贅沢でどうでもいい悩み
「何か悩んでいる様だとは思いましたが、そんな事ですか」
太郎は、本日の収穫を米倉に報告していた。
その成果物を確認する間、太郎が微妙な表情をしている事に米倉は気が付いた。
そこで事情を確認したところ、米倉は太郎がどうでもいい事を気にしているのに呆れて、おもわずそれを口にしてしまった。
太郎が持ち帰ったドロップアイテムの大半は序盤のものであり、そこそこの量が一般的に流通しているものだ。
比較的安全な場所で手に入る序盤のアイテム類は、誰でも買える、普及した品でしかない。
よって7万円と少し、そこそこ程度の金額がこの日の収入になる。
7万円は一人が1日で稼いだにしては多いが、命をチップにしてまで稼いだ額として考えると、あまり大金とは言えない。
だから最初、米倉は太郎が収入の少なさを気にしているのだと思ったのだ。
序盤などただの通過点にすぎないから、すぐに収入は増えると、そう説明しようと思っていた。
なのに、太郎は敵を虐殺しているだけで作業にしかなっていない現状に迷いを感じているという。
米倉は、太郎が勘違いしている部分を正すことにする。
「いいですか、太郎さん。
貴方が行ったのはまだ序盤で、敵が弱いのは当たり前なんです。そんなところで苦戦するようでは、話になりません。苦戦しないのが当たり前なんですよ。
それに、苦戦するようになったらお終いなんです。一人でダンジョンに行って頂いている以上、安全に帰ることができる範囲で活動してもらわないと、太郎さんが死んで終わりじゃないですか。
いざという時の保険は何重にもかけていますけど、保険なんて、無駄になってナンボなんですよ? わざわざ危険な事なんてしなくていいんです。
どんな冒険者だって、生きて帰ることが最優先なんですから。
そもそもですね。今日はまだ、装備を貸し出して一日目なんです。今日は装備の慣らし運転、習熟と、そういった事が目的だったんですよ。“戦いに行った”のではなく、“装備の慣らしに行った”んです。苦戦とか、どうでもいいんですよ」
米倉は太郎に対し、指を立ててダメな点を指摘する。
彼女はまだ冒険初日という認識をしておらず、太郎が冒険前の段階だと指摘する。貸し出した装備をまともに扱えるようになってから、何が出来るのか知ってから、それから冒険すればいいと思っている。
チートな装備があっても太郎はまだヒヨコなのだ。鶏になるまで、どう考えてもしばらく時間がかかる。
それを言われた太郎は、顔を赤くして項垂れた。
借り物の装備で強さを得たが、装備の力を十全に出し切っているとは言い難い状況で、苦戦しない事を不満に思う。
強い敵がいるとかいないとかは関係なく、まずは装備を使いこなさないといけない。その事を分かっていない事に気が付いたからだ。
まずは借り物の力を自分の力だと認識できるようになるまで練習をする。
練習に適したところまで進む必要はあるが、ダンジョンの奥へと向かうのだって経験が必要な場面は多いと聞く。
兎にも角にも、ダンジョン攻略に慣れることが必要だ。
装備の力に頼ったとしても、ちゃんと使いこなせているのか、それとも力に振り回されているだけなのか。
たったそれだけでも、ずいぶん違う。
「慣れない事をして、ちょっと混乱しているだけでしょう。
今は冒険をしていると思わず、冒険前の訓練期間だと思ってください。
かと言って慌てず、バッテリーが6割になったら戻ってくださいね?」
米倉は、最後に太郎へ念押しをした。
頑張ってほしいと思うが無理をさせたいわけでもないので、撤退に必要なエネルギーを残しつつ、上手く立ち回るようにと一言添えた。
無理をするつもりであった太郎は、ほんの少し口の端を引き攣らせ、米倉から視線を逸らした。




