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4・童話を読んでください

 一か月早いプレゼントのお返しに、何が欲しい? と僕はマリーアンに尋ねた。高価なものを贈るような彼女の誕生日はまだ先だし、七歳の女の子の欲しいものなんて僕には想像もつかない。お人形とかだろうか?

 子どもの頃にクリスアンと婚約していた頃、彼女の誕生日には、大きな花束と養母が選んだ装飾品を贈っていたのを思い出す。最初の頃はとても喜んでくれていたけど、最後の一~二回はそうでもなかった。確か若草色のドレスだったと思うけど、後に彼女の侍女が噂話をしているのをたまたま耳にしたところでは、彼女は淡い色彩は自分に似合わないと思っていたそう。美しい彼女には何でも似合うと思っていたので、僕は驚いたり後悔したりしたけれど、そうやって、お互いの好みさえ知らないままでいたのが、すれ違いの原因になってしまったのかも知れない。だから、誰だろうと、大事な相手の事はちゃんと知っておいた方がいい、と僕は学んでいる。


 マリーアンは、暫くうーんと首を捻っていたけれど、


「じゃあ、絵本がいいなあ。それで、おにいさま、読んで聞かせて?」

「絵本? たくさん持っているでしょ?」

「うん。でも、お気に入りのお話があって、その本の、挿絵が違うのがあるらしくって、前から欲しかったの! でも、お母さまは、絵が違ったって話は同じでしょ、って言ってなかなか取り寄せて下さらなくて。だけど、私はその画家が好きなの。おにいさま、いい?」

「勿論いいよ」


 そうして取り寄せた絵本。有名画家が挿絵を描いただけに装丁は立派だけど、所詮は絵本だから、王族の感覚では別段高価でもない。

 ぱらぱらめくると、確かにとても美しい絵で、幼いながらもマリーアンのセンスに感心する。マリーアンの母君は芸術にあまり興味がないという噂なので、マリーアンは父君の国王陛下に似たのかな。

 白銀の髪をなびかせたヒロインは美しい王妃で、強く愛し合った王が、彼女の危機に孤軍奮闘して、片手を失ってでも彼女を救い出す、という、女の子が好みそうな恋物語。


 春の陽だまりのテラスで、お茶しながら僕はマリーアンにこの本を丁寧に包装してプレゼントした。マリーアンは嬉しそうに受け取って礼を言い、「おにいさま、読んで?」とねだる。その仕草はとても可愛らしくって、僕は密かに、マリーアンが本当の妹だったら良かったのに、と思う。そうしたら、セレイラとの変な板挟みに遭わずに全力で護ってあげられるし、釣り合いのとれた良いお婿さんを探してあげられるのに。僕の代わりにアルシードの養子になったエラードなんか、十歳だけどとても利発で心根も優しいし、安心して見守れるのに、なんて思ってしまう。


「『レーフ。そなたを我が腕に取り戻せたのがわたしの最大の喜びだ』『ああ、でもアーレンさま、こんなに血が……』」


 お話の山場で、マリーアンは涙ぐんでいる。こんなの作り話なのに、純粋だなあ。


「レーフの澄んだ涙がアーレンの腕の傷口にふりかかると、光が輝きました。魔王ブレアードは、その光を浴びて断末魔の叫びをあげながら霧になっていきました。レーフの愛の力が、魔族に勝ったのです。そしてアーレン王の傷口はみるみる塞がっていきました。『レーフ、そなたのおかげだ』。アーレンとレーフは涙を流して唇を合わせ……」

「……ひっく」


 マリーアンが本当に泣き出してしまったので、僕はびっくりして読むのを止める。話は知っている筈なのに、どうしたんだろう?


「マリーアン、大丈夫?」

「うんうん、おにいさま、早く続きを読んで」

「あ、うん。『ふたりは改めて永遠の愛を誓い合いました。もう、魔族の力は及びません。アーレンとレーフの愛が、国を救ったのです。おしまい』」

「……」

「どうしたの。このお話は知ってたんでしょ?」

「うん……でも、絵も綺麗だし、おにいさまが読んでくれたから、すごく感動しちゃって。すごいなあ、お妃さまを守る為に腕を捨てるなんて。私もいつか、そんな相手に出会えたらいいなあ」

「おませさんだなあ。でも、マリーアンは可愛いから、きっとそうなるよ。そりゃあ、片腕がなくなったら、不便だろうけど……」

「おにいさまは? マリーアンと左腕と、どっちが大事?」

「えっ……」


 なんてことを聞いて来るんだ。でも僕は、


「腕より、マリーアンの命の方が大事だよ」


 って答えた。別に嘘をついたつもりはない。大事な人が生きていてこそだから。勿論養父母の為にだって捨てられるだろう……、って、絵本の内容に、何を本気になっているんだ、僕は。


「えへへっ、ありがとう、おにいさま! 私も、おにいさまのためなら、そうするよ!」


 なんて、マリーアンは健気な事を言ってくる。


「女の子はそんな事は考えなくっていいよ。それに、そんな言葉は、将来の旦那様の為にとっておいた方がいいよ」

「でも、そう思うんだもん!」


 ってマリーアンは言う。

 うっとりと目を輝かせて、理想の恋人でも夢想しているのかな。女の子は、恋とかそんな話が大好きなんだね。


―――


 ……後々、こんな他愛のない童話が、現実に迫ってくるとは、この時、僕は想像もしなかった。


※今回登場する童話は、

『悪役令嬢シャーロットが嵐の女と噂されるまで』http://ncode.syosetu.com/n6785dv/

より、作者さまから寛大なお心で使用許可を頂きました。

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