第一章 六節
アレン・ルシアンは捜索を続けていた。
早くも日が傾き始め、ローグ村のなかは夕方ということもあり日中とは異なり静けさに満ちていた。
クレアはどこへ行ったのか。町の周辺には姿が見えず、町のなかを探してみたが姿が見えない。昨日のジンの話からクレアのことは知っている様子だった。捕まっていないといいんだが。
この町をやみくもに探しても仕方ない。リラに話を聞きに行くことにする。
小屋にはリラはまだ帰ってきていないようだった。
と、奥の部屋で声が聞こえた。奥の部屋へ入るとリラの母親が俺にすがってきた。
「…すり…だい…はやく、…くす…ちょうだ…」
この女、中毒者か。おれの体についた花の香りにつられているらしい。
「おい、気をしっかり持て。あの薬を使っていてはダメだ」
母親は言葉すらまともに話せない様子。もう手遅れかもしれない。
「母から離れて!」
振り向くとリラがたっていた。
「どうしてここに…あなたはフウ様が殺したはず」
「リラ、母親へ薬を渡すのはやめろ」
「放っておいてよ。母はこの薬がないとダメなのよ。もとのやさしい母さんにもどるためにはこの薬がないと」
「その薬は体を蝕んでいる」
「あなたには関係ない」
リラが母親へ近づこうとするのを制止する。
「クレアをどこにやった」
「…しらない。ライ様がつれていったわ」
ライ?もう一人の忍か。
「城へつれていったのか?」
「知らないっていってるでしょ!」
リラは母親の元に行くとに持ってきた袋を渡す。母親はリラの手から袋を引ったくると粉を吸入する。
「…私を殺さないの?」
「…殺す価値もない」
リラの小屋を後にする。
一度森のキサラのところへもどる。
「どうやらクレアは城に連れ去られたらしい。俺は一度城へ乗り込む。お前とはここでお別れだ」
キサラへ告げると、城へ足を向ける。
「待って、私もいく」
「お前、ジンに追われているんだろ?」
「それはあなたも同じ。私のことを、こんなにも心配してくれた人を見捨てたりしない」
キサラの言葉は本心と思える。
「そうか、ついてきてもいいが…無理はするな」
正直、キサラをつれて行きたくはなかった。守りきれるだろうか。一刻も早く城へ乗り込まなくては。
日は傾き日没が近い。暗闇に乗じてこのまま一気に攻め込む。
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ローグの城・最上階。最上階の部屋は大広間となっており、ろうそくだけが、部屋のなかを照らしている。
「はなしなさい!あんたなんか、アレンが来たらすぐに倒されるに決まってる」
クレアは後ろ手に手錠をかけられている。
「…ふふ。気の強い女は嫌いではない」
ジンはアゴヒゲを撫でるとクレアを引き寄せると、クレアの胸を揉む。
「やめろ!」
クレアの服を破りとると体を一別する。
「ふん。貧相な体だな」
「汚らわしい。触るな!」
クレアがジンに唾を吐き掛ける。ジンがクレアの首をつかむと徐々に力を込める。
「調子に乗るなよ。女なら手を出さないとでも思っているのか?」
ジンの手が放されると、咳き込みながら倒れてしまう。
ジンが再びクレアをつかむと、仰向けにする。
「お前は俺を楽しませてくれるんだろう?」
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ローグの町のなかは日中とは異なり静かだった。
町の門番をすぐに片付けて城に向かって町中を突っ走る。
「キサラ、きつくはないか?」
「大丈夫。私のことは気にしないで」
可能な限り出てくる兵はすべて片付ける。あとあと面道ごとになるのはごめんだ。
勢いそのままに場内へ突入する。しかし、敵が脆すぎる気がする。このまま進んでいいものか。いや、このまま行けるところまで一気に突き進みはやくクレアを見つける。
城の入り口は錠がかけられているようだ。
「ここはどうやって開けるの?」
剛の剣技・玄武を放ち城の門をぶち抜く。
「…以外と大胆なのね」
「ここであれこれ悩んでも仕方ないだろう」
城のなかにはいると、ライが弓を放ってくる。
矢はキサラを狙っていた。不意をつかれたキサラは固まってしまう。すぐにキサラの前に立ち矢を弾く。
「お前がフウ兄様を!」
「…キサラ、下がれ」キサラを後ろに下げると共に、四神を構える。
ライの速射を弾きながら近づいていく。
「お前、左手を怪我しているのか?左側の攻撃時の対処がすこしあまいようだが」
ライの矢は左側を中心に射ってくる。先程までとは違いなかなか近づくことができなくなってきた。はやくこいつを片付けないと。
