冒険者
宇宙用の戦闘挺と言われても、太郎にはピンとこない。
学生時代から太郎はアニメやライトノベルなどのフィクションを楽しむ時間を戦闘訓練に費やしていたので、さすがに有名どころのタイトルなら多少の知識があるが、こういった事には詳しくないのだ。
ただ、船の大きさと「宇宙用」という言葉に圧倒されるばかりである。
「米倉、さん。貴女の目的は、いったい……?」
「私は、ただこの船を修理したいだけですよ。地球そのものには、あまり興味がありません」
米倉が言うには、この船はかなり重要なパーツが破損しており、素材調達が出来ないという意味で、修理が不可能なのだ。
また、活動するためのエネルギーも乏しくなっており、これも危険な領域になりつつあったらしい。太郎が協力してくれるなら、継続的にエネルギー供給をお願いしたいと言う程にだ。
「修理に使う素材はダンジョンで手に入りますが、エネルギーの問題は喫緊の課題でした。太郎さんが協力してくれて、本当に助かりましたよ」
なお、彼女はすでに長い間、日本国内で活動しており、金銭は真っ当に稼いだという話だ。
「ネットの情報だけでは株価の予測も今一つ出来ませんので。そういったもので稼げれば、楽なんですけどね。下手にハッキングなどをして注目を浴びるのも面白くありませんし。
ギャンブルは、相手のイカサマを証明するのに手間取ったり、言い逃れをされたりで手間のわりに旨味も足りませんから、胴元にでもならないと利益が……。
収益の基本は、この研究所の技術対価ですね」
本当に、真っ当に稼いでいるようである。
「話は変わりますが、太郎さん。太郎さんは冒険者稼業に興味はありますか?」
宇宙船を間近で見た太郎たちは、一度元の部屋に戻った。
そこに戻って一息つくと、米倉は太郎に次の提案を持ちかけた。
「秘密を知る人は少ない方がいいのでこれまで冒険者の方を雇う事はしませんでしたが、自前の冒険者がいた方が助かるのは確かなんですよね。
そこで、太郎さんがもしも冒険者に忌避感が無いようでしたら、私たちがバックアップするのでダンジョンで素材集めをしていただければと思いまして。
ええ、こちらで貸し出せる装備を使えばダンジョン攻略など、ソロでも可能になりますよ。命の危険も確実に回避可能です!」
ダンジョンで手に入るアイテムを使えば、この宇宙船を修理できる。そのためには専属の冒険者がいた方が都合がいい。ここまでは多くの企業が参加している程度に普通の話だ。
ただ、企業も無駄に人死を出すようではブランドイメージに傷が付くため、ダンジョン攻略に有益なギフトが無いと雇用の対象外になる。
企業の紐付きになってちゃんとしたバックアップが無い場合、冒険者として成功する見込みはまず無いのが現代社会だ。親との約束もあったが、今までの太郎に冒険者として成功する可能性は皆無だったのだ。
だが、ここで研究所と言うか宇宙船を作るほどの技術力を持った異星人の装備が使えるのなら。太郎が冒険者として大成する可能性は現実味を帯びてくる。
米倉の保証する“命の危険の無い冒険”が本当であれば、親不孝をしなくて済む。
太郎の驚いてばかりで回転の遅くなった頭は、冷静さを失っていた。現実が見えなくなっていた。
そんな状態で提案された美味しい話に、勢いで手を付けてしまった。




