第二章 八節
あれから夜の森をさ迷い続けた。自分が何処へ逃げているのかすらもわからない。とにかく走り続けた。
そして朝日が差す頃、森を抜けた。そこにあったのは懐かしい我が家。
「アスカ?アスカなの?」
テアがくすりを売りにいく支度をしたままこちらを見る。
「アスカ!無事だったのね!」
テアが走ってくると僕に抱きついた。
「無事だったのね!シャルは?一緒じゃないの?」
「シャルは、キュリオス国で家族に会ったんだ。そこに、残るって」
「そっか」
テアは少し寂しそうな顔をする。
「ごめん。でも、家族と一緒になったなら良いことだよね。シャルは自分の家族と再開できたんだもんね」
「アスカ、帰ったのか」
孤児院の中からルークが出てくる。
「疲れているだろう。部屋で休むといい」
久しぶりの孤児院の皆。皆は前と変わらずやさしく迎えてくれた。ベッドにはいると疲労からすぐに眠ってしまった。
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遥か昔。人々が神を恐れ、崇拝していた時代。
人々は争いをしていた。争いのきっかけは神の一声で始まった。創生神と破壊神。二つの神に人々はそれぞれ付き従い、争った。人々の殺し合いは続いた。
人々は思った。なぜ私たちが殺し合いをしなければいけないのか。一人の男の前に一匹の猫が現れた。その猫は神の化身であり、神を封印する力を与えるという。そこで男は決意した。
男は化身より授かった二本の刀を用いて神に戦いを挑むこととした。それは。
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「アスカ!」
ルークの大きな声で眠りから覚める。と、周りの光景は異様だった。
右腕から発せられた邪気により孤児院はひび割れ、孤児院には子供達の恐怖で泣き叫ぶ声でえ溢れていた。
「アスカ。大丈夫か?」
すごい汗をかいていた。
「ルーク、僕は」
僕のベッドの脇ではテアが左肩を押さえて座り込んでいた。
「テア!?なにがあった…」
「いや!来ないで!」
テアは怯えている様子だった。
右腕には紋章が浮かび、黒い煙が漏れていた。黒い煙は僕の右手から湧き出るように発生し、周囲の触れたものを全てを壊した。僕の意思とは関係なく。
「違う。僕は、こんなこと」
ルークは僕の目をしっかりと見据えて話す。
「アスカ、お前をこのままここへ置いておくわけにはいかない」
「どうして、僕にはここしか居場所は」
ルークは目をそらす。
「すまない。わかってくれ」
孤児院のみんなからは恐怖が感じとれた。僕に対する恐怖。
もう、ここにはいられない。
孤児院をでると外にはサツキと着物の女がいた。
「アスカ。無事だったのね」
サツキが走ってきて抱きつこうとするサツキを止めて急いで距離をとる。
「僕に近づいたらだめだ!」
「安心しろ。おまえから漏れていた神の殺意は消えている」
着物の女が答える。この人はもしかして力について知っているのか。
「あなたは神の力について知っているの!?」
着物の女の両手を掴み問い詰める。女は頬を染めて僕から離れる。
「近づくな!もう」
女はど恥ずかしそうにすると身なりを整えると落ち着いた様子で続ける。
「私は神の力の守護者。どうやらミズーリの巫女は無事に儀式を終えたらしいな」
「儀式のことを知っているの!?」
「ここでは人目につくわ。私たちのキャンプへ向かいましょう」
サツキは会話を中断させると先頭を歩き始める。
反乱軍のキャンプはすぐ近くだった。到着は日が沈んだ時だった。
キャンプの人数は少なく、前回の襲撃から逃げ延びた人は少ないのだろうか。
サツキについてテントのひとつへ入るとレイがいた。右肩に包帯を巻いており戦闘によって痛めた様子だ。
「サツキ!無事だったのか」
「えぇ、レイも無事で何より」
レイは僕を見つけると睨み付ける。
「お前、また来たのか」
「レイ、実は彼のことでお願いが」
あやめがサツキを制止する。
「すまない。長旅で疲れているんだ。少し休ませてくれないか」
あやめがレイへ進言する。
「わかった。隣のテントを使うがいい」
テントを移動する。テントの中へ入るとあやめがサツキに向かって言う。
「力の事は言わないでって伝えたはずよね」
「でもレイは信用できる人よ」
「信用できるか出来ないかは私が決める。神の力は絶大よ。1つの国を滅ぼすことなんて簡単なのだから。彼が悪用しないとは言い切れない」
「わかったわ」
サツキは備え付けのクローゼットを開けると服を物色する。
「戦闘服しか準備していないじゃない。レイのやつ乙女心を全然理解してないなぁ」文句を言いつつ服を品定めしていく。
これがいいかな、と言いつつあやめへ服を投げる。
「いつまでもその古い着物のままって訳にはいかないでしょ。レザーのしか無いけどそれよりはましでしょ」
あやめは目を丸めて服をまじまじと見つめる。服に興味があるようだ。
と、サツキが睨んでくる。
「アスカは外に出てて」
閉め出されてしまった。
しばらくしてOKが出たのでテントの中へ戻る。あやめはボディラインがくっきりと分かるようなレザースーツを着ていた。特に目を引くのは大きく空いた胸元。本来は首もとまでピッチリと閉じるはずらしいのだがサイズが合わないらしく、胸元は谷間まで丸見えであった。すごく目のやり場に困る。
あやめは鏡の前でなんどもポーズを取っており、気に入っている様子。
