第二章 十節
革命軍の基地は山岳部にあり、洞窟を改造されたものだった。まさしく、自然の要塞といったイメージだ。
しかし内部はというと洞窟を改造されたものとは思えないほど整っていた。建物のように部屋が幾つも作られていた。
「革命軍の基地がこんなにもしっかりしたものがあったなんて」
「反乱軍の皆さん。ここを我が家だと思ってくつろいでください。皆さんの部屋は用意しております」
キサラの案内によってそれぞれ基地の中へ入っていく。
ついてきたものの僕にはここにも居場所はない。
「アスカ、少し良いか?見せたいものがある。一緒に来てくれ」
キサラに導かれ基地の奥へ入っていく。
ずっと奥に入っていく。そこには搭のように聳え立つ巨石があった。よく見ると石には細かい文字がびっしりと刻まれている。
「この石は墓石。これまでに散っていった仲間たちの名前が刻まれている。私は一緒に戦う皆のためにも、亡き彼らのためにもこの国を正さなければならない。神などにすがり、本当に見つめなければいけない国民一人一人を蔑ろにするこの国を」
キサラは振り向くと僕の右手をとる。思わず手を引こうとする僕を止めるように強く握る。
「僕に触れちゃダメだ!」
「大丈夫。心配しないで」
キサラはやさしく言葉をかけると僕の手を彼女の胸に当てる。
「わかる?私の鼓動が」
キサラはそのまま僕を抱き締める。
「あなたは人殺しなんかじゃない。あなたのその力は人々を守るための力。私にはあなたが必要なの」
「僕のことを恐れないのか?」
「えぇ、だってあなたはやさしいもの。私たちに力を貸してちょうだい」
この人は僕のことを受け入れてくれる。そう思っただけで嬉しかった。この人なら、僕のことをちゃんと見てくれる。僕のことを抱き締めてくれる。僕のことを恐れないでいてくれる。答えは決まっていた。
「わかった」
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革命軍のサツキと一緒にあやめは部屋で待機していた。浴室からサツキがでてくる。
「久しぶりのお風呂はとてもよかったわ。あやめも浴びてきたら?」
「サツキ。あの女、キサラには注意しておけ」
サツキはシャワーで濡れた髪を乾かしながら答える。
「えぇ、わかってる。同盟を結んだからといって信頼したわけじゃないわ」
「アスカのことは、どうするつもり?」
「私は…」
サツキは少し暗い顔をする。
「私ね、見られちゃったんだ。アスカを恐れている私を。彼の力でいつか私も殺されるんじゃないかって思ったら、怖くてたまらなくなった。アスカはとてもつらい顔をしていたわ。私には彼と共にいる資格などない。あなたはどうするの?」
「私は守護者。力を監視する責任がある」
サツキは顔をあげると悲しそうに微笑む。
「なら、アスカをお願い。私が頼める立場じゃないけど、私の代わりにそばにいてあげてくれないかな」
「わかった。でも彼が道を外れたときは、殺す」
刀を手に取る。この刀は封印の呪印が刻まれている。この刀で所有者を斬りつければ力を封印することができる。所有者の命と共に。
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その夜、歓迎会が催された。とはいえ食事などは簡素なものしかなかったが、革命軍から歓迎の意は感じることができた。
僕は相変わらず人々の輪に入ることができず外で一人時間を潰していた。外は雪が舞っていたが不思議と寒くない。神の力によってまもられているのだろうか。
「あなたから感じる力が増しているからよ」
後ろから突如声をかけられる。いたのはあやめだった。
「あやめさん…」
「あやめてでいい。神の力が増している。それ以上力を使ってはいけない」
「力が増しているって、どういうこと!?」
「言葉通りの意味よ。力を使い続けることであなたは神の力の影響を受け続ける。だから」
「それ以上アスカの決意を歪める真似はやめてくれないかしら」
と、キサラがあやめとの会話を遮るように食事をもって来る。
「キサラ」
「アスカは私と共に戦うと誓いをたてた。私たちの戦いを邪魔するというのなら、あなたを敵と見なすわ」
あやめは基地へ向けて戻っていく。すれ違い様、僕へ小声で話しかける。
「神はあなたに力を使わせようとする。それに従ってはダメよ。あなたじゃなくなるわ」
そのままあやめは基地へ戻っていった。
キサラは持ってきた食事を準備する。
「アスカ、食事ちゃんと食べていないでしょ。持ってきてあげたわ」
「ありがとうございます。でも、なんだかおなかがすいてなくて」
「だめよ。ちゃんと食べなくては。ランスタッド国を出発してからちゃんとした食事をとっているのを見ていないわ」
