十六話 蒼の剣士、紅の闘士
ガラン。
ファイターがグレイブを投げ捨てる。
これは――ヤバい。理屈ではなく本能が全力で警鐘を鳴らす。
ファイターが武器を捨てた理由は分からない。傍から見ればリーチ・火力ともに低下して、ファイター側に利は無いように見える。
それでも、だからこそ。何か底のしれない威圧感が、ファイターから迸っているように感じた。
もう一段階、速さの上があるのだろうか。もしそうなのだとしたら、俺とイーグルはそれについて行けるのだろうか。
素早く検算して、出した答えはNOだった。虎の子のホバー・エアリアルを以てしても防戦一方な現状を鑑みれば当然だろう。
ファイターの双眼カメラ越しに、センカの視線がイーグルを捉える。その逃れようがない圧力が、否応なく絶望の念を与えてくる。
勝てない。そう悟る。無理だ。そう思う。
それと同時に、だけどと願う。
このイーグルなら、奇跡だって起こしてくれる。
いや、違う。待っているだけじゃ奇跡なんて起きない。起こすんだ。
大丈夫、出来るさ。この機体は英雄の機体。レジデントを救った、それだけの力を秘めている。
そう考えると、自然と力が湧いてきた。立ち向かうための活力が身体に満ちる。
大きく深呼吸をする。肺いっぱいに空気を取り込んで、思いっきり吐き出す。
見据える先には、センカの駆るファイターの姿。
「行けッ!」
自らを叱咤するような気合と共に、俺は死地に突っ込んで行った。
♢
ガリリッ!
ファイターの繰り出した正拳突きが頭部を掠める。
チリリッ!
イーグルの薙いだ模造刀が、ファイターの胸部装甲を削る。
蒼と紅が交錯する。
ビーッ! 危険感応システムからの警告。背面右後頭部に上段蹴りが襲う。
反射的に模造刀を盾にし、受け流そうと試みる。
激しい擦過音と火花を撒き散らしながら、剣の腹をファイターの右足が駆け抜けた。
心地よい気分だった。俺は今、イーグルと一体になっている。それは別にリンクシステムがもたらす、肉体と機械の連動から来るものではない。
各関節の限界駆動域、装甲の損耗度、フレームの被害……。イーグルにまつわる情報が俺の中に流れ込んでくる。いちいち各種パラメーターを見なくても、まるで自分の事のように理解できる。
そんな状態だからこそ分かった。だからこそ気付けた。
――ファイターの左足の様子がおかしい――
その事に。
先程から足技のほとんどは右足で行って、左足は常に軸としている。それも怪我でもしているかのように不自然と。
そしてこちらの右腕も同様だ。ファイターの攻め手を一身に受け続けて、フレームにも電動機にもガタがきている。
お互い、もう長くは耐えられない。
それはセンカも承知しているのだろう。一撃一撃に強引さが現れ始める。
拳がうねり、流れを生み出し、剣がそれを切り裂いていく。
楽しい。戦いの渦中にいるにもかかわらずそう感じる。いや、それ故に、か。
激しく立ち位置を入れ替えながら、相手を屈服させんと刻む武闘円舞。
この白熱した感覚がいつまでも続けばいいのに。叶わないと分かっているのに、そう願ってしまう。
ガリァッ。モーターが嫌な音を立て、右腕の動きが停止する。
ここぞとばかりに正拳突きを打ち込んでくるファイター。
ガクンッ。左足の膝関節が力を失くしたように折れる。
体勢が崩れたことで正拳突きの矛先が狂い、イーグルの右腕を打ち砕く。
イーグルは正拳突きの衝撃で、ファイターはバランスを失って。
二機はその場に崩れ落ちた。
そして、再び動き出すことはなかった。




