
「今後については、本当に決めてないの。そもそも私の旅の理由が理由だから」
「そういえばレイナの話を聞いてなかったな。……聞いても大丈夫か?」
あーそういえば、神であること以外ほぼ何も伝えてなかったっけ?
ここで全て話すことは簡単。……もし彼が裏切ったとしても、こんな話他に漏らされて私に害があるわけではない。というより信じる人がそもそもいないと思う。
まぁ、裏切る裏切らないは別として、私が彼を気に入ったのだから聞きたいと言われれば話すだけのこと。
「そうだね。私のことも教えるね。私ばかりがアーデルハルトの事知ってるのも不公平だしね」
「別に不公平だとは思わないが……。教えて貰えるなら、その方が今後共に動く際の参考になると思ったからだ」
確かに私のことを知っていれば、もし私に何かあった際にアーデルハルトがどう動くかを決める判断材料になる。
「それから俺のことはアルでいい。……親しい者はそう呼んでいた」
一瞬アーデルハルト……アルは悲しげな表情を浮かべたがすぐにそれを消す。
それを私は気づかないふりをする。
「わかった。アル、この先少し行った所に落ち着ける所があるはず。そこで話すから」
私はそう言ってアルの横を通り過ぎ目的地に向かって歩き出す。
少し歩けば、大きな木の根元に到着する。根が地中から出てきている為、その一カ所に腰掛ける。アルは少し離れた場所で木に寄りかかるようにして立っている。
座るように声を掛けるが、こういった場所では魔獣などがいつ出るか分からない為、いつでも動けるようにしておきたいとのことだった。
アルは言葉にはしなかったし無意識かもしれないが、私がいるということもあると思う。私についていくと言ったが、まだ心の底では完全に信じてはいない。
信じていた人に裏切られ、騙されたのだから、それも仕方ない。逆に会って間もない私によくついてきたなと思ってしまう。
私自身、今すぐに信じろとか言わないし、人の心までを完全に操ることは神でも出来ない。上辺だけだったら従わせることも可能だが、私はそれをしようとは思わない。
だから別に私もそれ以上アルに強要はしなかった。
「それで私について何だけど。とりあえず突っ込みたいこととか質問は後で聞くから最後まで聞いてくれる?」
「あぁ、わかった」
アルの返事を聞いて、私は話し出す。
私がこの世界を含めいくつかの世界を創り出し、見守る神であること。
力を溜め込んでしまった為、力を使い私という形を創り出し、この世界で力を発散させなくてはいけないこと。
別にこの世界を変えようとか、破壊しようなどとは考えておらず、気ままに世界を見て回りたいと思っていること。
そして奴隷という存在に対しての私の考え方や旅をしていくなかで仲間も増やしていきたいことを伝える。
「ここまでで何か質問は?」
「……力を使ってレイナを創ったというが、では今神という存在はどうなっているんだ?」
「神は今も存在しているよ。私は、うーん、分身?とはちょっと違うか。でも似たような存在かな。神としての記憶も力も持ってる。力の一部制限はしているけどね」
「その力というのは今まで見たものか?それから制限とは?」
「うん、あれも力の一部。じゃあ力の説明、制限についても説明するね」
力については、ほぼなんでも有りな状態であること。
魔法はこの世界に存在するもの全て使えるし、肉体の強化も出来る。まだこの世界にはない魔法も使うことができる。治癒だって今の世界じゃ治すことの出来ないものを治すことが出来る。
また異次元空間について。これは次元を調整して物を出し入れすることができる。
説明しづらい為、アルにはマジックアイテムの強力版と思ってもらえば良いことを伝える。
そしてアルの過去を知ることが出来たように、人の過去に何があったか、その場所で何があったかを知ることが出来る。
制限は時間の調整と、世界の情報確認であること。そして私自ら考えた、お金の作成と死者蘇生、新しい生き物、大陸の作成はしないことを伝える。
「と、他にも細かく言えば色々あるんだけど、初めに言ったようにほぼ何でも有り状態だから、全部伝えるとなると面倒なんだよね。時間も掛かるし。ま、突拍子もないことしても、神だからで済ませてもらえばいいかな」
「……この段階で既に突拍子もないと思っているのに、これ以上があるのか」
アルは疲れたように話す。
うーん、元々が真面目そうだから気苦労が多いのかな?