「わかりました」
食べ物を手に取り口に運ぶ。
「食事は元気の源よ。明日は早速だけど大仕事に取りかかってもらうわ。今日はゆっくりと休みなさい」
キサラは基地の内部へ戻っていくのを見てから食事に手をつけるのをやめる。食事はどれを食べても味がしない。いつからだろうか、だんだんと食べ物の味がわからなくかった。それに食べなくても自然とお腹は空かないのだ。僕が食事をしないのはこれも関係している。
それにあやめが言っていた。僕が僕じゃなくなるとは一体なんなのか。
翌日、基地を出発した僕とキサラ、そして10名ほどの革命軍はテテフの町を目指して出発していた。外は晴れにも関わらず雪がちらちらと舞い冷気を纏っている。
「キサラ、何処に向かっているの?」
「それはついてからのお楽しみ」
しばらく歩くとテテフの村が見えてきた。その外見は高い城壁に囲まれており、村というよりもはや要塞と言った方が正しいとさえ思える。
「テテフの村は別名要塞都市とも言われている。その実態は大規模な騎士養成所。数々の騎士がここで訓練を行い輩出される。この施設には多くの騎士が集まっている。それにここを潰せば次世代の騎士を排除することが出来る」
「そ、そんなこと!」
「アスカ、よく聞いて。ここで戦いをやめたら私たちが殺される。そのまえに私たちは先手を取る必要があるの。わかるわよね」
キサラの言っていることはわかる。殺られる前に殺るしかない。そんなことはわかってる。わかってるけど、ぼくは。
と、兵士たちの視線が僕を刺す。僕を試しているのか。
「私たちが戦っているのはこの国の人々を幸せにするため。この世界の不公平を正す。それが私たちに課せられた使命。そのために降りかかる火の粉は振り払わなければならない」
キサラが僕を強い眼差しで見つめる。
ぼくは視線をそらす。もうあんな思いをするなんていやだ。キサラがぼくの右手を握る。
「あそこにいるのは罪人よ。人を殺した者。人を殺す者。そして、これからも彼らは人を殺す。多くの人を。一度世界を平和にするには悪いものをすべて壊さなくてはいけない。罪の意識を感じているのなら、あなたが負い目を感じる必要はないわ。あなたは私の言うことを聞いただけ、全ての罪は私が背負う」
キサラの言うとおりだとおもった。そうだよ。兵士なんているから戦いが起こるんだ。兵士がいなければロイドは死なずにすんだ。シャルは僕の事を拒絶しなかった。兵士なんて皆いなくなればいいのに。そう、皆いなくなればいいんだ。僕を傷付ける者みんないなくなればいい。僕にはそれが出来る。
「やるよ。皆を守るためなら」
キサラが数歩さがり距離を取るのを確認する。
右手をつきだすと腕に紋章が浮かぶ。
躊躇う必要などない。目の前にいるのは敵、殺さなければ奴等は僕の大切なものを奪う。奪われるくらいなら、失うくらいなら。
僕が奪う側になる。
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荒天の影響により旅路は厳しいものとなった。
テテフの村へあと少しという頃、天気が晴れてきた。陽射しの中、きらきらと雪が輝き辺りを幻想的に魅せる。
「シャル!ようやくテテフの村が見えてきた」
アドルフが声を踊らせる。
「アドルフは一年前までテテフにいたんだったよな?」
「そうだよ。ここで剣を習った。皆まだここにいるのかな。昔の仲間に会うのが楽しみだよ」
アドルフが小走りを始める。
「アドルフ、列を乱すな。テテフの村は逃げたりしない。焦らずとも」
刹那、目の前で爆発が起こる。
「くっ、一体何が!?」
テテフの村、いや村だった場所は一瞬にして廃墟と化していた。
「急ごう!」
ルーランに続き急ぐ。
テテフの村は全ての建物が黒く焼け落ち、ほとんどの建物が崩壊していた。
「だれか!生存者はいないか!?」
捜索を開始して4時間。全員で手分けして村中を探したが一人も生存者は見つからなかった。そればかりか生き物は何一つこの村にはいなかった。あの爆発で村ひとつが瞬時に蒸発。ただの爆発ではない。もしかして、これはリュカの言っていた破壊神の力によるものなのか。
俺たちは村の入り口へ集合した。
「だめだ、生存者は一人もいない」
「こっちもだめだ」
「くそ!一人も生き残りがいないなんて!」
騎士はそれぞれ落ち込んでいる様子だ。無理もない。この村に所縁のある者は多く、知人も多く居たはずだ。
「これから、どうします?」
ルーランが口を開く。騎士たちは皆指示を求めるように俺を見る。
「決まっている。予定通り革命軍を叩く」
「そんなの無理だよ。僕たちはたった22人しかいないんだよ!?」
アドルフが反論する。たしかにその意見は正しい。だが。