姿勢を低く構える。矢を弾いた瞬間に白虎を放ち間合いを積める。
咄嗟にライは後ろにとび斬撃をかわす。斬ったのは弓の弦だけ。これでやつの弓は封じた。
ライは刀を抜き構えると、すぐに斬りかかってくる。
斬撃を受け流すと奥義を放つ。
牙蓮流奥義・掌破動。心臓に向け掌底を放つ。
ライは心臓を押さえ踞った。
「お前…な、にを…」
「この技は相手の心臓に衝撃を与えることで、お前の鼓動を一時的に乱す」
刃をライの首もとに当てる。
「クレアを何処にやった!」
「もう、おそい…ジン、さまへ」
ライの言葉を聞きすぐに最上階を目指し階段へ向かって走る。
と、背後でドンという音が聞こえ振り向くと。刀を振り上げたライが倒れていた。
「ちゃんと止めをさせ」
キサラがライの背中に小太刀を刺していた。
と、衛兵達が城内へ攻め混んでくる。キサラが小太刀を構え、衛兵たちを抑える。
「こっちは任せて。先に行って!」
キサラにこれ以上負担をかけるわけには行かない。
「すまない」
キサラに背を向けて階段を駆け上がる。
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小太刀で衛兵を薙ぎ払う。
さっきアレンが放ったのは間違いなく『掌破動』。もしかして、でもあの人以外に牙蓮の使い手がいるなんて。
「こんなガキになに手こずってやがる!」
斬りかかってくる衛兵を一別すると姿勢を低く構える。
瞬速の剣技、白虎・蘭菊を放つ。素早く斬り回り周囲の衛兵を掃討する。
あのアレンという男、何者なのか。もし、彼が本当に牙蓮の使い手ならば、私を自由に…ここで考えるのをやめる。今まで何人も頼ったけど結果はすべて同じ。私はその度に嫌というほど思い知らされた。
今度も結末は同じ。だからもう、希望を持つのはやめた。
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階段を上る。最上階に上るとジンが待ち構えていた。
「よくここまでたどり着いたな」
ジンが奥の椅子に座り笑みを浮かべ待ち構えていた。
と、そこには一糸纏わぬクレアの姿があった。
「クレア!」
クレアのもとへ駆け寄り、服を脱ぎ掛ける。クレアの瞳からは大粒の滴が落ちていく。
「…お前、何をした」
ジンを見ることなく問いかける。
「悪いな。その女処女だとは思わなかった」
クレアがおれの服を掴み、ふるえた声で言う。
「アレン、私。汚されちゃった」
クレアは笑ったが、いままで見た彼女の笑顔の中で、一番悲しい笑顔だった。
「クレア、もう…大丈夫だから。無理に笑うな」
四神を握りしめ、立ち上がる。
「すぐ終わるから、一緒に帰ろう」
ジンのもとへゆっくりと近づく。
ジンは椅子から立ち上がると口元に笑みを浮かべながら仁王立ちする。
四神を勢いよく回転させる。考えることはひとつ、奴をすぐに殺すこと。クレアを傷つけたこいつが許せなかった。
姿勢を低く構えて放つ、瞬速の剣技・白虎!床を力強く蹴りジンの懐へ入り込み斬撃を叩き込む。
技は完全に決まった。刃は体へ向けて放たれていた。
「どうした?いまので終わりか?」
ジンが振り向きながら問いかける。ジンの体は刀傷ひとつついていない。
まさか。斬撃は完全に決まってはず。
「…これなら」
四神を激しく回転させるとジンに向けて渾身の一撃を放つ。重撃の剣技・玄武!
ガァン!!という激しい音を鳴らし斬撃がジンにぶつかる。
確実に斬撃はジンにぶつかっているはずなのに、体には傷ついていない。
「なんなんだ、こいつ」
ジンの巨体にダメージを与えた手応えが感じられない。一度後ろに飛び距離をとる。
「もう終わりか?それならこっちからいくぞ」
ジンが拳で殴りかかってくる。ジンの攻撃を四神の刃で受けるが素手であるはずのジンの拳は傷つかない。
それに、なんて力してやがる。刀で流さないと、まともに受けたら弾き飛ばされてしまうだろう。
と、ジンが手のひらを前に突き出し構える。
「さっきまでの威勢はどうした!」
ジンに対して防戦一方となる。ジンの攻撃を受けている間に感じた。さっきの斬撃、衝撃が吸収されたように感じた。まさかそんなことが可能なのか?斬撃でだめなら、打撃で。
ジンの拳を交わすと牙蓮奥義・掌破動を放つ。
心臓に向けて放った奥義は衝撃を波打つように分散させているように見えた。
「打撃も効かんぞ」
「まさか、筋肉で衝撃を受け止めているのか?」