突如サツキが口を開き、議題を再び取り上げた。
「それで、教えてくれるんでしょ?その神の力について」
サツキはベッドに腰を下ろす。
「えぇ」
あやめも続いてベッドに腰を下ろす。
「神の力が2つあるのは知っているわね」
あやめの質問に頷き答える。
「おまえの力は知っている通り破壊。あなたが望めば全てを滅ぼすことができる」
「それは分かる。この力が僕に教えてくれる」
「そして、儀式についてだけれど」
あやめは立ち上がると僕の右手の裾をまくる。
「この右手。儀式のあと痛みはあったか?」
確かに儀式のあと、あの全身を襲う痛みは現れていない。
「いや…」
「あの儀式は神の力を体に定着させるためのもの。でなければおまえは神の力に耐えきれず死んでいただろう」
あやめは裾を戻すとベッドに腰を下ろす。
「あなたに聞いておきたいことがあるの」
サツキは改まるとこちらに質問する。
「その力をどうするつもり?」
「ぼくは、この力があれば皆を守れると思った。でも違った。わかるんだ、僕にはこの力が破壊しか、殺戮しかできないって。こんな力が何になる。ぼくは戦いなんてしたくない!ぼくは、こんな力を欲した訳じゃない!」
「そう。戦いを望まないなら結構。だけど忘れるな」
あやめは僕の襟を掴むと持ち上げる。華奢な体なのになんて力。
「あの巫女はおまえのために命を捧げたんだぞ」
「…僕が頼んだわけじゃない」
「おまえを助けるために!」
サツキがあやめを止める。
と、そこへレイがテントに入ってくる。
「すまない。取り込み中か?」
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レイとテントの外へ出る。
「緊急の伝令だ。革命軍が我らとの協定に応じてくれた」
「なら、私たちと共に戦ってくれるのね」
「そういうことだ。そろそろこちらと合流する手筈となっているんだが」
その時ガシャガシャと鎧の音が聞こえた。
振り返ると真っ白の鎧を纏った騎士たちが現れた。
初めてみる王国騎士じゃない?
「なんなんだお前たちは」
騎士達は盾を構えると抜剣した。盾の紋章は見覚えがある。
「あの紋章、教会の紋章だ」
「我々は聖教騎士団。神の力は我々が頂く」
レイはすぐに抜剣すると騎士の攻撃を受け止める。
「まったく、次から次に!」
騎士は一人一人がフルプレートと呼ばれる全身鎧を纏っており、こちらの攻撃は尽くガードされてしまう。
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サツキが急いでテントの中へ顔を出すと戦闘開始を告げた。
もし、みんなを助けないといけなくなった場合。ぼくはまたこの力を使わなければいけないのだろうか。不安がよぎる。
テントの中は危険と判断しサツキ、あやめと共に外へ出る。
鎧の騎士はこちらの攻撃など意にも介さないように戦う。
サツキは逃げ道を差すように黙って森を指差す。
「狙いはアスカの力。早くここから逃げなさい」
「でも」
「あなたは戦うことを拒んだ。なら私たちはあなたに戦えとは言えない。そんな者が戦場にいたって邪魔なだけよ」
サツキはすぐに戦闘を開始する。
あんなのと戦おうというのか。反乱軍の装備は防具なんて胸当てや籠手をつけているぐらいで、なんとか急所だけは防げる程度の装備だ。そんな装備でフルプレートの騎士と戦うなんて無謀だ。
と、あやめに手を引かれて森へ連れていかれる。ある程度森の奥へ入ったとき、あやめは立ち止まった。
「私はサツキに恩がある。助太刀に向かう。お前はここで隠れていろ」
「ぼ…」
僕も行く、そう言いたかった。でも、震えていた。体が恐怖していたのだ。
あやめは僕の言葉など聞いていないかのようにキャンプへ走り出していた。
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フルプレートと初めての戦闘。こんなにも戦い辛いとは知らなかった。まぁ当然と言えば当然か。この貧しい国で全身鎧なんて高価な防具はこの国の王でもない限り着ていない。
以前レイに聞いた事がある。フルプレートとの戦い方。鎧には必ず継ぎ目がある。まずはそこを攻め、動きが鈍ったところで止めを刺す。しかし、継ぎ目を攻撃するなんて難しすぎる。フルプレートはかなりの重量。素早い動きはもちろん、長時間の戦闘など不可能なはず。にもかかわらずこいつらは鎧を着ていないかのように素早く動き、攻撃にも疲労は見えない。特殊な金属でできているのか?
と、その時あやめが大剣を振るい戦場に現れる。
フルプレートを纏った騎士がどれ程の防御力を持っていようとあやめの振るう大剣を受けて立っていられるはずがない。騎士は次々と弾き飛ばされる。
「さすが守護者」
「喜ぶのはまだ早いぞ」
うかれるサツキを注意するようにぴしりといい放つ。
弾き飛ばされた騎士達は次々に立ち上がる。
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僕も助けにいかなくちゃ。
頭のなかで何度も何度もいい聞かせる。けれど僕の足が、手が、恐れている。神の力を持っているはずなのに。
…なんて情けない。
と、森の奥から足音が聞こえた。大勢の足音。僕は逃げることもできず足音の聞こえる方を睨み続ける。
現れたのは女性。黒い服を着て腰には小太刀を2本帯刀している。
「君は反乱軍の者か?私は革命軍のキサラ。君たちを助けにきた」