「テテフの村を攻撃して得のあるものは革命軍しかいない。俺たちが今革命軍を攻撃しなければ、先程の爆撃は次々と村を襲う。そうなってからでは遅い」
「俺もシャルに賛成だ」
ルーランが賛成の意を唱える。すると他の騎士たちも次々と賛同した。
「アドルフはどうする」
アドルフも覚悟を決めた様子で俺を見る。
「僕もいく。二度とこんな悲劇は起こさせない」
たった22人で革命軍の基地へ潜入するという無謀な作戦に参加してくれる。ともにした時間は短いが皆信頼できるいい騎士たちだ。心からそう思う。
「ならすぐに出発する。敵はすぐに攻めてくることはないと油断しているだろう。今夜日没と共に襲撃をかける」
騎士たちは力強く頷く。
革命軍の基地は軍の予測地点とほぼ一致していた為、探索は容易であった。我々が22人という少数であったことも接近できた要因だろう。入り口付近の木々に隠れていた。日が沈み辺りを暗闇が包む、作戦開始時刻だ。カモフラージュのマントを纏い兜をかぶる。
「シャル。基地の入り口までは近づくことができた。予定通り攻撃行動に入る。私が先行しま…シャル!何を」
「ここから先は俺が先行する。いくぞ」
立ち上がる。
革命軍の門番が反応する。
「な!騎士が現れた!?テテフの生き残りか」
迎撃姿勢に入る門番。抜刀しようと右手を一本目の刀に手を掛ける。と、俺の両脇をルーランとアドルフが飛び出し門番を斬り伏せる。
「我らが守ります。前進してください」
頷く。心強い騎士を、いや仲間を持って実に嬉しい。
正面から侵入していく。通路は狭くいくら革命軍が多いからと言って大勢で一気に襲われる心配はない。少数同士の戦闘なら装備が整っている騎士たちに分がある。だからと言って急がなければ数が多い革命軍に完全に包囲されてしまう。
目的地は分かっている。リュカより授かった刀が敵の位置を教えてくれる。それに従い突き進む。
最深部にたどり着くと革命軍のリーダー、キサラが待ち構えていた。その後ろには大勢の兵士たち、さらに俺達の後ろからも兵士が押し寄せていた。逃げ場などない。あとはただ、前へ進むのみ。
「勇敢にもその程度の人数で騎士が攻めてくるとは思わなかった。それに、テテフの者は皆な殺したはずだが」
「やはりお前たちが殺したのか!?」
ルーランが一歩踏み出した瞬間。目の前を爆撃が襲う。
この爆撃は、まさか。
「それ以上進めば、殺す」
キサラの前に一人の青年が降り立つ。青年は白い着物で黒煙を纏っている。異様としかおもえない雰囲気。その禍々しさはまさに神の化身と呼ぶに相応しいものだった。だが、俺はそんなもの受け入れられなかった。なぜなら、彼は。
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ついに騎士がこの基地に現れた。もう後には引けない。僕は決めたのだからキサラと共に戦う事を。
キサラが迎えるように騎士のリーダーへ言葉をかける。
「勇敢にもその程度の人数で騎士が攻めてくるとは思わなかった。それに、テテフの者は皆な殺したはずだが」
「やはりお前たちが殺したのか!?」
騎士の一人が一歩踏み出す。
天害を放ち騎士を足止めする。キサラを討たせるわけにはいかない。
「それ以上進めば。殺す」
キサラの前に降り立つ。彼女を守るために。
と、リーダーと思われる男が一歩踏み出す。右手を構え、光を宿す。警告したはず、僕に人殺しをさせないでくれ。
「久しぶりだな、アスカ」
思いがけない言葉。
「なぜ、僕の名前を知っている」
「まだ気づかないのか?」
リーダーの男が兜を外す。銀髪に青い瞳。彼は僕がよく知っている人。そして、一番親しい友。
「…まさか、シャル。なのか」
「アスカ、戦いをやめろ。戦いを嫌っていたお前がなぜこんなことをしている。なぜ人を傷付ける?」
キサラがシャルの言葉を遮るように言葉をかける。
「騎士は敵だ。アスカ、焼き払え」
キサラからの指示を受け右手に光を宿す。
「おまえはそれでいいのか?お前が望んでいたのはこんなことなのか?」
「敵の言葉に耳を貸すな。彼もまた騎士。戦いに身を投じ、争いを引き起こす忌むべき存在」
「矛盾しているぞアスカ。人を傷つけたくないから戦いを嫌ったお前が、なぜ人を傷つける」
僕は。
「この争いを止めるためには全てを壊すしかない」
「戦いをやめろ!それを放てばまた多くの人が死ぬぞ」
僕は!
「殺さなければ殺されるぞ!」
「おまえは戦ってはいけない!罪を犯す必要はないんだ」
僕は!!
「おまえの大切な人が次々に殺されるんだぞ!」
「また、人を傷つけるのか!」
僕は!!!
「「アスカ!」」
右手を掲げると輝きを増す。そして
光が、放たれる。