「…ほぉ。よくわかったな。俺の鍛え上げられた筋肉は相手の攻撃を吸収する。打撃はもちろん、斬撃や矢も効かん。絶対防御というやつだ。そしてこいつが」
ジンは掌を前につき出すように構える。異様な気配を感じてジンから急いで間合いをとる。
「掌破神通撃!」
ジンの放った掌底は衝撃波を放ち、間合いをとっていたが壁まで吹き飛ばされる。ジンの足元より前方は床が衝撃で破壊されていて、技の威力の高さを物語っていた。
ジンにたいして恐怖を感じている自分がいた。斬撃も効かず、打撃も効かない。この男を倒すことはできるのか。この考えが一瞬の隙を生んだ。
「よく交わしたな。だが!」
ジンが距離を積めると拳を降り下ろす。それをかわし斬撃を放つが、ジンが刃を捕まえると上に投げつける。天井を突き抜けて屋根上に倒れる。
屋根を突き破り月夜の夜空に打ち上げられる。三日月が夜空を照らしている。
体制を整えて屋根の上に着地する。と、後を追うようにジンが屋上に現れる。
「今宵は月が綺麗よ…まさに決闘にふさわしい日だ。そうは思わないか?アレン」
「…」ジンを見据えたまま姿勢を低く構える。
「お前ほどの男を殺すのはじつにもったいない。考え直す気はないか?」
「言ったはずだ、お断りだ!」
「…そうか。俺のものにならないのならもういい。目障りなだけだ、ここで死ね」
ジンが瓦を蹴りカラカラと音を鳴らし近づいてくる。既でのところで白虎を放ち、斬り抜ける。すかさず振り返り連撃。ジンに攻撃の隙を与えない猛攻。ジンの体を押している、一歩一歩交代させているがジンの口元には笑みが消えない。そして、隙を見計らい直ぐ様玄武を放つ。狙うは頭。渾身の一撃を側頭部に叩き込む。並みの人間ならば首が飛ぶはずだが。玄武を放ったあとも次撃に備え構える。
ジンは体勢を建て直すと首を鳴らしながら言う。
「それで、終わりか?」
こいつは化け物か。
再びジンは拳を放つ。その刹那、相手の攻撃を威力を倍加させて斬り返す技・青龍を放つ。
ガンという音をさせて腹部に青龍の一撃が放たれ、ジンを2歩押し返した。あともう少し。間髪いれず再び連撃を放つ。
ガリという音。ジンの足が屋根の一番は次の瓦を踏んだ。
「む」
ジンが足元に気をとられた瞬間。玄武を放ち切り上げるとジンが少し浮いた。
掌破動を放ちジンを屋上から突き落とす。
「ふはは、これで俺に勝ったつもりか!?」
助走をつけ屋根を蹴りジンに向かって飛ぶ。放つのは対空の剣技・朱雀。技を放つ瞬間、6つの斬撃を放つ。
「こいつで…落ちろ!」
同時に6つの斬撃を放つ対空の剣技・朱雀 雷!!
ジンと共に城の裏側の砂浜に落ちる。
ジンは砂柱をあげて激しく叩きつけられた。砂煙が晴れるのを息を整えながら見守る。
「今のは結構効いたぞ」
ジンが立ち上がり口から血を少量吐き捨てる。外傷は確認できない、内蔵系にダメージを与えたようだ。
「おまえは…本当に化け物かよ」
「ここまで俺を追い詰めたのはお前がはじめてだ。そろそろ決着をつけるとするか」
ジンは掌を突き出し構える。あの技か、ただ先程とは殺気の量が違う。言葉通り次の一撃で決めるつもりらしい。
なら、姿勢をさらに低く構える。正直、奥義でもジンの体を斬り裂けるかわからない。狙うのは技が放たれたその瞬間、筋肉が硬直したその刹那に斬り込む。速く、速く、やつの意識よりも速く。やつの細胞が反応するよりも速く。
「…いくぞ」
渾身の力を使い、全身の筋肉を爆発させ奥義・麒麟を放つ。
技の発動に会わせジンも技を放つ。ジンの放った掌底による衝撃で再び砂柱ができる。
砂ボコりがゆっくりと晴れていくとジンが背を向けてたっている。そして、こちらを振り向く。
「まさか俺の防御を斬るやつがいるとはな、見事。ふはは」
ジンが笑うと切り傷から血が溢れだしたが、ジンは息絶えるそのときまで笑い声を絶やさなかった。
どっと疲れが出てその場に膝を着く。まったく、なんてジジイだよ。
「アレン!」
声の方をみるとクレアとキサラが城からこっちに向かって走ってきた。
「どうしてここに」
「最上階に向かっていたときにジンと一緒に落ちていくアレンが見えたから」と、キサラ。
「さぁ、アレン。速く逃げよう」
キサラが俺の腕を引っ張る。その時俺の全身に激痛が走る。筋肉が悲鳴をあげているのだ。
「す、少し待ってくれ。奥義を放ったから」
と、城の方から衛兵らしい者たちの声が聞こえる。
「もう、世話が焼けるわ!」
そういいながらクレアはおれの肩を支えてくる。
「クレア、なんだか嬉しそうだな」
クレアの顔がみるみる赤くなる。
「うっさい!」
クレア脇腹を小突く。
「痛っってぇ」