「そういえば、アルって国に家族とかいなかった?今更だけど、どこにも寄らずに出てきちゃったけど……」
「大丈夫だ。両親は既に死別している。兄弟は元々いなかったしな。……俺の過去を見たんじゃないのか?」
私の今更過ぎる疑問にも嫌な顔一つせず淡々と話す。最後は少し不思議そうにしていたけど。
「いや、あの事は見たけど一場面だけだし、人のプライベートを必要以上に見るのって気が引けるというか。私の拘りというか……。だからアルのことは名前とあの事に関わること位しか知らない。少しずつ知っていくのが面白いしね」
「……結局、面白いからか」
あれ?なんだか余計に疲れさせちゃったかな?
「……いーじゃない別に!それともスリーサイズから初恋の人まで知ってた方が良いの?」
「それは勘弁してほしいな」
「でしょ?深く考えない!あ、今一個だけ聞いても良い?」
「なんだ?」
「アルって何歳なの?」
「二十四だ」
え、本当に?
「……二十八位かと思ってた」
「……老けてるってことか?」
私の言葉にアルが少し落ち込んだように見える。いや、良い意味で落ち着いてるってことなんだけど。
「老けてるっていうか雰囲気?」
「……。ちなみにレイナは何歳なんだ?そもそも神に年とかあるのか?」
「あー私、前世?で死んでから見た目は変わってないんだよね。死んだ時のままだから十八歳位?実際に神として過ごした時間だと……とりあえず千年までは数えてたんだけど、うーん、八千年以上かな?神にしてはまだまだひよっこだけどね」
アルが、八千年でひよっこ……と呟いていたけど、真実なんだから仕方ない。
私の前世での世界だって、私が住んでいた所が出来てから何億年って経ってるわけだし、千年単位なんてまだまだひよっこもいいところ。
「じゃあ、本当にどこに行くかは決めてないんだな?」
「そうなるね」
アルは私の答えに少し考える仕草をする。
そういえば最初からだけど、アルって考える時左手を顎付近に持っていく癖があるんだよね。癖って自分じゃ気づきにくいっていうからアルの場合も無意識にとっての行動なのかな。
なんて私がアルを観察していると、考え事は終わったのか手を下ろして私に視線を向ける。
「ここから山を三つ越えた所にある『カルフィア』に向かわないか?」
「別に良いけど。そこに何かあるの?」
アルの真剣な表情に、もしかして何か事情があるのではと私も真面目に聞き返す。
「そこでは………サンリアという酒が造られている」
「……お酒?」
「あぁ」
真面目な顔をしてるけど、もしかして。
私は確信を得る為、アルに問いかける。
「アル……そのお酒目当てで行くの?」
「そうだ。レイナの目的が世界を見て回るなら、行く目的は別に何でも良いだろ?サンリアは以前旅の行商が来た時に一度買ったことがあるんだが、アルコールはあまり高くなかったが果実の味と香りが良くて、もう一度飲みたいと思っていたんだ」
いや、まぁ、旅の目的はそうなんだけど。
アルは心なしかうきうきしているようで、口元が微かに笑みを作っている。
そんなに楽しみなのかな。
「アルって、お酒好きなんだね」
「あぁ」
私の独り言のようなつぶやきが聞こえたようで、律儀に返すアルに私はこれ以上何も言わなかった。
別にいっか。誰にだって一つくらい好きな物、こだわりがあるものだし。だけど、世界を見て回るのに、次の目的地を決める方法がお酒目的って……こんな冒険の始まりってあるのかな。
冒険の始まりとか言いつつ、まだ始まりませんでした。
次こそ……。